あの日#25


父「え・・・?


  そんなはずはない」



 「私は"ろく"を有してから、ずっとこの数字が"変わる"ことはなかった。」


 

 「それにこの間は、いつもより波動が扱いづらくて、



  体調が優れないから護符を使った。



  気力が奪われすぎたくらいなんだ。」








""の爺「その反応が、数字が変化した証拠だよ。


    これまでよりも自分の波動を、気力を、より封じに持っていかれる。


    鍛錬たんれんの求められる基準が上がってるんだ。」




"いち"の女「封じの結界を作りだす者として、


    あんたに求められる基準が変わったんだ。


    その力を有しているから。


    あんたには可能であると、おかみが認めたからだよ。」




呆れたような、悲しげでもあるような表情を浮かべながら


 「何故この兆候ちょうこうに気づけない・・・」


 「いや知らなんだのか・・・」


 「哀れよのう・・・」



と各々が口にした。





父「そんな・・・」



彼らに伝えられた事実に、だんだんと青ざめていく父の顔に、





とても悲しく、やるせない気持ちが溢れてくる。





僕の友を、



そして友の両親である、里を護ってくれていた方々を・・・。



犠牲に・・・



危機に・・・



さらしてしまったのが・・



僕の父だったなんて・・・。







突然に突き付けられた事実に、


大きすぎる落胆と、


受け入れたくないと思ってしまう抵抗感


あらゆる感情が追い付かないでいる中、


現実は淡々と進んで行く。





"壱"の女「これから、おかみの方が降りてこられる。



     そこであんたはさばかれることになる。



     それから・・・




     ここら一体のまもりは、



     護人もりびとが居なくなってしまったから・・・



     こののち土地ごと消滅する。


    

     人間は住めなくなる。」





"いち"の女は、淡々と説明を初めて現実を動かしていく。





"おかみかた"とは・・・誰だろうか?




護人もりびとが 



もう居ない・・・






"さん"の男「今から私たちは、里の人間の移動を指示して回る。


    "お上の方"には、私たちの中でも"いち"の者以外は


    お目通りが許されていない。」





「当然、息子の君であっても。」




当たり前のように進む現実に戸惑いながらも、


どうしてもいたい、自分の頭で理解できる


答えがもらいたかった。






僕「父さん・・・。


  どうして・・・」



父「違うんだ・・・


 きっと何かの・・・


 その・・・」




父も落胆らくたん混乱こんらん最中さなかで、

まともな会話になどならなかった。



僕「あの・・どうか、僕もここに居させてください!」





訳のわからないまま進む現実と、


言い知れぬおそれを感じる雰囲気に、


この場に居なければと思った。




けれど、



"いち"の女


「それはできないよ。


 不敬ふけいにあたる。


 ただでさえこの事態なんだ。

 

 たった一人のゆるみだなんて、


 力を持つ者として、どうにも説明がつけられない。」











悔しそうな、


悲しそうな、


見ているこちらの胸が詰まるような表情を浮かべ、



壱の女は天を見上げた。







僕「そんな・・・。」






すると突然、



青かったはずの空が、



突如とつじょとして灰色の雲で埋め尽くされたかと思いきや、




再び突然開かれ、あたたかく柔らかい光が降ってきた。



その瞬間、



僕は強い眠気に襲われ、全身の力が抜けて気を失った。









目が覚めたころには、




見たこともない土地に、





里の人間ごと移動していた。




僕たちは皆、




りになってしまったようで、



僕は父とも



友であった彼ら兄妹とも



再会することは・・・



叶わなかった。





プロローグ あの日     完


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神託地の護人 賽 (さい) @sakuyomi_sou_den33

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ