僕は、時間を気にせず寝た次の日の休日の朝かのように、ゆっくりと目を覚ました。

 目を覚ましたといっても、周りは真っ暗で何も視界に入るものはなかった。

 空気や重力という感覚は、死んでから一切感じていなかったけれど、今は少しだけ感じることができる。

 ここがどこで、自分が今どうなっているのか、全く見当もつかない。

 解っていることは、僕は18年目にして交通事故で死んだ男であるということだ。

 つまり、僕の体は死んでしまったが、僕の心が生きているということである。

 この不可解な事実に気付いた時、今までに経験したことがない程に興奮していた。

 最高だ。

 きっと、僕は転生したんだ!!

 今は、卵の中か、母のお腹の中にいるのだ!!

 と思った。

 だから、僕は体が自由に動かせる日が来るのを大人しく待つことにした。

 

 

それから、どれくらいたったのか全く分からなかったが、僕の視界に急に光が飛び込んできた。

 よし!!

 やっと、転生先の新たな人生が始まる!!

 期待で心が、サンバカーニバルに出場している時くらい踊っていた。(ちなみにサンバカーニバルを生前見たこともない)

 それくらい楽しみだった。

 人間?

 それとも竜とか?

 もしかして……エルフとか!!

 なんて思いながら、自分の体を見ようとした。

 ん??

 見えないぞ??

 てか、体が動かない⁉

 僕の体は、どんなに動かそうとしても1ミリも動かなかった。

 根っこが生えたように微動だにしないため、動かそうとすることを諦めて周りを見わたした。

 ん~~???

 僕は、目の前に広がっているこの光景をすぐに理解することができなかった。

 10分くらい経ち冷静になって、あることに気づいた。

それは、ここがどこかの日本の家の中であることだ。

 なぜかというと、僕と同じ目線の奥の方に大きな冷蔵庫があって、そこに日本語のチラシやマグネットがいくつも貼ってあったからだ。

 僕に今肩があるのかどうか分かんないのだが、全力で肩を落としていた。

 この転生先の世界が、あまりにも僕が以前住んでいた日本の家と似ていたからだ。

 全く同じ家ではないのだが、2000年頃の家とあまり変わっていなかった。

 せっかく転生したのに、同じ世界では中身が変わっていないのだから前の人生と大きな変化なんて起きないじゃないか……

 ガチャッガチャッと玄関を開ける音が聞こえた。

 動かせる体を持ち合わせていなかったが、誰かの帰りを身構えて待った。

 すると、冷蔵庫の隣にあるドアから若い女の人が入ってきた。

 彼女は、僕の方を見ようともせずに右側の部屋に上着を脱ぎながら入っていった。

 この時僕は胸を物凄い高鳴らせていた。

 来た!!

 同居人ガチャに優勝だ!!

 あんな可愛い人と暮らせるなんて!!

 これこそ転生された甲斐があったと実感できることである。

 ……神様ありがとう!!

   僕は最高に幸せ者です!!

 またドアを開ける音がして、右のドアから部屋着に着替えた彼女が出てきた。

 そして、冷蔵庫に向かいアイスを取り出し、僕の目の前にある左を向いたソファーに腰を掛けてテレビを見ながらアイスを食べ始めた。

 彼女は、テレビを見ながらよく笑っていた。

 その笑い声は、今まで聞いたことがないくらい綺麗で、出来ればずっと聞いていたかった。

 彼女は、30分くらいテレビを見てから冷蔵庫の前に移動して台所で料理を始めた。鼻歌を歌いながら料理をする彼女もまた綺麗だった。

 そして、ソファーに移動してご飯を食べ始めた。

 食卓がないのを見るとおそらく大学生か専門学生なのであろう。

 ご飯を食べ終え、彼女は食器を洗ってから服とバスタオルを持って冷蔵庫の隣のドアの先へ消えていった。

 お風呂に入るのであろう。

 シャワーを浴びている音を聞きながら、僕が何者なのか考えた。

 予想は、2つ出てきたがどちらも信じがたい話で合ったため、彼女がお風呂を上がるのを待った。

 彼女は、もこもこのパジャマを着てドライヤーを片手に冷蔵庫からお酒を取り出してまたソファーに座った。

 ソファーで髪を乾かした後、お酒を飲みながら普通のスマホよりも薄くて大きなスマホをいじっていた。

 新しい機種が出たのかな??

 それともここが未来の世界なのかな??

 未来の割にはあんまり変わんない気もするけど、あのスマホを見る限り何年か後の世界なんだろうと思った。

 お酒を片手に彼女は立ち上がって、僕の前まで来た。

 そして、僕のことをじっと見つめて一言つぶやいた。

 「君は一生私のそばにいてね」

 彼女の急なプロポーズとも取れる言葉に僕は、固まっていた。

 少したって彼女は、僕をつついた後台所に行ってペットボトルに水を入れ始めた。

 そして、その水をもって僕の前まで来てペットボトルの水を僕にかけ始めた。

 え⁉

 僕は驚いた。

 だけど、大きくなれ~何て言いながら僕に水をかけてくる彼女に悪意は全く見えなくてまた固まってしまった。

 水をかけられると僕のお腹は段々いっぱいになってきた。

 おそらくお腹なんてないんだろうけどね……

 そうか……

 僕は植物に転生したのか……

 僕は、声にならない声で叫んだ。



 最悪だぁぁぁ!!!!

 

 

 

 

 

 

 












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僕を刻むモノ 山浪  @kaigi

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