第五話 ※由美子視点有り

 

「お疲れ様です〜」


 バドミントン部の活動も終わり、部員の皆に挨拶をした私――桜木由美子は帰り出した。今日の天気は生憎の雨で、私は傘を差しながら帰らなければいけない。

 帰り道を歩く私は、拓馬からメッセージが来ていた事に気付き、それを見る。


『さっき偶々見つけたんだけど、この写真懐かしくない? 多分、小学四年生の時の写真だと思う』

 その文面と共に送られたのは、私と拓馬と透の三人がピースサインしてる写真。拓馬の母さんと私たちで公園に遊びに行った時に、撮られたものだと思う。

 当時は小四だったこともあって、私たちの容姿が全体的に幼い。私は少し、懐かしく思った。この頃の拓馬と透は、今よりも可愛げがある。


「公園に寄り道しようかなぁ」


 公園に行くと、いつもの帰り道からは少し外れてしまうが、そこまで遠い場所にある訳じゃない。私は気楽な気持ちで、帰り道を変更した。


 *


 拓馬とのトーク画面を振り返りながら歩いた私は、公園に着き、拓馬と透が話してるのを見つける。しかし、何を言ってるのかは雨の音で聞こえない。ただ、二人の会話が徐々にヒートアップしてるように見えて、それが心配だった。


「拓馬も透も、どうしたのー?」


 土砂降りの中でも二人に聞こえるように、私は大きな声で話し掛ける。

 私の声は上手く届いてくれたようで、二人は私の方を振り向いた。


「良かったら、由美子もこっちに来ないか?ほら、懐かしいだろ!」


 透は瞠目してたけど、拓馬はふわっと笑みを浮かべて私を呼んでくれる。手招きをする拓馬の姿が、こんな雨の中なのに少し輝いて見えた。

「うん」と小さく返事をした私は、公園の入り口から二人の所へ向かう。水溜りが所々にあったから、少し慎重に歩いた。


「――――」

「――――」


 また何か二人が話してたけど、やっぱり聞こえない。何を話してるんだろう?

 あの写真が撮られた頃だったら、二人の考えてる事がかなり分かってたけど、今ではそんなことはない。最近はそのことを、少し寂しくも思ってる。 そう、昨日だって透は……。


「ごめん、俺は帰る」

「え……?」


 やっと二人の所に近づけたのに、突如として透は駆け出した。すれ違いざまに漏れ出る私の疑問。それに応えることなく、透が離れていく。


「大丈夫。ちゃんと仲直りは出来たよ」


 縋るようにして拓馬を見ると、状況が理解出来てない私を救う一言を言ってくれる。私はホッと一息吐いてから、


「それなら良かった」


 と呟いた。――でも、さっきの透は、仲直りした後の姿に見えなかった気が……。大丈夫、かな……?

 今日は駄目だったけど、明日は透と話せることを願い、私は透の背中を見つめる。隣に立つ拓馬も、透に視線を向けていた。その眼差しは、いささか鋭い。



 △▼△▼△▼△



 さっきまでは激しかった雨も、徐々に和らいてきて、今では小雨と言える程になっている。私と拓馬は、一緒に帰ることにした。


 しかし、二人とも傘を開いてる所為で、私たちの間隔は少し広い。……まぁ、仕方ないか。自然と拓馬が道路側を歩いてくれたのが、少しだけ嬉しかった。

 私がずっと気にしてたことを、折角なので聞いてみる。


「そう言えば……、私が来る前は、何話してたのー? なんか、怒ってなかった?」

「いや別に。怒ってなんて無いけどね。でも……お互いの意見を言い合ってるうちに、少しだけ激しくなっちゃったかもな! 男同士ならよくある話だし、あんまり気にしなくていいよ!」

「……まぁ、男子ならよくあることなのかな……?」

「そうそう」


 拓馬が平然としてるのも相まって、私は妙に納得した。流石に私ぐらいの歳になれば、男女で価値観や考え方が違うのは知ってる。

 だから、拓馬と透の絡み合いも、私から見たら理解出来ないものなのかも知れない。小学生の時とは違い、拓馬たちも複雑なことを考えられるようになったので、余計に分からない。


 ――でも、だからこそ、少しずつでも歩み寄っていくのが大事だと私は考えてる。どんなことがあろうとも、時間を掛ければきっと、やり直せる。


 その後も私たちは、仲睦まじく談笑して帰り道を歩いた。



 *** ○○視点 ***



 今日は珍しく、日記を書いた。

 とおる君と話した内容と、その考察。

 他人ひとの人間関係について知ってみるのも、案外楽しいものだな。をした後に人は、どのような行動を取るのか……。

 人生はハッピーエンドばかりじゃないから、きっと面白いのだと僕は思う。


 新品の日記を閉じた僕は、部屋の電気を消して寝た。

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【連載版】どうやら、幼馴染の二人が付き合うそうです。 朝凪 霙 @shunji871

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