ボクを、結構本気で怒らせたね?
アイツと一緒に住み始めてからというもの
ボクの人生には過剰な程に刺激が加わった。
もう、それ無しではとても生きていけない
……とまでは流石にいかないけれども
少なくとも退屈ではない事は確かだった。
ちょっと前までは2人とも高校生で
更にそれよりもほんの少し前は中学生で
顔を合わせれば適度に揉めてきたボク達は
単に昔からの知り合いってだけだったのが
度重なる進路かぶりや偶然の出会いを経て
ふと気が付けば恋人関係になっていて
今では、朝目が覚めてまず見るものは
あの憎たらしい太陽のご尊顔ではなく
もっと憎たらしい男の顔なのだから。
´刺激´というにはおおよそ十分すぎるのが
ボク達の、いやボクの生きてる世界であり
この広い地球上にたった1つだけの幸せだ。
あんなモヤシ野郎を好きになるなんて
あのころのボクでは想像も出来ないだろうな
全くもって、人生というのは奇っ怪な物だ。
そう、実に奇妙なものだと思うんだ
今この瞬間にもほれはボクの背後にある
……というか思いっきり密着しているけど。
はぁーっというため息をついて
深い深い疲れのため息を吐いて
ボクは´身動きのしにくい体´を抱えたまま
首だけちょっと後ろを向いて、こう言った。
「いい加減、離してくれないかい?」
「嫌だよ、そんなの」
ボクは未だに、さっきのハグを受けて
彼に後ろから抱かれ続けていたのだった。
「もう十分だと思うんだ」
「まだ足りないと思う」
こんなやり取りを何度繰り返したか
積み重なる拒絶の言葉はまだ日の目を見ない
この男の強靭なメンタルは押し崩せてない。
それでもボクはめげずに言い続ける
ここで折れたら、こいつのことだから
きっと一日中離さないつもりだろうから。
「動きにくくってかなわないよ
キミは背後霊か何かなのかい?」
「背後霊!いいね、それ」
「……皮肉ってわかるかな、皮肉って」
「俺はお前の背後霊だから離さないぞ」
無邪気な子供のように喜ぶこいつを見て
この手の嫌味は効かないんだったと思い出す。
途方もなくポジティブなこの男に対して
こういう攻め方はご法度なのだ。
やり方を変えなくてはならない
もっと意地悪なやり方に……ね。
「言うこと聞かないんなら
もう、キスしてあげないからね」
ガバッ……という効果音が相応しいか
とにかく風を生み出す勢いのままに
ボクの体に絡みついていたアイツの腕は
遠く離れたところに去っていった。
「許してください」
「どうしようかな」
彼のそれは心からの切実なお願いだった
踏みにじったやりたい気持ちが湧き上がる
ちょっといじめてやりたいような気持ち。
「許してください、お願いします」
「さぁて、どうしてやろうかな?」
こいつはボクにゾッコンでメロメロだから
ある程度は便利に使ってやれるはずだ
特に反省モードのこの男はとても大人しい。
どんな酷い目に合わせてやろうかと
悪巧みをしていると、彼はこう言ってきた。
「背中でも流すし、体でも洗うし
どんなんでも手伝わせて欲しい」
「……どうやら反省してないみたいだね?」
反省モードだと判断したけれど
どうやらそれは間違いだったみたいで
正しくは´おふざけ反省モード´のようだ。
このモードを具体的に説明するならば
´とても凄く、すごくウザイ状態´だ。
「このままノリで籍入れちゃう?
そして結婚式とかあげちゃう?」
「まってくれ、それじゃ話が迷子だよ
ボクの怒りは何処へ行ってしまったのかな」
何がどうしてそこに話が飛んだ?
今はそういう話をしてたんじゃないだろう
´ボクが怒ってる´問題についてだっただろ。
「それはホラ、後で聞くからさ」
「いったいどうしてキミは
主導権にぎってる感出してるんだい?」
「いちおう、彼氏だしさ俺」
「どこまでも茶化すんだね?」
本気の反省とは程遠いこの状態
ボクの結構本気の迷惑の気持ちは彼にとって
ほんの、取るに足らないものだったらしく
こいつはどこまでもふざけ倒していた。
うん、怒った。
「ねぇ」
「どうしーー」
「キミのこと、しばらく無視するから」
「……え?う、嘘だよな…?お、おい!」
「……」
「ま、待ってくれ話を!」
「……」
コイツの悲痛な叫び声を丸ごと全て
完璧に無視をしながらコーヒーを淹れていく
ホント出会った時から何も変わらない
ボクが弄られて、それでコイツが笑って
ちょっとやりすぎてボクが本気で怒って。
「俺が悪かった!ゆ、許してくれぇ!」
それで
この情けない謝罪を優雅に聞き流して
込み上げる笑いを今日も必死に堪えるんだ
ずっと昔から変わらないボク達の関係性は
恋人になろうが結婚しようが変わるまい。
「お願いだ!話を聞いてくれ!!」
やなこった、その口を閉じなよ
ボクはこれからコーヒータイムなんだから
せめてその数十分間は喚いてもらおう
抱きしめられて動きにくかった分のお返しだ
息苦しさと心苦しさを存分に味わうが良いさ
「マジで俺が悪かった、許してくれ」
ボクはお湯を沸かしながら心の耳栓を嵌めた
ちょっと緩み始めてきた口元を隠しつつ。
「……あーあ、清々しい朝だよまったく」
ーーその独り言は部屋の隅に消えていった。
我が家のボクっ娘は素直じゃない。 ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン @tamrni
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