我が家のボクっ娘は素直じゃない。

ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン

腐れ縁だから分かるだろう?


朝目が覚めると`おはよう`と声がかかる

この生活を望んでいた訳では無いけれど

でも、だからって嫌でもないんだ。


なにも進んでこいつと暮らしてるんじゃない

この男がいつの間にか居座っていただけ、

昔からの腐れ縁が突然変異を起こした結果

何故かボクの家に腰を据えてしまったんだ。


「起きろ〜ダメ女」

「そのダメ女にデレデレなのは

一体どこのどいつだったかな」


こんなふうに、からかい合う関係だけど

お互いが…まぁ好きあってはいるから

不本意な生活を強いられていたとしても

何も嫌なことはボクにはない。


「あーはいはい、俺だよ俺

というか早く、おはようのハグするよ」


前言撤回、ぜんぜん嫌、イヤでしかない。

こんな生活クソ喰らえだ出ていってやる。


「突然何を言ってるんだキミは」

「毎朝の日課だろう?おはようハグは」


「そんな日課があるなんて知らないね

ほかの女と間違えてるんじゃないのかい?」


言いながらベッドから這い出て行って

彼の目の前に立ち、哀れみの目を向ける。

記憶喪失と記憶改竄を受けた可能性のある

可哀想なバカ男に…だ。


「ほかの女…あぁそれはエリーだったな

すまんすまん、間違えてしまった」

「ほんとだよ、いい加減にしてくれ」


「お前の場合おはようのキスだもんな」

「…ボクに出ていってほしいんなら

ハッキリとそう言ったらどうだい?」


「…そういえば触られるの苦手だったっけ

ちょっとうっかりしてた、許してほしい」

「ちっとも誠意が足りていないよ

土下座してくれないかい?踏みつけるから」


「俺にそんな趣味ないよエリー」

「…ずいぶん性格悪くなったじゃないか」


ボクのことをおちょくってくるだなんて

少し前の彼ならば考えられないことだ。


昔は言われっぱなしやられっぱなしで

ボクに好き放題されていたというのに

近頃では対等に張り合ってくるのだ。


「お嫁さんに似ちゃったかもね」

「下手くそな口説き文句だね

勉強してきたらどうだい?」


そんな分かりやすい口説きかたされて

顔を赤らめるとでも思っているのか

堂々と自信たっぷりの彼の様子は滑稽だ。



「あ、目逸らしてる、照れてるんだぁ」

「そんなのでボロを出すとでも?

ボクがいつ照れたって言うんだい?

冗談も大概にしてもらいたいものだね、

付き合うこっちの身にもなってほしいね」


「やっぱり照れてる」

「…ボクを怒らせたいのかキミは」

「怒ったって怖くないでしょ」


それを言うのは反則というやつだろう

いつも無表情で無愛想なボクという人間に

ひとつ大きな弱点があるとするならば。

`怒っても怖くない`っていう部分なのだ。


「子供みたいに拗ねるんだもの

怖いよりも、可愛いの方が勝っちゃうよ

…というか、ハグしてくれないか?」


「だからしないって言ってるだろう

`ハグする`か`しないか`……なら、ね」

「そっか、よく分かったよ…」


そしてボクは用事を思い出したかのように

彼と向かい合った状態から離脱する、

余計なやり取りをしたおかげでお腹が空いた

冷蔵庫の中に昨日の残り物が入っていたはず。


ペタペタと裸足の足音を鳴らしながら

彼に背を向けてゆっくりと歩いていく

まるで…ガラ空きだよと、言わんばかりに。


ゆっくり…ゆっくりと。



しかしいつまで待ったところで

思い描いたような展開にはならなかった

ビビってるのかそれとも分かってないのか。


長いこと一緒に暮らしているのだから

小学校からの腐れ縁でやってきてるんだから

今の発言は`急に抱きしめろ`って意味だ。


…お嫁さん扱いするならそのくらい

自分で察して欲しいものだよ。


ボクは、諦めて振り返る


行動を起こさない彼を振り返る。


「キミは臆病者なのかな?」


「いいや、そうじゃない…俺はただ」


「素直に言って欲しかったかなってさ」


「ボクは素直には`言えない`よ」


「ほんと素直じゃないなお前は


…ほら、おいで」


「いや?キミが来なよ、ほらほら」



たまにはこういう朝も悪くはないと

モヤシみたいな体に包まれながら思ったー。

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