第7話 名にかけて

西宮の出来事は翌朝のニュースの数分に取り上げられるのみだった。


少女の死因は、高所からの転落死。


自身の住まいのアパートの下でその遺体は発見され、屋上には彼女のものらしき靴が置いてあったという。


身元確認の結果、それが西宮 舞衣の者と判明した。


司はただ画面越しにアナウンサーの言葉を聞いていた。


....このような形で最初に名を知ることになるとわな。


遺体に他者による外傷はなく彼女以外を目撃したという情報も今の所無い。


警察は、自殺として現在原因を調査中。


それを知り司は神妙な顔つきで目を瞑った。


“もし、もし私が...。”


あの電車が横切る寸前、俺は彼女が言おうとした言葉を聞き返さなかった。


もしあれがアイツなりのSOSだったのだとしたら。


「また助けてやるとはよく言ったものだ。馬鹿馬鹿しい。」


呆れた笑いが出る。


俺は怒っているのか。それとも、嘆いているのか、いや、今更どうだって良い。事が起こってしまった今、そこに理由や意味を見つける行為は効率的ではない。


一つ言えるとすれば、ここにいるのは10万人の人の上に立っていた天勝 司ではない。無力でひ弱なだだのガキだったということだ。


ただただ気分が悪い。


そうして、ポケットからキューブを取り出した。


そのまま、一つ一つ数字を入力していく。後は、ボタン一つで元の世界に戻ることが出来る。


一瞬の躊躇いが生まれた。このまま帰還すれば3ヶ月の在住の条件は成立しなくなる。それは間接的に司本体の死を意味するものだ。


わかっている。この世界で誰が死のうと俺の未来に変化は無い。それはつまり、仮に西宮を助けられたとしても、史実の彼女が生き返ることはない。


だから、行為次第に物理的な意味はない。


物理的には..。


「ふっ、最後にこのような思い残しをしたまま生きながらえたいとは思えんな。」


そう吐き捨てて司はボタンに指を乗せた。


“ストーップっ!!”


耳をつんざくような大声が突如、司に襲いかかる。


耳を押さえて目を開き直すと、再び映像が映し出され、そこにはまた白服の男が立っていた。


“この映像が流れてるってことは、初代さん、自分の時代に戻ろうとしてましたね。しかも、かなり早い段階で”


全てを見透かしたかの声が聞こえる。

しかし、今回の発言には確かな重みがあった。


“それはきっと何か取り返しのつかないことが起きてしまったのでしょう。それも、初代さんがかなり気落ちするレベルの何かが”


“私はその装置では2回しかタイムスリップを行えないとお伝えしました。しかし、本当は一つ裏技があります”


“裏技”その言葉に司は耳と目を研ぎ澄ませた。


“年号を入力する部分に一桁の数字を入力します。そのまま起動させると入力した数字と同じ日数時間を戻すことが出ます”


「何だとっ!?」


“しかし、勿論、それは本来死の間際などの緊急自体に用意された措置です。一度しか使用できませんし、使用した場合、帰還の際のエネルギーが不足する可能性もあります。それと、何かのトラブルに首を突っ込むことはオススメしません。言い忘れていましたが、その世界で命を落とした場合、貴方の精神は元いた世界に戻ることなくその場で消滅します”


“そのリスクを考慮してもう一度考えてみてください。何を選択しても、私は貴方を尊重します”


「ふっ、ふはははっ。」


司は笑いながら顔を抑える。こんな選択の答えとっくに出ている。


「やり直すに決まっている。どうせ死ぬはずの身だ。一生の後悔を残すのに比べたらその程度のリスク取るに足らん!!」


司は早速入力画面に一桁の数字を入力した。


戻るは今より11日前、西宮と初めて学校で出会った日だ。


ー西宮、俺はお前との約束を破った。だが、もう選択を間違えたりはしない。


ー今度こそお前を救ってやる。例え、その為にどんな犠牲を払おうとも。



ー他の誰でも無いこの天勝 司の名にかけて。

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一流社長の学生転職 〜人生の成功者、余命告げられ、インキャ時代の学園へ通う〜 田中 ナカタ @cbt13344

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