推しの聖少女のために俺の【投げ銭】スキルが火を吹くぜ

夏川冬道

推しの聖少女のために俺の【投げ銭】スキルが火を吹くぜ

 KABOOM! 音を立てて崩れ落ちる民家!村人は皆、恐怖の表情に怯えていた。恐るべき破壊をやってのけた一人の筋骨隆々の大男は嗜虐的な表情で見つめてきた。

「偉大なるウロボロス教に楯突くユダ的反逆者イーリスを大人しく差し出せばこんなことにはならんのだ! 早くイーリスを出せ!」

 恐ろしく凶悪な口調で住民を恫喝する大男! あまりにも戦闘力が違い過ぎる! これでは一方的な虐殺ではないか! だがそこに住民をかき分け大男の前に歩み出る一人のプラチナブロンドの聖少女がいた!

「私はここにいます! だから何の罪のない村人を怯えさせないでください!」

 聖少女、イーリスの眼には気高き強い意志の炎が見えた!

「流石は気高き聖少女イーリスだ、哀れな無辜の民に危害を加えられるのを無視できないとは! とんだ甘ちゃんだな!」

 大男はイーリスの気高さを嘲る口調で揶揄する! イーリスは大男に対する闘志に火が付く!

「私が来たからには大丈夫です! 安心してください!」

 イーリスは村人に安心させるような口調でその場から離れることを示唆させた。村人は何も言わずに大男とイーリスから離れた! 大男とイーリスの間に一触即発の空気が流れる。

「イーリスよ! お前はウロボロス教をナメた! 故に貴様を処刑する! 地獄でウロボロス様に懺悔する覚悟はいいか!」

 大男は冷酷な処刑宣告を放つ! 不気味なキリングオーラにイーリスは気圧される!

「くっ、それでも、無辜の民のためにも! 私はウロボロス教なんかに負けません」

 イーリスは剣を抜いた! そしてそのままトップスピードで大男に切りつけた!SLASH!大男の衣服を傷つけた!

「ほう……か弱い聖少女だとは思っていたが剣の腕は立つようだな。まあもっとも、俺にとってはままごとレベルだがな!」

 大男は衣服を筋肉の力で破り捨てた! その肌には竜鱗が不気味に煌めていた! 奴の正体は竜人!

「ひっ……」

 イーリスは思わず悲鳴を漏らす。竜人を見たのはこれが初めてだったからだ。竜人は邪悪な魔族として世界に名前を轟かせているのだ。

「どうした……さっきまでの威勢のよさはどうした? それとも俺が竜人だと知ってそれが恐ろしいのか!?」

「じゃ、邪悪な竜人なんて恐ろしくありません!」

 イーリスは強がるがそれは明らかに虚勢だった!


「これはいけない……このままではイーリス様が負けてしまう! こんな時こそ【投げ銭】スキルの使い時だ!」

 戦場から少し離れたところ、イーリスと竜人の戦いの推移を見守る一人の青年がいた。彼はイーリスに仕える神官騎士。名前はスパーダであった。彼には秘密があった。彼は実は転生者なのだ! 神様から頂いたスキル【投げ銭】で今までの窮地を乗り切っていたのだ。

「センセイ。少しばかりのお金ですが……これでイーリス様をお守護りくださいませ」

 スパーダはしめやかに虚空に投げ銭した。これがスパーダの切り札であった。


「悔しいだろう……格上の敵にいいようにやられるだなんて……いい加減、降参したらどうだろうか」

 竜人の大男はイーリスをいたぶりながら嘲るように言い捨てる。

「ぐぬぬ……まだです!私は負けるわけにはいかないんです!」

 イーリスは歯を食いしばりながら竜人の大男に対して必死の抵抗を続けていた。しかしそれも限界に近付いてきた。

「早く降参しないと楽に死ねるぞ……ん? 急に空模様が怪しくなってきたぞ」

ピカドーン!雷鳴が響く! そしてイーリスと竜人の前に見知らぬ武人が現れた。

「誰だ貴様は、下手に邪魔をすると生命を失うことになるぞ!」

 竜人の大男は見知らぬ武人を訝し気に見つめていた。

「切り捨て御免!」

 刹那、竜人の大男に向けて武人の斬撃が襲い掛かる!SLAAAAAASH!

「なんだ……貴様は! この斬撃は! ウギャー!!」

 驚愕した表情で目を見開いて果てた竜人の大男!そして武人は既に戦場に背を向けて去っていった。

「あの……すいません! なんとお礼を申し上げればわかりませんが……助けていただいてありがとうございます」

 武人は一瞬だけ立ち止まり、イーリスの方を見た。

「良き従者を持ったな」

そしてまたイーリスに背を向けて立ち去っていった。その姿をイーリスはずっと見つめてきた。するとスパーダが駆け付けてきた。

「イーリス様、お無事ですか!」

「スパーダ、私はもう大丈夫です。今は村人の安否を確認して回りなさい」

 イーリスはスパーダにいつものような態度で話しかけていた。どんな時でも他人を優先する聖少女の姿があった。

(イーリス様! 俺も強くならなければ!)

 スパーダはイーリスへの心に秘めた誓いを再度誓った。いつか【投げ銭】スキルに頼らなくても済むように。

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