第2話 アパートの空き室
やっと手に入れたマイホームだ。
…中古だけど。
郊外だけど、結構広いし、安く購入できた。
何かあったんじゃないかというくらい安かった。
隣近所も良い人ばかりのようだ。
隣の古い二階建てアパートは、ちょっと不気味だけど。
でも、住んでいる人達は皆いい人だった。
おばちゃん達は噂好きだけど。
こちらに越して来てから、妻の様子がおかしい事がある。
何かブツブツ言っていたり、窓の外をジッと見つめていたりする。
新しい環境で疲れているのだろうか。
何でもないとはいうが心配だ。
仕事から帰ってくると、家に妻がいなかった。
慌てて探すと、薄暗い庭に座り込んでいた。
人が入れそうなくらい深い穴を掘っていた。
「な、何をしているんだ。そんな穴を掘って…」
こんな奇行をする女じゃなかった筈だ。
声が震える。
「見つからないの……」
意味が分からない。
泥だらけの妻を連れて家に入る。
風呂に入らせて、汚れた服を洗う。
風呂から出てくると、いつもの彼女に戻っていた。
穴の事を聞いても、覚えていないらしい。
取り敢えず、あまり深く問い詰めないようにした。
それからも妻は、発作の様に奇行を繰り返していた。
その間の記憶はないらしい。
やはりこの家は何かおかしいのだろうか。
今日、嫌な話を聞いた。
隣のアパートの一室。
ウチから見える二階の端の部屋。
ここ数年、誰も入ってこないらしい。
他の部屋は皆長く住んでいるが、その部屋だけは3年くらい空いているそうだ。
しかし、物音がするだの、人影を見たなどと、噂が絶えないらしい。
もしかしたら妻も、そこに何かを見てしまったのだろうか。
二階の寝室にいると、ゴソゴソと物音がする。
隣の部屋だろうか。
何か気になり、見に行く事にした。
二階は三部屋ある。
両端が夫婦の寝室で真ん中は、特に使っていない。
夫婦で同じベッドに寝る夫婦もいるらしいが、うちは別の部屋で寝ている。
空き部屋を見に行くと白い毛玉が飛び出して来た。
「どっから入ったんだ?さぁ、もう寝るよ」
ターキッシュアンゴラの入った雑種だが、長いフサフサの真っ白な毛並だ。
飼っている猫が、どうやって入ったのか空き部屋にいた。
猫を抱き上げ、何気なく窓の外を見る。
目の前のアパートの空き部屋の曇りガラスが見える。
誰もいない筈のその部屋に、人影が動いていた。
曇りガラスに映る影がウロウロと動く。
急に立ち止まり、窓へ近づいて来た。
窓がゆっくりと開く。
カチャ。
部屋を出て、扉を閉める。
猫を抱いて、寝室へ戻った。
今夜は眠れそうにない。
翌日、仕事を休んで引っ越しをした。
家具はコンテナを借りて一時置いておく。
今夜はホテルに泊まる。
取り敢えず、会社の近くの小さなアパートを借りて住む事にした。
あの家にはもう、一晩もいたくなかったのだ。
引っ越してから、妻の奇行はまったくなくなった。
やはり何かあるのだろう。
それは、あの家か、それとも……
あの夜扉を閉める寸前に、一瞬…だが確実にはっきりと、見えてしまった。
あのアパートの、あの端の部屋。
そっと窓を開けたあのナニカ。
アイツはまだ、アソコに、あの部屋にいるのだろうか。
誰かが、隣に越してくるのを待っているのだろうか。
隣に住むナニか とぶくろ @koog
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