隣に住むナニか

とぶくろ

第1話 一軒家の女性

 この古い二階建てのボロアパートに越してきて3年が経つ。

 二階の一番端が僕の部屋だ。

 端なので窓が一つ多いのが、得した気分になれる。

 南向きのベランダの他、東の壁にも窓がある。

 まぁ開けてもすぐ隣の一軒家があるだけなんだけど。

 隣はやたらと引っ越しが多く、入れ替わりの激しい家だ。

 こっちのアパートは皆古いようだが、隣の家は3年で8回は入れ替わっている。

 出ていくのはまだ仕方ないが、よくすぐに次を見つけてくるものだ。


 数日前にも引っ越し作業をしていた。

 今度はどのくらい住むのだろうか。

 若い夫婦なのだろうか、赤ん坊がよく夜泣きするようだ。

 家が変ったのが気に入らないのか、ここ数日夜になると泣いている。

 正直煩いが、赤ん坊は仕方がないのかもしれない。

 まぁ泣かない赤ん坊もいるが。


 余りにも静かなので死んでいるんじゃないかと、近所の人が見に来るくらい泣かない子もいるにはいるそうだ。

 病気でもなく、眠る訳でもなく、ただじっとしているらしい。


 今日は一日暇な日で、特にやる事もなかった。

 昼飯を作るのも億劫なので、コンビニで何か買って来よう。

 部屋を出て下に降りると、おばちゃん二人がアパートの前で話し込んでいた。

 下の階のおばちゃん達で、いつもそこで話し込んでいた。

 ペコっと頭を頷く程度に下げて、通り過ぎる。

 アパートの他の住人とは、会った時に会釈をするくらいなものだ。


 今のおばちゃんらの話、なんだったんだろう。

 おかしな話が聞こえてしまった。

 隣の一軒家の事じゃないのか。

 また引っ越していったらしい。

 やはり、何かあるんじゃないかと話していた。

 しかし、4日前と言っていた。

 あの引っ越しは入って来たのではなく、出て行った処だったのか。

 では毎晩聴こえる赤ん坊の声は、いったいどこから聞こえているのだろう。


 結局、何も買わずに帰って来てしまった。

 気を引く物が売ってなかったのもあるが、おばちゃんの話が気になっている。

 気がつけば、もう夕方になっていた。

 逢魔ケ時という奴だ。

 昼と夜の境の一瞬。

 何かが消え、何かが現れるという。

 窓を開けると、隣の家が目の前に見える。

 その二階の窓に女の人が立っていた。

 赤ん坊を抱いている。

「なんだよ。住んでるじゃないか」


 何か違和感がある。

 あの部屋、何も家具がない。

 カーテンもついてないな。

 いや、カーテンをつけない人はそこそこいるらしい。

 あの部屋は使ってないのかもしれない。

 母親に抱かれているからか、赤ん坊は大人しく寝ているようだ。


 でも、あの女の人……以前も見た事がある気がする。

 去年も隣の家にいた。

 一昨年もあの庭に立っていた。

 いや、似ているだけだろうか。

 たぶん、そうだろう。

 何度も引っ越しを繰り返している家だ。

 でも……すぐに出ていく理由が、あの女性だったとしたら……

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