悪役令嬢戦記!【外伝】~大切な人のために戦います~

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【外伝】

辺り一面にはおびただしい数の死体が転がり、大地を赤く染めていた。どうしてこうなった?どうして私はここにいるの?自分自身で問い掛けるが答えは返って来ない。私は感情の無い顔で冷めた目で見つめていた。


「シオンお嬢様!ご無事でしたか!」


そう、私は戦場にいる。私の側近が側にやってきたのだ。


「ええ、大丈夫よ。それより戦況は?」


「ご覧の通り、グランド帝国の軍は半壊して撤退していきました。問題は、国内の宰相派の連中がこれを期に攻めてきている事です!」


私は遠い日に会った王子と王女の姿を思い浮かべる。


どこで歯車が狂ったのだろう?私には前世の記憶がある。この世界は私が前世で遊んだ事のある【乙女ゲーム】であった。確かに私は悪役令嬢のポジションではあったが、十分に未来を変えられると思っていた。そう5歳の時までは………



5歳の時に【判別の儀】と言うのがあり、生まれ持った属性を測る儀式があった。そこで初めてセフィリト王国の王子と王女に出会った。二人とも無邪気に遊んだ記憶があった。しかしそれから1年後、セフィリト国王が暗殺される事件が起きた。宰相や大臣達が、不正を正そうとした国王を暗殺したのだ。そして、王女を半ば脅迫して次期国王(女王)にしようとクーデターを起こしたのだ。将来自分の子供を結婚させ王にするために。それに対して、国境辺境軍を味方に付けた王子は軍の関係者の貴族を使い反旗をひるがえし王都に攻め行った事により内乱が勃発した。王都にも宰相の息の掛かった近衛騎士団達がいて戦力は拮抗した。


弟を暗殺されたフィリアス家も加勢しようとしたが、宰相達はグランド帝国と密約を交わして帝国軍が攻めてきたのだ。まともな兵力を保有するのはフィリアス家のみであり、多少他の地域から援軍を寄越して貰っても、数で勝る帝国軍に国境の砦で押し返すのがやっとであった。そして戦力を帝国側に釘付けにされたのだ。


フィリアス領は海に面しているのでまだ物資の輸入が出来るが、国内は物資が不足して大いに荒れた。表向きはフィリアス家が帝国軍を防いでくれているのでフィリアス領に攻めてくる宰相派や王子派は居なかった。しかし、どちらに与しているかによって戦乱は拡大し、中立派は両方の軍から攻められ滅ばされた為、必ずどちらかの派閥に与みさなければならなくなった。


唯一、フィリアス家を除いて……


そして内乱が長引くにつれ、貴族の嗜みがダンスや楽器から戦える事へ変わっていった。淑女でも剣または魔法で戦えなければ失笑される時代へとなった。私は全属性を扱えるので魔法がメインではあるが接近戦の為、剣術も学んだ。フィリアス領はまだ他の地域より裕福だと思われ、盗賊も多く出現するようになり、戦力の殆んどは帝国側の砦に配備されているため動かせる戦力が少なく、お兄様と私で少数の私設軍を率いて盗賊を退治に廻った。10歳になる頃には3桁を超す盗賊を屠っていった。最初は捕まえていたが、こちらも物資に余裕がなく、一部の脱走した者が更に被害者を増やした事で、盗賊は見つけ次第殺すことになった。


何度も民から第三勢力として立ち上がって内乱を鎮めて欲しいと言われたが、ただでさえ帝国軍より少ない兵力で凌いでいる所に王都に兵力を差し向けるだけの余裕は無かった。



そう、私とお兄様が16、17歳になり成人した事により話が進む。一騎当千の力を持つ私の魔力に、耐えられるだけの身体が成長した事により、内乱を鎮める為に行動出来るようになった。私には全属性があるが魔力が高過ぎて身体が耐えられない問題があった。それが解決したのだ。


まず、グランド帝国に密書を届け、国境砦を放棄する代わりにお兄様の【婚約者】を寄越せと言った。そう、人質である。帝国が砦を渡して王国の足掛かりを手に入ればすぐに契約を破棄してフィリアス領にも攻めてくるのは容易に想像が付いたからだ。それなりの皇族を寄越せと言ったら、第1王女を寄越してきたよ。


まぁ、それはいい。ただ誤算もあった。


王女引渡しの時に騙し討ちに合い、王女が死んでしまったことだ。そしてそれすらも帝国と宰相派の仕組んだ事で、国内から宰相派が攻めて来てる状態だ。名目上は和議の申込みにきた親善大使の王女を殺害したためと言う事で。


「本当に狂ってる……」


『シオン、大丈夫?』


頭の中でひかりさんが話しかけてくる。光の精霊王と契約を結んだ事は秘密にしてある。ただの光精霊と契約を結んだと公開して注目度を下げたのだ。正直、数で劣るフィリアス家が砦で守ると言う有利とは何年も凌ぎ続けていられたのはひかりさんのおかげだ。砦の兵士にリジェネーションなど掛け傷を癒したり、光の球体状態で姿を消して密偵者を捕縛したりと大助かりである。本当に感謝しているのよ。


「うん、大丈夫。この内乱に決着を着けましょう!」

『それは王子と王女を殺す事になるけれど良いの?』


何度か味方になれと言われて面会した事があった。王女に関しては幼い頃の面影は無く、私以上につり目になって目は濁っていた。本気で兄である王子を憎んでいたのだ。恐らく、最初は人質同然だったが、宰相派にあることないこと吹き込まれて1種の洗脳状態にされたのだろう。今では自分で宰相派の為に行動している。一方、王子にも会ったがこちらもいつの間にか妹である王女を殺す事に燃えていた。最初は確かに義はこちらにあったが、宰相派と違いお金が余り無かった国境軍は山賊みたいな行動を起こし、一部、略奪など行っていた。そんな環境で王子も狂ったようだ。王位は自分の物だとして何をしても許されるという考え方に染まってしまっている。


もうどちらも昔には戻れないだろう。ならば私の手で終わらせるべきだ。


騙し討ちの返り討ちにあった帝国はしばらくは動けない。宰相派もこちらがほぼ無傷で撃退したとは思っていない!私が兵士全員に身体強化の魔法を掛けていたからだ。


「お兄様!ひかりさん!宰相派を蹴散らし、次は王子派を倒します!そして内乱を終結させましょう!」


そう、長きに渡って続いてきた戦乱を鎮めるために!


私は大切な人のために戦い続ける!



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