ミスリルの剣

「おーい。リルケス、1本ミスリルの剣を研究していただろう。1本どうにかならないか?時間はかかってもいいそうだ。家の守剣にしたいんだと言っている」

「今はトランク作りに忙しいんだよ。それが終わってからでなら考えてやる。とりあえず話を聞くから1時間ほど待たしとけよ」

そして待たしておいた時間ぐらい延々と喋る依頼主の父親。

「話はわかった600年後に魔法界を揺るがす大事件に巻き込まれるから家宝として剣を所持していたいっていうことはな。しかしミスリルは鍛え上げるのが不可能とされてるんだ。禁術を使えば剣にならないことはないが、それは許されることじゃない」

「禁術とは?」

「難しいことはわからんだろうから一言で言うと人の魂にミスリルをまとわりつけて剣にするのさ」

「なら娘の子を差し出せば作ってくれますか?」

「冗談じゃない。そんな後味の悪い仕事ができるか。魂と言ったろうが永久だぞ生まれ変わることもなく剣が滅び錆びるまで死ぬことも許されない。魂に意志もなくなる。人一人の魂を一つつぶすんだぞ」

「それでも作ってあげてお願いします」

突然来てそう言ったのはサラリーだった。スワリーに連れられてきてる。

「盗み聞きして占いしちゃった。どうしても要るのカシオネ家の剣は魔法使いを守るために。その前に魔王が目覚める。人々はぼろぼろになる。始まりは順調に軌道に乗りかけた学校も休校になる。その中で集められるの頂点に立つ魔法使いたちが…その者たちを守るために剣は使われる。そのものたちが居なければその後の1000年の魔法界はない。フォレスト家もつぶれる…おにいちゃんお願い…」

リルケスは目をつぶり顔をしわくちゃにしながら泣きそうな顔で天を仰いだ。不思議とサラリーの占いがはずれたことはない。

「禁術は理論上の特訓しか行われない。失敗しても責任はもてんぞ」

それだけいうとリルケスは家を飛び出して行った。





マラーの工房まで来てひとしきり誰も居ない工房で怒鳴り散らす。雄たけびをあげる。そしたらマラーの母親がお茶を持って来てくれた。

「苦しいときは素直に苦しめばいい。あの子にはできなかったことだと」

あの子とはマラーのことだろう奇跡の天才児として生まれ、鬼才を余すことなく発揮したマラーが苛立つ姿などみたことない。結局、まだ主の使ってない工房を借りてリルケスは禁術の下準備を始めた。何に使ったらいいかもわからない材料の数々が彼の異才ぶりを物語っている。魂を柔らかくし剣状にする薬。人から魂を取り除く薬、魂を壊れるまで力だけを抽出し続ける薬、魂の精神を崩壊させる薬、そしてミスリルをまとわり付ける薬。一揃い揃えると工房でボーっとしていた。

「泊まっていくかい?」

との言葉に

「いえ、帰ります」

と応えてすでに深夜である明け方まで星を見て朝焼けを見てさて帰ろうとするところをマラーに呼び止められた。

「運ぶの手伝って」

魔法で飛んで帰ってきた彼は朝からできるだけでかい桶とタライを用意し魔法で繋いだ入り口からスコップを持って来てはタライにいれ川からついだみずを桶に入れた。マラーは興奮したように言う。

「黄金比率なんだよ。必要なのは魔法界の聖なる大地からの土と水…それだけなんだ。土を篩にかけ大きさを7つに分類し水の温度を4種にに区分けするそれを混合していくだけで死掛けた者が生き返る聖なる癒し玉の完成だ。自然の法則とはすごいと思わないか?少し違うだけで治癒に効くだけの水や大地が人の生死を分ける玉になるのだよ。もっとも取れた部位や壊死した部位などは治らないけどね。命は救える。魔王界の戦闘に一嵐きてもおかしくない秘術だぞ。これはフォレストで管理しろよ。高く売ってやるからな」

「全部、メモにしたためてくれるか俺には無用だし今は覚える自信がない…」

急にマラーの顔がかげる。慌てて工房に入るマラー。そこの混合薬を見て

「ミスリルの剣を作るつもりか…人の魂を得て…お前が研究していたのは!!違うだろう純粋にミスリルを鍛える技術だったはずだ…」

「頼まれてな娘の子供を差し出すと言われサラリーの占術までつきつけられたら断れなかった」

「知ってるのか?家族は…ミスリルに魂を張り込むには術者の魂もいることを…」

「わからん。ミスリルの研究はもっぱら俺がしてたからな」

「なら、僕の命を使え」

「それこそとち狂うな。お前は20歳前だ。これからどれほどの魔法を生み出すかわからない本物の錬金術師だ」

「僕の魂は現世では終わらないそうだ。そう位置づけられた。その上でサラリーは共に生きて欲しいと言った。

あの女餓鬼であって餓鬼じゃない輪廻を繰り返してる魔女だ。悪い子ではない。だけど俺は必死だった輪廻を超えれるほどの時間が生まれれば狂う。共に生きる何処ろじゃない。いろいろ復活させ新発明させるには責任も恐怖もつきまとうんだ。間違っても輪廻に組み込まれるのはごめんだ。それなら武器として魂朽ち果てる方がいい。

サラリーは好きな者の末路を見届けるべきなんだ。輪廻を超えて寂しさに溺れ責任に重圧され人の命を軽んじてる。輪廻を記憶をもって繰り返すとはそういうことだ」

「マラー、それなら許してやれ輪廻に一人生き続ける苦しみを一番しってるのはサラリーだ…」

「だけど!!僕は耐えられない!!」

「最近、直系と顔を合わさなくなったのはそういうわけだったんだなぁ」

「すまないリルケス…」

「俺に謝られてもなぁ…」





「なんとしても輪廻を断ち切りたいか?」

「断ち切りたい…」

「なら俺と一つになるか?術者の魂も練りこまれる」

「リルケスといるときが一番楽しかったからなぁ」

「サラリーには憎まれそうだが…」

こうして治癒玉…聖なる癒し玉を形見に二人は死んでいきカシオネの剣は誕生した。それが使われるのはまだまださきのことではあるが二人は長い眠りについた。





「どうして輪廻を耐えている私が異常なの?輪廻を捨てた貴方が弱虫なの?永遠を輪廻し続けれるものはいないの?私はずっとひとりぼっちなの?」

サラリーは誰もいない場所で泣き苦悩する。

「ひとりじゃないよ?わたしはずっとサラリーおば様と一緒に生きてくよ」

はっと顔を見上げると同じ年頃の女の子がニコニコ笑っている。

「サリューナ…」

10歳だというのに幻覚まで見るようになったか。死なれたばかりとはいえどうかしている。だがサラリーの占術の特異体質はそれがただの幻覚じゃないかもしれないことも表している。サラリーは消えた女の子を思い出す。

もしかしたら…いつか…





フォレスト家では時々自分の子供にカシオネとつけるようになった。二人の魂に敬して…そしてマラーの工房はフォレストの聖地となっていった。



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マラーの工房~魔法使いになりたくて 外伝 御等野亜紀 @tamana1971

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