安い人間アクセサリーを身につける人間にはならない

ちびまるフォイ

身につけすぎるとかえって下品

「お、新しい時計買ったんだ」


「そうそう。モデルの人間時計なんだ。

 ほら針それぞれに違う人間を使っているんだ」


「凝ってるなぁ。モデルって結構アクセサリ化するの大変じゃない?」


「まあな。でも安い人間をアクセサリにするくらいなら、

 やっぱりいい人間で作ったほうがのちのちいいと思ったんだ」


「その時計を手に入れるまでのお前の苦労は聞かないでおくよ」


新しい人間時計を手に入れてから最初の話題はだいたい時計になった。


アクセサリーは最初の印象を大きく変えてくれるし、

話題を提供してくれるので人間関係の入り口を作ってくれる。


昔は宝石とかで高級なアクセサリーを作っていたようだが、

今は素材が人間になったのでドラマやエピソードを作ってくれる。


「ねぇ、もうすぐ付き合って1年になるじゃない?」


ある日のこと思わせぶりに彼女が話し始めた。


「もうそんな時期なんだ」


「その日はちゃんとお祝いしようね」


彼女の目から"プレゼントも用意してね"という信号が見て取れた。


「なにか欲しいものはある?」


「そうねぇ……私、人間のアクセサリーがほしい」


「考えておくよ」


これはある種、自分への試練だと考えた。


人間アクセサリーを身につけることで自分に近づく人間のランクは上がった。

同じステージに立つ以上、相手からの要求に答えられる人間かを試されているのだ。


まず人間アクセサリー店に行って品定めすることにした。


「なにかお探しですか?」


「実は彼女へのプレゼントを考えていまして」


「でしたらこの人間指輪なんていかがでしょう。

 これはとある資産家から身売りした子供を使っているんです。

 ほら、よく見ると子供の姿が見えて女性に人気なんですよ」


「ちなみに、それっていくらぐらいですか?」


「値段を気にするようなお客様には買えない代物ですね」


「うぐっ……」


値札を見て思わず目をそらしてしまった。

もはや桁が何個あるかもわからない。


もし彼女へのプレゼントを用意できない。

もしくは期待以下のものを与えてしまったら見限られてしまうだろう。


"彼女なし"というバッドステータスは、なにか自分に問題があるのではと思われてしまう。


なんとしてもプレゼントを用意しなくては。


「これってローンで払うこととかできますか?」


「できません。人間加工をしている人にもキャッシュでお支払いする契約ですので」


「加工……それだ」


頭の中で突破口が開いた気がした。


人間という素材はこんなにもたくさん世にあふれている。

なのに高い金出して人間アクセサリーを買っているのは加工ができないから。


料理ができないから外食続きでお金を散財しているのであれば、

自炊できるようにすればいい。それだけの話しだった。


決行日の夜、顔が見られないように顔全体にマスクを付けてこの街では一番の金持ちの家に侵入した。


「だ、誰だ君は!? 金か!? 金ならやる! 助けてくれ!」


主人は怯えて何度も命ごいをしたが、自分の心は驚くほど冷静に取るべき行動を整理していた。

人間をアクセサリーにするには手順とスピードが大事。


アクセサリーにしたい人間を手早くおとなしくさせると、

専用の液体につけて人間の体を凝縮させる。


慣れてしまえば難しいことではない。

この日のために何度もホームレスを使って練習してきた。


「よし! できた!!」


お金持ちの人間をアクセサリーにすることができた。

手のひらに収まるほどのサイズ感。


これを身に着けていれば「あの金持ちをアクセサリーにしている!すごい!」と、

アクセサリー化した人間よりも上位の存在であると暗にアピールできる。


彼女もきっと喜んでくれるだろう。

プレゼントできる日が楽しみだ。



翌日、ニュースを流し見している彼女がぽつりとつぶやいた。


「ねぇ見て。豪邸の旦那さんが消えたんだって」


「ああ、そうなんだ」


「あの人が手に入ったらどんなにいいんだろうね」


なんとなしに言った彼女の言葉に自分のプレゼントが確実に喜んでもらえると確信した。

はやくプレゼントできる記念日になってほしい。


「でもかわいそう」


「え? なにが?」


「ほら、旦那さんがいなくなったから生活も維持できなくなっちゃうじゃない。

 残された奥さんや子供は死ぬよりも辛い毎日になるんだろうなって思う」


「そうだね……」


彼女の言葉に自分の考えの甘さを指摘された気がした。


人間としてのハクがつくからと金持ちをアクセサリーにしたが、

それで残された人や大事に思ってくれていた人はどう思うだろうか。


その人のいなくなった世界で生きるようにと強いることになるだろう。


仮に、今のアクセサリーをプレゼントしても彼女は喜ぶだろうか。

残された人間の気持ちに思いをはせて心を痛めてしまうかもしれない。


笑顔になってもらいたいのに悲しませてしまう。


そんなことはさせない。

自分がやるべきことはひとつだった。




交際から1年の記念日がやってきた。


「さあ、プレゼントだよ」


「え、本当に!? なんだろう~~?」


彼女は渡されたプレゼントを期待たっぷりに開けた。

なかのアクセサリーを見た彼女は目を一瞬大きく開けてから、黄色い歓声をあげた。


「ありがとう! 本当に嬉しい!!」

 こんなにたくさんの人間がつらなった人間ネックレスなんて高いんじゃない?」


「値段なんていいじゃないか。君を想う気持ちを表そうとしたら、安くはならないってだけだよ」


彼女は嬉しそうに何人もの人間がぶらさがるネックレスを身に着けた。


「こんなに喜んでもらえると頑張ったかいがあったよ

 家族も友人もまとめてネックレスにするのは大変だったんだ」


これなら残された人も寂しくならないし、彼女も喜んでくれて本当によかった。

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