第8話「気持ち悪い日々Ⅱ」
[健杜 side]
「━━━先程、緊急が入りました。今日正午過ぎ頃、犯人不明の殺人事件が━━━」
「列車に大幅の遅延が生じております。運行再開につきましては午後三時を予定しております。誠に申し訳ありません。」
「━━━現在、東北地方で起きた殺人事件は大抵"異例"絡みが定番となり混乱渦巻いているって感じですよね━━━━」
「こちらは道路整備の為通行止めとなっておりまーす!申し訳ありませんが━━━━」
「━━━中継が繋がっております。杉田さーん!
"はーい!こちら杉田です。わたくし、今岩手県の盛岡に来ておりますが、このように討伐隊が警察の援護をしているのが見えますでしょうか。こちら━━━"」
2018年3月14日。
"異常者"に関するニュースだらけ。
気付いたらこんな世の中になっていた。
いや、俺が知らないだけで元々こうだったのかも知れない。
つい最近"異常者"だの"異例"だのという言葉が流行りだし、そいつらが世の中を明らか狂わせた。
今日も外が真っ青な快晴だってのに、曇っているように見えた。
ヴィーーーーーッ!ヴィーーーーーッ!
━━━緊急事態発生!緊急事態発生!!━━━━
コノ警報ガ聞コエル区域二居ル
市民ノ皆サンハ、直グ二避難ヲ
シテクダサイ。場所ハ宮城野区
榴ヶ岡周辺デス。
場所ハ宮城野区榴ヶ岡周辺デス。
レベルハ5デス。
ヨッテ、地下シェルターヲ解放
シマス。地下シェルターヲ解放
シマス。
この警報も腐るほど聞いた。
お陰であるのかそのせいであるのかは
どうでもいいが、
避難に関してはみんなお手の物らしい。
最近ふとこう思う。
"化け物に怯えて暮らす日々なんて無くなればいいのに"
なんて。
これはどこの誰もが願っている客観的なことに過ぎないだろう。
そう思って俺は近くの地下シェルターに続く階段を周りの流れに任せて目指す。
途中、俺はちょうど近道になりそうな
小汚い路地裏を見つけた。
俺は、クルっと方向を変えてそこを
なんの躊躇もなく足を踏み入れた。
少し息が上がり始めてきた。
ここには"ヤツ"らは来れないだろう、
そう思い、呼吸を整えるため
走る足を止める。
すると、背後から
「止まれ」
と誰かに声をかけられる。
なんだと思い、後ろを振り返ると
額に銃口を打ち付けられた。
そして、
「やっと見つけたぞ、"悪魔の元凶"め...!」
と、敵対的な鋭い眼をこちらに向けながら声を震わせて言った。
あまりに急だったもので俺は尻もちを
ついて、少しずつ後ろに下がる。
その人は銃を身体を動かさずに、
確かに撃ち抜くことができるように
銃口だけを向ける。
よく見ると、
その構える銃口は細かくカタカタと
震えていた。
しかし、状況は何一つ変わらない。
尻もちをつく俺を見るなりその人は
スゥーーっと息を吸って、
「隠しても無駄だ...。そ、その剥き出しの殺意と、目を閉じても見えてくる嘲けたような鬼の形相...」
と。
あちら側からしたら罵っているのだろう。
俺は理解出来なかった、そして以前の出来事があったせいか恐怖を一切感じず、
素っ頓狂に
「は、はぁ?」
と応えてしまう。
その人は舌打ちを1つ鳴らし、
怒号のごとく声が響く。
「隠しても無駄だぞッ!!!
いい加減正体を現せろ!!」
が、その声も震える。
どうやら逆鱗に触れてしまったようだ。
お陰でその後の銃口は額に勢いよく
当てられてしまう。
流石に怖いと思い始めた。
俺は冷や汗を流し、
必死にこの状況から逃げられること
ばかりを考えてしまった。
「もういい!死ねぇ!!」
さらに相手の逆鱗は逆立つ。
もうすぐ撃ち抜かれる、
そう悟り目を強く瞑った。
「あー!今戦闘許可命令下ろしてないの
に銃出した!」
聞いたことのある声がした。
目を僅かに開けて聞こえた方を見ると、
この前、助けて貰った女の人?
また助けに来てくれたのか...?
目を見開いて今度はしっかりと彼女を見た。
しかしかいた冷や汗が邪魔を
してくるせいで直ぐによく見えなくなる。
男の人も彼女へ視線を移し、怒鳴る。
「隊長には見えないのか!?こいつは悪魔なん
だぞ!!?やるっきゃないだろうさ!?」
彼女はハァーッと大きく溜め息を吐き、
丸で母親のような叱る口調で
「晃輝、命令違反だよ」
と、目の前の男(晃輝)に言う。
その彼女の言葉は晃輝へ響いた。
晃輝は銃口を俺からいやいや逸らす。
その動作と同時に彼は歯軋りをする。
緊張と気まずさが辺りを覆い、沈黙が響く。
俺は晃輝に恐る恐る質問をした。
「...なんで俺を、殺そうとするんですか...?」
どうやらまた逆鱗にまた触れて
しまっていたようだ。
晃輝は歯軋りを更に激しくする。
そのせいで彼の表情は険しくなった。
しかし、彼は黙っているままだ。
カシャンッ!!
と晃輝の手から銃を落とす。
更に沈黙が続いた後、
「...お前は、悪魔だ。悪魔なんだ...!」
晃輝は震えながら答えた。
俺はその言葉に疑問を持つが、
その場の雰囲気で強張りが増し
彼に質問を出来なくなってしまった。
"悪魔"。
この単語に何故俺が関係しているんだ?
何故俺が"悪魔"と罵られないと
いけないんだ?
今までみんなから忌み嫌われること無く
生活出来ていたはず。
そんな悪の手に自身を染めた記憶すらない。
一体、なにが...。
すると突然、
ああぁぁぁ、ぁぁああぁ...。
と、
男性の引きずるような声が辺りに響き渡る。
近くには俺らしかいない。
声の元を探るために俺らは警戒する。
「こりゃぁこっち来そうだね...」
そう言うと、彼女はゆっくりと足音を
たてないようにこちらに近ずいて、
俺の後ろに回り込む。
晃輝も落とした銃を拾い上げ、
俺に背を向けて銃を構える。
そのピリピリした空気が俺にも
伝わってくる。
そして俺は察する、
また、"ヤツ"が俺たちを殺しにくる。
瞬間、
伸びた何かの触手が俺の目の前で
顔をつくり、
「ミツ...ケ、た。」
と俺に言った。
喪失の児ら 八月 海老 @NyaLL
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