第7話「変死」

「...着きました。」


灰色の大きな建物。

取り敢えずまた2人はついて行く。



静かな廊下を進んでいると、警察署の人は、


「検死によるとですね、少し事故による衝撃で左脇腹が抉れてしまっていているらしいとか...」


と少し濁すように小さめな声で言う。

こちら側の空気を察したのだろう。






「ここです。」


廊下で三人は立ち止まり、

部屋の中を一人覗ける程の窓に向けて

警察署の人は俺たちを案内した。


「...ッ」


見えた先には少し黒い素足が被った布からはみ出ている誰かの姿があった。

まだその時は実感もなくただ漠然とした寂しさが残る。

隣では母さんが顔を手で覆い隠し、うずくまっている。

指の隙間から涙がつたっていくのが見える。


「お宅のお父様は有名なレスキュー隊の一員だと、最近までテレビで有名だったのに。きっと殉職を遂げたのでしょう、夢純様、ご冥福をお祈りします」


警察署の人の話なんか気まずい雰囲気と重い空気だけが漂う中、時間は刻刻と過ぎていく。

ただ目の前の死体を前に、拳を握りつぶす。

泣くのを堪える為に。



「...中、入りますか?」


今の言葉がこの空気を少し軽くさせる。

でもそれは一時のこと、更に空気は重くなる。


声をかけてくれたのはさっきとは違う人。

その男の人はそう言って、部屋をなるべく静かにゆっくりと解錠した。


俺はどう答えていいのか分からず、しどろもどろすると、


「いえ、もう帰ります...」


と、既に立ち上がり来た廊下を戻ろうとしていたお母さんがそっと呟く。


俺もそれに続きお母さんの跡を追う。

そして男の人に、


「すみません」


の一言を置いていった。




[the man side]


これは、ある2人の男性の会話である。


「今回の事故についてなんですが、これって本当に事故で片付けられるんすかねぇ」

「んー、少なくともこの傷は"異例"絡みがあるだろうな」

「"異例"っすか」

「あぁ、そしてここらじゃぁちょっと有名な夢純さんとこのお父さん。あの人、結構危ないとこでも命張って助けに来てくれるって中々ヒーローみたいな存在だったのにな」

「そぉっすね、惜しい人を亡くしましたね...」


俺はズボンのポケットにおもむろに手を突っ込み、少しシワの入った柔い煙草の箱を取り出す。

そしてそこから1本取り、少し乾いた唇で咥える。

胸ポケットからライターを出して、一、二と石を擦る音を鳴らし、出た小さな火を煙草に近づける。


フゥー、


と一息吹かす。

煙草特有の臭いと薄灰色の煙が狭い通路を覆い尽くす。



「くっさぁ、煙草臭い〜」


聞き慣れない声が。

その声の主が煙の中シルエットをつくりこちらに近づいてきて、


「少々、よろしいかな...?」


と俺らに。


「「誰だ!?」」


下がってて。


と後輩に手話でサインを贈る。

後輩は刻っと1つ頷き、俺の背後に立つ。



「ワイ、この匂い無理なんだわ〜」


さっきの声の主。

その主は黒色タキシードを着て通路を塞ぐように立つ。

そしてこちらを見下し、こう言う。


「1つ、提案をしよう」



取り敢えず先輩である俺が前に出ないと...!


「何をする気だ...!」


明らかに普通の"人"じゃない。そう思った俺は警棒を取り出し、後ろにいる後輩を庇う様に構える。


その俺を見るなり、相手はククッと不気味に笑う。


「やめましょぉよぉ...、そんな脆そうな枝を使って戦うだなんて見てて恥ずかしい」


相手は俺を煽る。

そして俺は相手とジリジリと睨み合う。



すると、


キイイイィィィィィンッッッ!


と右耳元を耳鳴りを置いて何かが通り過ぎた。

その瞬間プスッという音がもう片方の耳から聞こえる。


この一瞬の出来事で俺はその場で固まってしまう。



後ろをゆっくりと振り返ると、手を震わせながら拳銃を構える後輩の姿が。


「そいつ...、関わっちゃダメなヤツっす...!」


そして、発した声も震わせる。



俺は何がなんなのか理解が出来なかった。

どこ見たって何も分からない。

強いていえば、


後輩が撃った銃弾は相手の右胸を貫いていたこと。


しかし、


「いてぇ〜、こりゃワイじゃなかったら死んでたぞ」


満更でもなさそうだ。

相手は口から血を垂らし、気持ちよさそうに笑い出す。

さらに体を反り、手を額にあてる。


そして、


「お前らぁ、邪魔だから喰っていぃ???」


また見下しながら言う。



何を言っているんだ?

俺は未だに固まる。



っっヒュっ


何故か急に意識が飛びそうになる。

また何がおこ...、








熱い。



お腹が物凄く熱い。


視界が濁り見にくくなる。

その目で相手を見ると、

相手の右腕が赤々'熱い'しい触手になっていた。


しかしそんなの'痛い'見る暇は無かった。


ここで悟る、

俺はやられ'痛い'たんだと。


俺、どうなっちまうんだろう。

死んだらどうなるんだろう。

死んだら何処に行くんだろう...。





ドサッと膝から崩れ落ち倒れる。



この頃には熱なんて感じなかった。

そうだ、後輩は...


ッ!!



首から下が雑に抉られており既に先に倒れて死んでいた。

身体と首の断面からは不思議なことに血はあまり流れない。




その姿を見て、何故か安堵をする。


一緒に...逝こぅ....な......





「こんな派手じゃあな、そろそろ目立ってもいいのかねぇ...」


相手はまたニヤッと笑い、残る煙草の煙を払いながら立ち去って行った。


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