第6話「気持ち悪い日々Ⅰ」
ゆっくりと目を開けた。
身体がある。
意識もある。
俺はうつ伏せになって倒れていた。
目にはクマが思い切り付いていて違和感を覚える。
そのままの姿勢で魂が抜けたかのようにボーッとしてしまった。
身体が怠く、動かす気がなくなってしまったからだ。
またそのまま数分経ち、やっと俺は身体を起こす。
手をついて上半身を持ち上げると、
床には涎が滴り落ちていた。
そんなのは気にせず、膝をつき立ち上がった。
ッッゥウッ!!
急な吐き気に襲われる。
俺は口を手で覆い、
吐き気を耐えようとする。
千鳥足になってフラつき、
とうとう壁に寄りかかった。
冷や汗が沢山流れてゆく。
苦しい。
ひたすらに苦しい。
焦点が合わなく、周りがボヤけて見え始める。
焦りを本格的に覚え、息も荒くなった。
辛うじてふらふらで立ち止まっても、
トイレの方まで辿り着いた。
便器へ思い切り吐いてしまう。
胃液を出すほど吐いた。
何も出せなくなるほど吐いた。
しかし吐き切ったというのに、
この気持ち悪さは全くもって抑えられなかった。
状況が理解出来ない。
一体今日は俺が何をしたって言うんだ。
そのまま意識が残留する中、身体が人形のように動かなくなった。
そこから三十分ほど経った後、ようやく動くことが出来るくらいに身体の調子が戻った。
その出来事は意識が今にもとびそうだった俺からしたらほんの一瞬の出来事のようにも思えた。
そうだ。
と、俺はおもむろに携帯を確認しに口周りを袖で拭ってから先程のことはどうでもいいかのように置き去りにした。
床に落ちていた携帯を手に取った。
「...お母さん...」
俺が倒れた後も吐いていた時も電話は繋がっていたようだ。
携帯に耳を当てると、微かにお母さんの嘆いている声が聞こえてくる。
どうしてよ!!なんで私を置いていくの!?、と。
同時に知らない男の人の
落ち着いてください!
という声も聞こえる。
携帯越しの2人の声は響き渡る。
きっとこれは病院か何かの建物の中で起きているのだろう。
俺はそっと通話を切った。
急に部屋の中がオレンジ色に照り出した。
瞳孔がギュッと縮まり、目を細くする。
その目で外を見ると、朝陽が頭を出しているのが見えた。
携帯の方に視線を戻すと、
「五時...十七分...」
もう夜明け、いや、もう日の出の時間だった。
そして、バッテリーの残量が0%となってプツッと画面が真っ暗になった。
[ケンジside]
「あれ?ケンジー、ケントは?」
「あぁあいつならお父さんのことで休むってよ」
「今日やってたニュース見た?石巻の」
「あの大事故、夢純君のお父さんが巻き込まれたらしいよ」
「最近多いよね〜」
「てか今日三限なんしょ?どっか寄らね??」
「え、あいつ居ないの?えぇー、あいつに会ったらこの予定表
渡しといてくんね?」
夢純、あいつ大丈夫かな。
今日の学校は健杜のお父さんが巻き込まれた事故の話題でいつも以上にザワザワしている。
━━━━━━━1時間前━━━
┃「━━━━美味しい〜!こんなのが家で手
┃軽に食べられるんですね!━━━━━」
┃
┃いつもの朝でいつもの学校が
┃始まると思ってた。
┃
┃「ぁあー、ねみぃ」
┃
┃大きなあくびを呑気にひとつ出し、
┃朝ご飯を食べようと椅子
┃に着いてぐでていた。
┃
┃その時だった。
┃ふと、テレビでやっていた
┃ニュースが耳に入る。
┃
┃「続いてはニュースモーニングです。
┃昨夜未明、石巻市の国道398号線
┃交差点にて死者四名の
┃交通事故が発生しました。
┃死者はそれぞれ別々の車に
┃乗っており━━━━」
┃
┃そこに母親がトーストを
┃二枚のせた皿を置き、
┃
┃「最近事故だの事件だの、
┃物騒な事が多いわねー。
┃なんでこんな世の中になったんだか...」
┃
┃と愚痴を吐いて台所にスリッパの音を
┃立てながら行ってしまった。
┃
┃その母親の言葉を聞いてテレビ
┃の方へ改めて耳を傾ける。
┃
┃「━━━━被害者は約七名、
┃内死亡者が二名と━━━━━━」
┃「ほんとだ、物騒」
┃
┃俺はボソッと口にトーストを
┃咥えながらボヤいた。
┃カリッの音と共にトーストを
┃むしゃむしゃと食べる。
┃その時、
┃
┃「死亡したのは、豊香瞳美さん十五歳、
┃ "夢純亮太さん四十六歳"
┃ の二名です。」
┃
┃
┃「夢純亮太って...ング、
┃ケントの父さんじゃね...!?」
┃
┃今ので目がバッチリ覚めた。
┃と、同時にそばに置いていた携帯が
┃ピロンと通知が鳴り、
┃一通のメールが届く。
┃
┃健杜からのメッセージだった。
┃
┃『今日、お父さんの件で休む。』
┃
┃という一言だけだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━
[健杜side]
<警察署にて>
まだ実感が全く湧かない、
お父さんが死んだなんて考えられない、
受け止められない、
納得いかない。
現実で起きた出来事であったことに理解が
追いつけないままだ。
その頃お母さんはやるせない表情して隣に座っていた。
「夢純さん、準備出来ましたのでこちらへ」
警察署の人が俺らを横切りながら言った。
なんの準備が出来たのかは分からないが、とりあえずついていくことにした。
途中、お母さんが、
「あのぉ、何処へ行かれるのです...?」
と渇いた声で言う。
それを聞いたその人は一言も言わず、安心してくださいと言わんばかりの優しい笑顔をこちらへ向ける。
そして、外を出て俺たちは車でどこかへ
行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます