15話 ————新たなる『一』————
ひとつの警告音、いや、報告音に頭が貫かれる。
重い頭を首で支え、吐き出しそうな胃液を喉で押し止める。キョウカから受け取った服と違い、今の自分は下着の着用を許されていなかった。手術着の様に簡素な見た目は、布製の雨合羽と言った感じ。内腿の違和感に慣れ始めた時、硬いベットから溢れる様に降り立つ。冷たい床が脳の覚成を促し、無機質な電子音と空気の所為で、キョウカの人肌を求めてしまう。
「‥‥もう五日」
自分を見下ろす窓ガラスはマジックミラー状で、こちらからは何も見通せない。着替えもシャワーも排便も、鏡写しを思わせる似た部屋での行為を強制。初日は耐え難い羞恥心に悩まされたが、住めば都とはよく言ったものだ。けれど、やはり住むのなら都。この様な牢獄は許し難かった。
「────キョウカ、待ってろ」
手首へ力を籠める。初日も二日目も、まるで薬でも施されていたと錯覚する痺れを受けていたが、今は握り拳一つは作れる様になっていた。崩れ落ちていた膝も骨で立て直す事が可能となり、青い星を見た記憶を最後に、目覚めてから続く監禁生活に別れを告げる─────蒼炎を纏わせた白い槍を呼び出す。
「何も変わらないか」
青く燃え上がらせた目を、高く備わった窓ガラスへ向けた。青い極光を受けた窓ガラスは忽ち砕け散り、数人の悲鳴を響かせる。やはりいたのだと舌打ちをし、槍から生まれる蒼炎の矛先を高く掲げた。
部屋の天井全域を炎で包み込んだ途端に、けたたましく火災報知機が鳴り始める。
「保護をしていたのかもしれないが、俺が動けない間に説明をすべきだった。そして再三、俺は頼んだ筈だ、キョウカに会わせてくれと。珍しい地球外知的生命体でも発見した感覚なら、残念だった」
白い壁の中央、そこには黒い扉状の溝が掘られていた。この部屋にはシャワーとトイレに繋がる扉が存在しているが、終ぞ、目の前の黒い溝が開かれる事はなかった。だから自分は槍を振り下ろした。瞬時に白い壁を包み込む蒼炎の掌は、慈悲なく壁を握りつぶす。正確に測る試しなどなく、そんな状況訪れる訳もないが、恐らくは耐炎耐火仕様であろう扉は安易と口を開き、白一色の壁と光に包まれた喉奥を晒す。
「変わらない。鏡の世界か‥‥」
細長い廊下へ踏み入り、足音だけを響かせる。慣れない病院着が不快だが、キョウカを見つけるまでは泣き言の一つも呟けない。もし、この施設がキョウカを産み出した機関だとすれば、自分とは真逆の扱いを受けていてもおかしくない。決して弱みを見せない誇り高い彼女だ、助けてなんて叫べない。
「何処だ。何処に居るッ!?」
駆けたい足はおぼつかず、叫ぶ声だって蚊の泣くようだった。
やはり、薬でも打たれている。自分の声に脳が揺れ、吐き気を催す。
「──────ッ!!!!!」
喉から毒でも吐きそうだった。耳が痛む程の絶叫の後の無音。槍を杖代わりに、キョウカの顔で自分を奮い立たせ蒼炎を差し向ける。黒い装甲服には、見た試しなど無いが梵字に似た模様が描かれていた。だけど、どれだけ頑強な鎧であろうと神々も魔人も焼き殺した炎には全くの無力。
寸前で曲がり角、途中の扉へと隠れた兵士達は、炎が過ぎ去るのを待ち続ける。けれど、この炎は自分の意思そのもの。この心が折れない限り、止まる筈がない。キョウカを求める心は決して砕けない。
「世界一つ滅ぼした俺に、勝つつもりか?」
矛先の炎は宇宙の色となる。空気を焼き焦がす炎は一直線の極光と成り、白い廊下を上下に分断する灰塵の一撃に至る。天井が焼け落ちる光景を目の当たりにし、初めてこの世界でも殺人をしたと気付く。恐る恐る、杖代わりの槍に頼りながら壁の一室、扉の奥を覗き込む。そこは壁一面のモニターと青い水に満たされたガラスの筒が占拠する────何かを閉じ込めて観察する部屋に見えた。そして、倒れている兵士達も。けれど。
「‥‥なんだ、機械だった」
黒い装甲服が真っ二つに焼き切られ、表面すら融解していた。分断された身体からは血の一滴も流れておらず、死にかけの虫、或いは壊れかけたラジコンの作用を呈している身体は、もう銃も握れていない。また一目見た通り、梵字が刻印されている装甲服は正直不気味だった。その上、梵字だけではなく古い象形文字、ノミと玄翁で彫った絵と文字、模様が入り混じった表面は芸術性さえ覚える。
視線を部屋へと移すと、切断された鉄製の棚から引き出しが転がり自身の中身を晒していた。
「紙束なんて、らしくない。こっちではペーパーレスが進んでないみたいだ」
睡眠と撲殺が可能な程膨れ上がった書類束を拾い上げ、表紙に目を通す。けれど、全て外国語。恐らくは大陸違いの類いであろうそれは、一目で自分には解読不可能だった。けれど、これで諦めるのは早い。
同様に転がる端末、タブレットを取って起動させる。見慣れない印字とOS名に不思議な気分だった。
「この文字なら読める。施設内の見取り図は─────」
やはり見慣れないOSだった。けれど、同じ人間が扱う電子機器だ、直感的にフォルダ内のラベルの意味が理解できた。見取り図、施設内の地図は無いかと指を走らせながら近場の椅子へと座る。追手を差し向けられている可能性がある以上、時間をかける暇はない。しかし、下手に動いて行き止まりに追い詰められる訳にもいかなかった。更に急ぎ、画面を滑らせている途中、目に付いた文字を声に出した。
「解脱者候補、第10085号以下、全放置処理。実験は持続。けれど観測者からの報告文は半年間一度に指定。ムーンチャイルドを用いての直接観測は今後凍結。現状10085号に注視し、当該観測者の捜索を開始する─────ムーンチャイルド。確かキョウカが自分をそう言って‥‥」
机の上に置いていた肘が偶然キーボードを触り、かろうじて残っていた端末の一つを起動させる。そこには白い服に身を包んだキョウカが映し出される。画面内のキョウカは目を閉じ、部屋にある物と同様な青い水に閉じ込められていた。しかし、それも一瞬で途切れ────端末の文書を更に仔細化した物が流れる。直感は正しかった、これは紛れもなく俺の名前。羅列される識別番号の最後の文字そのもの。
「イツキ────稀有なアスラ因子注入個体であると同時に、梵天、ブラフマーの人工完成体と結論。約167種の因子個体の持続的転生は類を見ない。よってこれより識別番号イツキ、第10085号解脱候補者と結論、並びに次期定例会より決定事項として決議を指定。指定完了に基づき、観測者を実体化し転送────恋仲として関係構築を命令。命令通り、観測者ムーンチャイルドはイツキとの‥‥」
驚く内容は無かった。だってこれは────キョウカが、まだキョウカじゃない時代。
「小さい頃のキョウカ、見てみたかったかも。絶対可愛いに決まってる。髪の短いキョウカなんて可愛いに決まってる。いや、長い髪の小さいキョウカも可愛いだろう────以下、解脱者候補イツキは境界上の蛇より監視を敢行。至る方向によっては時期尚早なれど、回収措置を想定。ブラフマーか、道理で」
神自身の血を注がれてはいない。むしろ、多くを注ぎ切った後、この身体はブラフマーと結果的に同じ傾向を示したのだろう。混在する関係、混迷する縁を作り上げる神であり、展開された図を擬神化された存在。男性は勿論、女性にも生まれた理由が判明するとは思わなかった。
「今はどうでもいい」
見取り図は無かった。けれどもキョウカがここに囚われている可能性は高い。更には足音が向かってくる。施設に土地勘がない俺に対して追手を差し向けてくる理由は────縫い止めていたいから。迷わせて時間稼ぎを狙うのなら、辺り一帯を隔壁で閉じてしまえばいい。
「何処に居る、キョウカ」
興奮して叫んだ所為だ。身体中に薬が周り始めている、視界の隅が白く染まっていく。
槍を持ち上げ、扉の外へと躍り出る。指一本は入ろうかという巨大な銃口を向ける黒の人形に対し、視線で出迎えた。放たれる青の極光は人形の頭を貪り、続け様に走らせた視線で隣の人形の肩から下を切断する。二体の背後、数体の人形が突撃銃の引き金に指を掛け────この身に届く寸前、視界に納めた事で弾丸の八割を撃ち落とすが、数発が胸を叩いた。息が詰まる、胸骨を潜る鋭い弾頭に血反吐を感じる。
「‥‥この程度で止める気か?」
肌に触れた瞬間、熱により弾頭が平らに溶けるが、それでも衝撃を完全には殺せなかった。
二度目の射撃を受けらない。戦闘経験など皆無な自分では長期戦は不利だと断じ槍を携え、慣れない白兵戦を挑んだ。触れれば軽々と腕を落とす蒼炎の刃であろうと、救世主へのきざはしを歩めなかった学生たる自分では、ただの刺突が限界だった。一直線に、串刺しにした人形を盾に体力が続く限り人形達の間を走り抜けた。息も絶え絶えに一団を潜り抜けた後、槍を蒼炎へと戻し無手と成りながら廊下を疾走した。耳元に鳴り響く銃声を振り払い、兵士達が守ろうとしていた方向へと走り続ける。
背後から撃たれた。胸を殴られた。足をかけられ、転ぶ寸前で黒い装甲服を見つめた。
背中まで撃ち抜いた。胸を燃やし尽くした。足を切り落とし、死にかけの虫を踏み潰した。
「軽いんだよ!!数万回も死に続けた俺の評価は、この程度かよッ!?」
幾つもの階段を登り降り、幾重にも折れ曲がった廊下を走り続けた。身体中が切り傷だらけ打撲だらけで駆ける姿は、到底破壊神の系譜とは呼べない。血の味がする口を舐め取り、槍から生み出された蒼炎を廊下一面に放出する。蒼炎を身にした人形達は、直ちに炭と化し煙を放ちながら倒れ込む。
体力の限界だった。だが、残すは隔壁に閉じられた行き止まりの廊下一つだけ。絶対の防衛を作り上げていようが、異世界の蒼炎には真っ当な物理法則は通じなかった。空間内で許された飽和限界を突破する炎の質量は人間と装備の一集団をまとめて爆破、吹き飛ばし灰とする。
「そこか。キョウカ‥‥」
分厚い隔壁に拳を当て、直接隔壁の融解を開始する。手で鉄の溶ける感触を覚えながら、ようやく指一本が貫通した途端、身体が真横へと弾き飛ばされた。肋骨を丸ごと奪われる衝撃、痛打に意識が飛びかけるが叩きつけられる壁からの痛みに意識を取り戻す。
血を吐く余裕もない。肺の機能を最底辺にまで撃ち落とされた身体で、ただの学生の能力で転がり逃げる。ついさっきまで頭が在った空間へ、刺突を繰り出される音が響く。頭蓋骨を揺さぶる金属を陥没させる音を歯を食いしばって耐え、振り向き様に槍を取り出し咄嗟に盾とする。
直観は正しかった。落とされた一撃に肩が軋み、襲撃者の顔を見つけられた。
「————キョウカ」
即座に違うとかぶりを振る。
白い顔に鋭い黒目。整えられた黒髪を揺らす絶世の美少女に、よく似た————あまりにも似すぎた顔を持つ少女の得物を力任せに弾き飛ばし、石突で脇腹を薙ぎ払う。取った、そう確信した瞬間。岩を叩いたような衝撃に肩が悲鳴を上げる。腕に纏わせたトンファー状の杖を扱い、身体と石突の間に割り込ませていた少女のつま先が肋骨を突き抜ける。
「キョウカじゃない。ムーンチャイルド」
何も言わないムーンチャイルドの白い靴を睨みつけ、更に退き続ける。
顔を撃ち落とせばいい。顔でなくとも腹でも胸でも、手足でも捥げば終わる。だけど。
「悔しいな。なんで、こうも好みなんだよ」
レッドブラックの口紅も、黒いパーカーも身に付けていない。白い修道服に近い衣を纏っている少女は、何も映さない目で自分を映すばかりか、あの美声すらも聞かせてくれない。ああ、けれど————時折覗かせる白い歯とあどけない唇が愛おしくて。決して砕けなかった。
「本当は、こんなに強かったなんて————」
槍を消し去り、飛び出した自分に対してムーンチャイルドは刺突の構えを取る。肩を持ち上げてから数秒も取らない必殺の一撃に、自分は尚も前へ出た。突き出された杖に腕の肉と骨を削られる痛みを無視し、前からの羽交い締めを行い、そのままの勢いで廊下の隔壁へと打ち当てる。
「痛かったな、ひとりにして悪い」
最後に残った体力を腕の力に変え、細い柔らかい身体が意識を失うまで抱擁を続けた。力なく、しかし呼吸はしたままで腕を落とした身体を近場の壁へ立て掛けた後。槍を取り出す力は残っていない腕を、手刀の形にし蒼炎で隔壁を焼き切る。鉄の溶ける不快の匂いが鼻孔に充満する。
「あと、もう少し‥‥」
残り二割になった所で蒼炎を止め、ただの蹴りつけでぶち破る。ひと一人分の口を開けた隔壁がジェル状に溶け落ちるのと見収めた瞬間、飛び込んだ自分の目には————キョウカが居た。
白衣を着た男女と、確実に人間である兵士達がバリケードを造り自分を出迎えていたが、あのムーンチャイルドが最後の砦であったらしく怖れ慄き銃口を向けるばかりで、何もしなかった。もはや、ただの学生以下の力しか絞り出せない自分にとって、この状況は奇跡と呼べる最後の機会。
このままキョウカが見逃す訳にはいかない。必ず迎えに行くと誓った。
「死にたくなければ、キョウカを渡せ。さもなければ解脱者として、お前達を焼き殺す」
途端に彼らの空気が変わるのを、肌で感じた。
誰もが背後のキョウカへ視線を走らせ、見比べるように眼前の解脱者に視線を戻す。
たったその時間だけで、今の自分は倒れそうだった。薬の効能で頭は半分失われ、手足は酷使しなければ動かず痛みは留まる所を知らない。最も重大な欠陥は、肋骨に撃ち込まれた深い痕。
「三秒だ。それまでにキョウカを解放しろ————」
三秒ならば耐えられる。三秒でキョウカを揺り起こし、ふたりで逃げ去ればそれで終わる。
「二秒」
はったりだ、どうせただの餓鬼だ。と張り裂けんばかりに叫ぶ大人達の中で、ひとり制止を振り切ってキョウカが収められているガラス筒のコンソールを指で叩き始める。繋がれたディスプレイから警告のブルースクリーンが表示され、1と0の連続が羅列されていく。
そして、ほんの数秒足らずでガラス筒が青い水を吐き出しキョウカを解放した。床へと倒れ込む身体は無機質な機械の中では痛々しく、迎えるべく自然に一歩前に出た俺に向かって、誰もが口々に悲鳴を上げる。姿形は少年の形態であろうと、その身に宿るものを彼らは総じて知っているからだ。
「道を開けろ」
「わ、我々は雇われただけの」
「俺に、何か言いたいのか?」
スラングを発しながら、机や椅子のバリケードを蹴り飛ばし撤去し終えた兵士達の背中に隠れ、白衣達も大人しく引き下がっていく。邪魔をする者はいない、後は倒れているキョウカを救うだけだった。一歩ごとにつむじにまで走る痛みに苛まれようと、本能と理性が勝手に足を動かし続けた。そして眠るキョウカを見て、白い服も悪くはなかったなと、誰にもわからぬ笑みを浮かべた。
「キョウカ、起きてくれ」
ガラス筒に入り、抱きかかえたキョウカを揺さぶる。
意識はなく、瞼も開けずとも唸る声は聞こえてきた。ただ目を閉じているだけで、何故こうまで美しいのかと脱帽してしまう。軽いキョウカと共に機械から降り、コンソールを踏みつけて床へと着地する。そして、自分の姿は長い病院着のままだったなと、苦笑いをする。
「ここを出たら、まず服を買いに行く。キョウカの好きな黒い服」
銃器を動かす音が響くが、引き金に乗せられた指を動かす素振りも見せない。救援であったり応援、あの人形達を呼び寄せる手筈だってあるのに、大人達は何もせずようやく消えると安堵の息さえ聞こえてくる。仕事に責任を持てないのは、救世主であれ大人であれ、結局同じ人間なのだから変わらない。
「ん、なに‥‥?」
ようやく目を覚ました悪性の姫に笑みを捧げ、幼い微笑みを授かる。
「やっぱし、私がいないとダメなんだ。ざーこ」
「ああ、雑魚は恋人がいないと何も出来ない。寂しくなかった?」
「ちょっとだけ退屈だった。だから、ここから出たら————服でも買おう」
「約束した。黒い服を見に行こう」
悪戯好きな猫を彷彿とさせる笑みと共に、胸元に頬を擦りつける仕草の虜となっていた。キョウカを抱きかかえただけで、身体の底から血が沸き上がるのがわかる。あれだけ寒々しかった首元が温かく、心臓の鼓動が大きく力強い物へと変貌を遂げる。
溶け落ちた隔壁へ向かう為、視線を向けた時、新たな足音が響く。
「またか。キョウカ、悪いけど背中に」
「ひとつ謝らないといけないの。よく聞いて」
顔を両手で挟まれ、真剣な眼差しで射抜かれる。
「なに、喜んでる訳?キスでもされると思った?今度して上げるからひとりで練習でもしてろ」
近づく足音よりも、高鳴る心臓が煩わしかった。黒い切れ目を恣にするキョウカが、ゆっくりと呼吸を整え小さく呟いた「きっと痛いけど、我慢して」と。
─────突然だった。胸に鋭い針が刺さる痛みを覚え、発射方向たる隔壁に目を向ける。そこには、黒い装甲服とは違い白いローブの上に赤い髪を持つ優し気な顔の女性が、拳銃を向けていた。それは銃口を持たない一見すれば玩具の銃にも見える。けれど、この痛みは耐えがたい。
膝から崩れ落ち、倒れる頭をキョウカが抱きしめて支えてくれる。
「大丈夫、後は任せて。あなたが頑張ってくれたように、今度は私は落としてあげる」
力が抜け、骨を失った身体は床へと横たわる。まるで自分の身体を失った気分だった。
そして、新たな白い衣の集団が二股の槍を手に、人間の身体機能の頂点を戴く動きで続々と隔壁内へ瞬時に移動、自分達を飛び越して兵士達を圧倒していく。男女関係なく白衣を拘束したのを、唾液が止まらない顔で覗いた。
「この子だね」
新たなカートリッジをセットしながら、近付く女性が顔を覗き込む。その声は優し気で、顔も本当に申し訳ないと告げているというのに、身体と顔の動きが完全に真逆に見えた。
不吉な雰囲気を湛える女性が、自分の頬に手を伸ばすのが見えた途端。
「研究主題も施設の場所も教えた、見取り図だって与えた。なのに、どうして私の彼氏が真っ先に到着してる訳。しかも、こんなズタボロでさ。何かもがおかしい────本当に、私達を保護する気、」
「問題なく、果たす準備は整っています」
更に背後、新たな女性の声が聞こえた。
「────彼が?」
「ええ、きっとね‥‥」
限界だった。キョウカの心音だけを残し、外界との接続が切れ始める。
「他世界から降臨する災の子を何の信用もなく受け入れると思いましたか。例え利益があろうとも。あなたとの契約も一部曖昧としていた為、勝手ながらこちら側も策を弄しさせて貰いました。彼が真っ先に向かった場所が、ここでは無かった場合を鑑み────彼が自分の生まれを知り、自我が崩壊した時は、」
「最低ッ!!わざわざ誘導して見せたなんて‥‥酷いよ‥‥」
「遅かれ早かれ、その子の耳にも届いていたでしょうね。自ら知るか、他人の口から聞くか。施設内の検証報告書に目を通した結果、人間不信の傾向があると判断。あなたも含め、他人の口から聞かされた情報では信じない、違いますか?あなたも、その一因に違いないのに。私達を責められるのですか?」
「‥‥オリジナルが嫌いなら、私も嫌い?私達は、ずっとあの世界で」
「こちらの都合を考えず降り立ったあなた達の都合など、こちらも知りません。まだ意識がありますね」
強くキョウカが頭を抱き締め、自分の身体で守ってくれている。
時折声が乱れ、契約の内容すら知らない自分では─────。
「彼を預け渡しなさい。適切な医療を受けなければ、ここで息絶える。もっと直接言いましょうか?彼を殺したいのなら、そのまま抱いていなさい。もし、生かしたいのなら私に渡すように」
「───私も撃って。同じ痛みを感じさせて」
「いいでしょう。無駄な抵抗をしない身体が消え効率的です」
一歩引き下がった音が聞こえる代わりに、多くの衣擦れ、白いローブが歩み寄る音が聞こえた。
「私は、あなた達を信用してはいけないの。彼女のコピーたるあなたと、そして新たな災厄の子は決して。先に言っておくね、二人の身体を何度も解剖、この星に害がないか調べ尽くさせて貰います。それが倫理に反する行為だとしても─────あなたが彼を愛する様に、私も愛すべき人達がいるから」
「────構わない。私達も、この星に住む代償ぐらい払う気だった。私達の本体を見つけて、復讐しに来たのだから。だけど、私の純潔だけは渡さない。私の初めては、この人に捧げる────だから」
最後に、あの声が聞こえた。俺達をこの星へ誘った巨大な蛇の咆哮が。
「目が覚めた?」
微睡みながら上半身を持ち上げ、黒髪の美少女へ視線を向ける。白い病院服姿のキョウカが優しげに微笑んだのを確認しながら、辺りへ警戒心を払い─────長く口付けを交わした。寝起きの乾いた唇がキョウカの唾液を含み柔らかい瑞々しい物へと変わる。逃すまいと肩を引き寄せて、ベットに押し倒し気味に乱暴に続けた後、様子見も兼ねて顔を確認すると、「触らないの?撫でて欲しいな‥‥」と呟く。
「身体はどう?まだ痛い?」
「少しだけ、いや、すごく痛い。撫でてくれる?」
そう言うな否や、焦る様に「どこ?どこが痛いの?」と全身を使って身体を気遣ってくれる。病院着から溢れる白い肌も気にせず、心底心配そうに抱き締めて背中をさするキョウカは、やはり年下に見えた。
長く撫でられた身体が熱く、病室という場である事も忘れ襟元に手を伸ばした時、扉が叩かれる。
「────無視しちゃおう」
「あれは警告。気付かないふりなんて意味がない。後で─────どうぞ」
キョウカと共に病院着を整え、ベットで並び座って待ち構えると二人の女性一人の男性医師が踏み込む。長らく健診を務めてくれた医師は、聴診器と共に簡単な受け答え、体調や食欲について告げると仕事は終わったと部屋から辞す。数分間のやり取りにも、目を光らせていた二人が口を開いた。
「あなた達への対応が決定しました。二人は────このまま学生として過ごす事。特別扱いはしません、けれども、星に降り立った代価は支払って頂きます。マガツ機関白紙部門。今後所属を問われた場合、そう名乗りなさい。師団長、二人に命令を下しなさい」
「は、はい。師団長ですっ!!」
流れる様な手慣れた命令口調に、師団長とやらは焦りながら答えた。
「えっと、改めて初めまして。白紙部門のカサネです。やっと名乗れたね」
胸元に手を当てて、嬉しそうに微笑んだ大人の女性が初めて名乗った。その笑顔には、表裏など無いと言いたげに見えるが────長く、身体を調べられた当人達からすると信用すべきか計りかねる表情に写って見えた。それはキョウカも同じだったようだが、意外と正面から顔を見つめ返していた。
「えっと、あのね‥‥」
「身体、バラバラにされたのに傷ひとつないのね。気遣ってくれた訳?」
「────うん、言われた通りあなたの純潔は奪ってません。綺麗な身体のまま」
「‥‥この世界にある身体を使って時点で、綺麗な身体なんて期待してないし。でも、信じてあげる」
キョウカの切り出した会話で確証した。俺達は、本当に一度解体されたと。
最初に目が覚めた時の歩き辛さは、長い治療生活による弊害かと思っていたが、腕の長さから視線の高さに違和感を覚えたのは正しかった。数日で数センチも成長したと言われれば、まだ信じられた。
「俺達が降り立って、何日経った。この身体は、向こうの世界と同じなのですか?」
「あ、ちょっと待ってね。えーと、大体4ヶ月程経ちました。ずっと病院生活でつまらなかったよね。でも、あの時のあなたは本当に大怪我をしていたから、ごめんなさい。そして検査もしなくちゃいけなくて─────あなたにも説明するよ。あなたは、一度分割されて新たな身体に移動、そしてもう一度元の身体に戻りました。身体に違和感を覚えたのは、長く一時的な保管庫に移動していたからだよ」
理解が追いつかない。つまりは、俺は数度も身体と身体の往復をしていたという事だった。
4ヶ月と説明された時は、まさかと思ったが、保管庫と呼ばれる場所で長く眠り続けていたのかもしれない。知っていたのかと、キョウカに視線を逸らすと来るとわかっていた様に、頷き返される。
「だから、もし答えるのなら、元の世界の身体とその身体は正確には違います。利益的に言うと、この星の水と空気、土に合わせる為に調整を施しました。この世界にも沢山の病気が蔓延してるから。こんな言い方しか出来なくて卑怯かな。動けないあなたを解剖して、あなたが培った歴史を盗み見たんだから」
「盗む?」
「私達が前の世界で得てきた物。知識に技術、歴史に文化。生活様式から集団心理までの全部を。タブレットとか弄ったんでしょう、なんとなく使い難かった、違う?身体をバラバラにされた時、そういう記憶とかも奪われた訳。───だから、今の私達にはプライバシーなんて、」
「解脱者に成った時から、ずっと監視されていた。今更、見られても変わらない。謝らないで」
「‥‥うん」
頬に手を伸ばし、まぶたを閉じさせる。お淑やかなキョウカは愛らしくも痛々しかった。
「代価って、言いましたよね。何をさせる気ですか」
「ようやく、そこに触れましたね」
冷たい印象がある目隠しの女性が、威圧的に歩み寄って来る。
「あなたの力は、知り尽くしています。槍と炎の瞳、蒼炎の射程から威力、精神状態への作用まで全てを。抵抗が出来ると思わない様に。素振りでも見せようものなら、すぐさま素っ首落として見せましょう。結論を述べると────私達はあなたを兵器としての運用を期待しています。その炎は、もはや自分の物ではなく我々の物と成った。そう理解しなさい。無闇な乱用は許されません、そこの師団長が許可した時のみ、使用が可能です」
「そして、私が力の行使を許可する時は、この人に伺いを立てた時のみ。もう気軽には使えないと思ってね。重ねて言うよ、あなたは私達には絶対に勝てない。抵抗なんて考えないで───どうしたの?」
散々脅し、続けて何かを言おうとした二人に、つい笑みを浮かべてしまった。それは隣の半身も同じだった。止まらない喉の震わせに、なんだ?と更に問い掛けてくる二人の女性にはっきりと応える。
「────あなた方は世界は滅ぼされたらしいが、滅ぼした事はない様ですね」
「うんうん。まるで経験者みたいに語っていたけど、結局乙女止まり。私達には届かない」
自分達の身体を調べた?解剖し、記憶から力を読み取った?この身体に刻まれた事だけを知ったとして、それが何になる。例え、自分とキョウカの心や魂を解体出来たとしても理解など及ばない。
「何故、知っているのですか。この星に降りる前に知った様ですが」
「いいえ。いいえ、違います。俺達は何度も『一』に。そして一度だけ『零』に至りました。何度も世界を巡り続けた結果です。だからなのか、不思議と人の始まりと終わりがわかる様に成った────あなた達が、俺の限界を知っているのなら、俺はあなた達の終わりを手に取れる。脅しなら無意味ですよ、何度も奪われましたから。本当に、何度も何度も。それに脅しに抗う方法なら幾らでも知っています」
ベットの背後、青い空を包み込む白いカーテンを望む。
「無闇な乱用は許さない。それは、無闇に乱用すると不都合が起こる。そういう意味ですね?」
瞬時に首元に白い帯が伸び、視界が赤く染まっていく。だが、手をキョウカへ伸ばし握らせると────キョウカの片腕から蒼炎が燃え上がる。白いひとつの矛先が顔を見せ、更に深い青が燃え上がる。ベットと天井を焦がす事はないが、自分の首を絞めていた帯が呆気なく燃え落ちていく。
「世界を救うべく救世主となった俺に命令?従わなければ殺す?まして兵器としての運用なんて。遅いんですよ、遅い遅い。そんな手法、何巡も前の古典だ。あなた達の年齢なんて知りませんが、年下の女の子に言って聞かせてあげましょう─────俺達を、この世界に招いた時点でお前達の負けだ」
人を落とす?街の権力者を墜とす?国を貶す?一大宗教を堕とす?そんな物、何億と続けてきた。
世界で最も巨大な帝国の皇帝がいた。世界を牛耳る大企業の創設者がいた。世界中に教徒がいる教祖がいた。人界の限界を形作る偉大なる人々と共に、救世主を目指してきた自分に脅しなど─────しかも人質はおらず、この自分達だけを傷付けるしか出来ないなんて。なんて無策。4ヶ月もあって、この程度。
「4ヶ月あって俺を分解しただけなんて。兵器としての運用だって、高が知れている。国ひとつを灰に変える事だって出来ないんだろう。命令して下さい、4ヶ月有れば、この星を落として見せましょう」
左目を青く輝かせ、同等な交渉の席に着かせる。
人ひとりの、自分の生命など価値は無いに等しい。けれど、『愛する人達がいる世界』を天秤に乗せれば、例え人外であろうとも無視は出来ない。求めるは本人ではない、本人が最も尊ぶ生命そのもの。
「もし、俺達を完全に諦めさせたければ、バラバラにしたまま会話を続ければ良かった。犯されながら身体を喰い尽くされた俺に、身体を渡すべきじゃなかった。兵器としての運用は、望むべきじゃなかった」
言葉の過程、武器のひとつでも向ければ────更に続けたが、彼女達は義理堅かった。
「兵器としての運用─────受けます」
「うんうん!よく似合ってるよ。転校生として、第一印象は完璧にしないとね♪」
師団長殿が運び込んでくれた制服を、キョウカとは別室で着替え終えた所だった。指定されたビルの一室、自分達の上司たる師団長の私室で最後のネクタイ確認を施され、後はキョウカを待つのみ。
「‥‥正直、不安です。魔法なんてお伽噺みたいで」
「うーん、多分思ってる魔法とは大きく違うかな。まぁ、君が絵本の中から飛び出た王子様とかシンドバット的な子だから、全然問題無いと思うよ。それにキョウカさんも居るんだから、大丈夫大丈夫♪」
妙にテンションが高い師団長は、自身の弟の世話でもする様に微笑んで肩を叩いてくれた。大人からのこういった対応は慣れていなかった。交友を重ねる事で築き上げた関係は、対等な立場であり対等な交渉相手でもあった。こんな────無償の愛など苦手だった。だから、そう告げる。
「師団長、俺は兵器として」
「言うと思ったー」
こっちにと伝えた師団長は、巨大な一人掛けソファーを示す。言われるがままに座った所、目の前のガラステーブルのカップに紅茶が注がれる。芳醇で甘い香りが漂う時間は、久しく忘れていた静寂だった。
「さぁ、どうぞ」
「‥‥頂きます」
不味い病院食と脂だらけの人肉とは大きく違った。無理に詰め込んだ胃の苦しみとは違った。
甘く柔らかな茶が舌を包み込み、喉を潤してくれる。胃を優しく温めてくれる時間が嬉しかった。
「美味しいでしょう。ちょっと特別な葉っぱなんだよ。最近、また仲良くなった偶に遊びに来る友達にも隠し続けた高い奴。今日は特別だから久しぶりに取り出したんだー」
「お茶分は働きます────何をすれば?」
「だから、そういうのは無いの。報告書通り、キョウカさん以外にはそういう感じなんだね。あのね、外の世界へ飛び出す上で、ちょっとした注意事項があるの。まず一つは、あなたは特別じゃなくなる」
「‥‥言っている意味がわかりません。特別なんて、俺は一度も」
特別という言葉を呟いた瞬間、向こうの世界で通っていた学校を思い出した。最初の数順は誰も彼もが良くしてくれた、けれど差別やイジメの巻き起こっていたのを。助けを乞われた自分は、自分は。
「俺は、特別だった」
クラスのリーダー。部活の主将。教師の筆頭。多くと話し合い、多くと語り合った。それが叶ったのは自分が特別であったからだった。容姿に声、性格といった物が、あの世界では自分が特別という枠に入れられていた。だから、自分は卑怯者としても末路を辿った。衆人からの救済を叶えられなかったから。
「そう、君は特別だった。沢山の因子を注がれたとしても、君はその前から人々に望まれていた。だけど、もうそういうのは無くなる。言い方を敢えて悪くすると、誰も期待していないから。殊更、私達魔に連なる者は自分の力を信じて疑わない節があるの─────怒らないでね、君と同程度の力の持ち主は沢山いる」
心臓を貫かれた。それは痛みであって、救いを与えてくれる罰にも感じた。
「俺は、この世界では普通なのですね。俺は、もう一人で救世主にならなくても良い」
「うんん、違うよ─────もう救世主にならなくても良い。が正解。やっと、君は自分の人生を歩める。沢山学んで沢山遊んで。沢山友達を作ったって良い。‥‥まだ未成年のあなた達には、節度を持って欲しいけど若さに任せて愛欲を満たしたって良い。自分のやりたい事を探して」
「‥‥師団長は、」
口を衝いた言葉に、師団長は唸ってしまった。
「私、私は‥‥まずは大切な人達を守る事かな。うん、少なくなってしまった同胞を守りたいの」
「────初めて会った時と印象が変わりましたね。あなたは、もっと流されている様でした」
再度口を衝いてしまった。初対面のあの時はキョウカからの交信を受けた結果、異常事態だと察して研究所に攻め入ったかの様だった。しかし、病室での一件と今を見ると、誠心誠意戦力のひとつとして揃えて欲して見えた。明確に、自分の意思が定まっている気がする。この4ヶ月で何かが変わったらしい。
「師団長も、誰かと出会ったのですね」
「え、」
「俺と同じ。大切な人と出会えたから、踏み出せた。違いますか?」
そう言うと恥ずかしげに笑われた。数度の会話を続けたが、ここまで自主的に話し掛けられたのは初めてだったかもしれない。交渉の席に着いた相手を探る悪癖が顔を覗かせた、どうにか口を破らせようとあの手この手を用いる─────までもなく、年下の男性が口から転び出た。そして扉を叩かれる。
慌てて迎えに行った師団長は、扉の外にいるキョウカを全力で褒め称え始めた。
姿はまだ見えずとも、キョウカもキョウカで褒められ慣れていないと露呈する。小さく呻く声で返事を繰り返すキョウカは、されるがままに首元を治され、されるがままに室内へと連れ込まれる。
「ど、どう。似合うに決まってるけど」
恥ずかしげにスカートを掴むキョウカは、全力の悪性の微笑みを作るが頬が震えている。落ち着いてと、頬を師団長に整えられ振り返って表情を作り始める。そして振り返った時、同じ行動を繰り返す。
「そろそろ時間だ。向おう。師団長、俺達は先に」
「うん、後でね。教室には連絡が入ってるから転校初日を楽しんで下さい。いってらっしゃい」
このままでは終わりが見えない。そう確信した自分は無理にキョウカの手を引き、師団長に辞して部屋から飛び出る。白いローブで身を包んだ人間達の間を縫い、エレベーターへと飛び乗る。改めて振り返って紺色のキョウカを眺める。未だに恥ずかしげにそわそわと上目遣いで、上目遣いで────。
「キョウカ、可愛過ぎないか」
「と、当然じゃん?私って美少女で、そう、美少女なんだしさ。彼氏だからってあんまり馴れ馴れしく」
「しちゃ、いけない?」
「‥‥毎日の登下校とお昼。講義中の隣。休日の出掛け帰りのお腹ぐらいなら許してあげる。それと夕飯だって食べに来ても良いから。これぐらいなら馴れ馴れしいのは入らないし、これ以上は私の許可をとって。それと────エチケットは二人で買いに行く。もしくは自分で用意して。精々足掻けよ」
何処に足掻く地点があったのか、自分にはわからないがキョウカは満面の悪い顔で言い上げた。エレベーターから降りた時、奇異の目を向けられるが無視して赤い絨毯が敷かれたエントランスを通過、背の高いガラス扉を潜り抜け、ビルが屹立する街の中で特に開かれた空を見上げる。
「キョウカ」
つい呼び止めた時、恋人が切り揃えた髪を揺らし振り返る。突然呼び止められた時に見せる、あどけない顔が愛らしかった。言葉を待つ目元が麗しかった。風に揺さぶられる長い黒髪が艶やかだった。
「学校、楽しみだな」
「‥‥別に、期待なんかしてないし─────あなたは?」
「俺は、」
視界はキョウカを収めていた。慣れない制服を纏う狂人に歩み寄り、頬を撫で上げながら向けるべき方向を視線で示す。そこにいる二人を見て、キョウカが息を呑む。その二人は改造した白いローブを纏い、長い杖を突いていた。身の丈にも匹敵する長物を軽々扱っている背が低い少年が、隣にいる銀の杖を持つ少女へ話し掛けた。それは、自身の教室の課題であったりクラスメイトの名であったり。
ローブから制服に着替えれば、ごくごく普通の学生の日常であった筈だ。
その二人とすれ違い、自分は答えを教える。
「楽しみだよ。本当に、楽しみで仕方ない。────必ず、借りを返す瞬間が訪れる」
輪廻と転生の砕き方 一沢 @katei1217
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