第2話

 手持ち無沙汰だった。合否はネットで見ればいいか、とも思ったが、両親に新幹線のお金は出すから自分の目でみてきなさい、と説得された。

 眠気は取れないが、かといってずっと寝ることもできなかった。緊張しているのだろう。他人事のように感じてしまうが案外体の反応は正直だった。読書でもするかと鞄から出した文庫本のページ、はさんだ栞の歩みは亀の一歩同然だった。内容が入ってこないが文字が視界を滑っていく。不快感とモヤモヤで結局また戻る。途中からだんだんとまた意味がぼやけていく。英語や現代文の勉強をしていて定期的にそんな日があったが、まさか趣味の読書にまで影響するとは。読書する、というのも思ったより高尚な行動なのかもしれない。心に余裕があるか、ないしは現実を忘れるか。どっちもできない僕には今、栞を先に進める資格はないのだろう。

 スマホを拾い上げる。受験勉強の邪魔には確かになっていたこいつだが、息抜きでもあった。時間が溶けていたことがままあって、そういう日は罪悪感に駆られて叩き割りたくもなったが、結局手放せないままだった。だが、すべてこいつが悪い!と責任転嫁できるほど依存はしていなかった。もともと、使用者次第で元々電子機械ごときに罪はない。人をハマらせる、そういった目的に特化したアプリケーションの群れに籠絡せしめられただけなのだから。

 高1の頃にアカウントを作った青い鳥を開く。受験情報を調べることが目的だったが、想定よりも「受験」という世界は腐っていた。ドロドロとした人の汚い部分が濃縮された環境が顕在し日々膨張、炎上を繰り返す様にうすら寒さを感じたものだ。よかった模試の成績をあげる自尊心の高い連中や、承認欲求に振り切った連中。とにかく多種多様で見る分には飽きはしないが気持ち悪くはなってくる。

今日が合否発表ということもあって界隈は大いに盛り上がっていた。特に浪人生。いつも通り偏屈だ。むしろ安心感を覚えた。今までネットで絡んできた受験生たちも今日の合否を心待ちにしているようで、盛んに呟いていた。

「ねみい、新幹線暇すぎ」

 そのムーブメントに乗ってツイートを投下する。目を離せず張り付いている人が大勢いるのだろう。普段はそんなことないのに、すぐにいいねが付いた。笑ってしまうが、自分も同じことをしている。同族嫌悪とはまさしくこのこと。

 しばらくスクロールして新規の投稿に目ぼしいものがなくなってきたので、大目レクとメッセージを確認する。一番上に届いたメッセージ、五分前に送られてきたようだ。既読をつけ内容を確認。といっても大した内容ではない。問題は相手だ。幸い連絡を取りたい望みの相手だった。

「錬くんおはよう」

「なんだかんだ緊張しちゃうよね」

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学歴より君がいてくれればそれで 蒼鷺 @AozoraTsuchida

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