エピローグ

「こいつが約束の1万ドルだ」

 あたしはカウンターに置かれた札束を、虚ろな気持ちで受け取った。お嬢さんがどうなったのかなんて、聞きたくもなかった。





 近くの宿場町まで歩くことにした。とても、乗り物に乗る気にはなれなかった。空は薄曇りで、風は湿り気を帯びていた。

 カバンの中の1万ドルが、やけに不吉で、そしてあたしが持っていてはいけないものであるような気がした。だからって、どこかの慈善団体や、困っている人のために安易に渡せる金でもなかった。悩んだ末、あたしは町の真ん中を流れる川に架かった橋から、封を解いた札束を投げ捨てることにした。


 1枚1枚、丁寧に紙幣をばらまく。折よく、風が強めに吹き始めた。風は渦を巻いて、あっという間にドル札を川下まで運んでいく。あたしはとにかく、こいつらが1秒でも早く手元から離れてくれることを祈っていたから、とても助かった。


 全部の札をして、あたしはどこへともなく去った。どこへって? さあな、ただそれ以来、賭け事の類は全部やめちまった。とにかく、あのときのお嬢さんに負けないような、誇れるような賭けを、あたしにはできる気がしなかったんだよ。

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