第4話
「マユケン」♯二つの雲
ロックを聴きながら国道を走る。
少し雨が降ってきたー。
街の灯りがアスファルトに反射して全てが輝いて見える。
俺は孤独にその中を駆け抜けるー。
リビングで勉強する上の娘と居間でゲームをする下の息子ー。
台所から見ながら溜息をつくー。
バイクの振動が恋しかったー。
なんとなく買い物し忘れたと言って外に出掛けた。
ふらふらと駅前に向かいながらあのSR400を探していた。
もう少し先の国道を渡って2、3分歩くとディスクユニオンがある。
バイクに憧れていた時に聴いていたブランキージェットシティのCDが欲しくなってディスクユニオンに向かうことにしたー。
国道に近づくとパトカーがたくさん停まっていた。救急車も居る。
事故かなと思ったが、直ぐに嫌な感情が湧いてきて走って事故現場へ向かったー。
嫌な予感は当たったー。
あのバイクがトラックとぶつかっていて、あの男の人が倒れていたー。
私は思わず駆け寄ってしまった。
「あなたこの人のお知り合い?」
救急隊員が話し掛けてきた。
私はうんうんと頷いた。
「一緒に救急車に乗ってください」
救急隊員はそう言って男の人を担架に乗せて救急車へ運んだ。
私もそれに続いて乗り込んだ。
直ぐにAEDで蘇生措置が行われた。救急車は勢いよく走り出した。
「病院に着いたら書いてもらいたい書類があるのでよろしくお願いしますね」
「あ、は、はい」
「旦那さんですか?」
「いえ、違いますが…」
「彼氏さんですか?」
「え?は、はい」
「大丈夫ですよ!外傷は酷くなくてショック状態なので息さえしてくれれば直ぐに回復しますよ」
「良かった…」
救急隊員は微笑みながら対応してくれたー。
長い廊下の長い長椅子で措置が終わるのを待った。
もう何時間も経ったような気がする。
子供達は大丈夫だろうか…。
医者が出てきたー。
「彼氏さんの様態は落ち着きましたよ。一度お帰りになりますか?」
私は胸を撫で下ろしてその場にへたり込んでしまった。
次の日ー。
私は子供達と病院を訪れた。
後藤賢治……。
男の人の名前……。
後藤賢治さんは窓の外を眺めていた。
「こんにちわ」
後藤賢治さんは振り返って首を傾げている。
「あ、バイクに跨がらせていただいた杉下麻由子です」
「あ!あの時の?なんで此処が?」
「昨日、事故現場を通りかかって病院まで着いてきちゃいました」
「じゃあ、色々してくれたのは貴女でしたか……本当にありがとうございました」
「いえ、バイクに跨がったお礼です…あ、娘と息子です」
娘と息子は軽く頭を下げている。後藤賢治さんも頭を下げた。
私達は自分達の境遇を聴かせあった。
何故か今まで長い旅をしていた感覚であった。
目的地に着いて安堵している感じー。
何故か新しく窓が開いて、青空に浮かぶ二つの雲が一つになったようなイメージが頭の中に浮かんでいる。
終わり
マユケン 二つの雲 門前払 勝無 @kaburemono
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