第3話
「マユケン」♯二つの雲3
バイクの前で立ち止まって見ていると、ライダースジャケットを着た男の人が後ろに立っていた。
「あ、ごめんなさい」
「バイク好きなんですか?」
「昔に乗りたかったカフェレーサーだと思って見てしまいました」
「格好いいでしょ?でも、もう20年も乗ってますよ」
「凄い!硬派ですね」
「他に乗りたいものが無いだけですよ」
男の人は半ヘルを被ってストールを首に巻きながらバイクに跨がってエンジンを掛けた。キックする姿が格好よく見えた。
「跨がってみますか?」
「え?良いんですか?」
「せっかくだからアクセル吹かしてみてくださいよ…気持ちいいから」
私はトートバッグと買い物袋を男の人に持ってもらって、バイクに跨がらせてもらった。エンジンの振動が私の鼓動を刺激した。アクセルを回すとトトトトト!…と短気筒の独特な音が響いた。
これに憧れていたのだ。
そう思うと一瞬にして自分の人生の走馬燈が駆け巡って涙が出てきたー。
町外れの小さなパン屋の前に停まるカフェレーサー。毎日これに乗って自分の店に通って自分の造りたいパンを焼く日々ー。
「杉下麻由子さん、また見掛けたら声を掛けてくださいね!いつでも跨がってください」
「なんで私の名前を?」
「名札着いてますよ」
ケーキ屋の名札を付けたままであったー。
男の人は笑いながらバイクで走り去っていった。
つづく
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