雨に願いを

一色 サラ

七夕の夜空

 7月7日は雨が降り続き、天の川の水の流れ速くなり、岸に水が溢れ出していた。星彦ほしひこは船が出せないのだろうと思った。年に1度しか会えていない恋しい姫織ひめおりの再会できないことに気持ちが沈んでいく。7月7日しか天の川は向こう岸を繋がることはできないのだ。霧のような雨で星彦は向こう岸を確認することはできなかった。水で溢れ出す天の川を呆然と眺める。濁りのない綺麗なエメラルドグリーンが鮮やかに流れていく。ピカッと光の筋が現れた。ひとつの光のようなものが近づいてくる。1羽のカササギだ。

「私の背中に乗りなさい」

カササギは岸に降り立ち、真っ直ぐ星彦を見つめている。言葉が出てこない。

「乗らないのですか」

 慌てて星彦は、「乗ります」とカササギの背中に乗った。シュッとカササギは夜空に飛び立った。雨は降っていない。下を見ると天の川はキラキラと光っていた。無数の光に包まれて進んで、ゆっくりと下降していく。カササギは岸に降り立った。そこに、美しい七色に染まった着物を羽織った姫織が出迎えくれた。

「2時間経ったら、また迎えに来ます」とカササギは言って、どこかへと飛んで行ってしまった。

 久しぶりに会う織は相変わらず美しく。洗練されていた。「お久しぶりです」と懐かしい声が星彦の胸が締め付ける。

「お久しぶりです」

 ゆっくりと言って、涙がこぼれそうになって空を見上げると、さっきまで降っていた雨はすっかりあがって、空は満天の星空が広がっていた。

「今年も、私の願いは叶いました。」

「僕もそうです」

 姫織の照れくさそうな笑顔が、1年の懐かしさをさそった。寄り添うように歩くと、これが永遠に続けばいいなと思えてくる。

大きな建物が現れた。「どうぞ」と姫織は建物へと案内してくれた。建物では何人かの女中がせっせと働いてた。星彦は1人で住んでいるので、人がいる家に住んでいる姫織が羨ましく思えた。

 床一面が板張りで出来ている部屋へと案内され、床に座布団が引かれ、そこに2人揃って、座った。お膳に乗せられ料理が目の前に置かれた。ご飯と煮魚とお吸い物。どれも、懐かしさ味だった。

「この後は、庭の短冊へ参りましょう」

 姫織の涼しい顔が微笑みかけてくる。

「そうですね」

 それが僕らが会う理由なのだ。建物奥にある広いに庭に多くの短冊が何本も並んで、光っている。人の願いが書かれた短冊が何千という数が笹に飾られていた。5色の短冊には、青(緑)には、成長を。赤には、両親や先祖への感謝を。黄色には、人間関係のことを。白には規則義務のことを。黒(紫)には、学業のことを書くことが定められている。色が違えば叶えることはできない。それらを僕らは1年間通して叶えたないといけない。

『すべての人間の欲を満たすことが出来たら、君たちは永遠に生を添い遂げることができるようにしてあげよう』天の神の言葉だ。働かず怠けたいた星彦が犯した罪だ。天の川の下で生活している人の欲という願いを叶ることが出来たら、星彦は姫織と一緒に住むことが出来る。でも、毎年、何千もの短冊が届く。減ることはなかった。ここはいつまで、続くのだろうと星彦は心で悔やむ。

「では、ここまで、またお願いします」

寂しげな顔をした姫織に言われて、短冊を受けとる。光が差してカササギが現れた。「では、帰りましょう」とカササギに言われて、星彦はとても心苦しいかった。

「また、来年」涙を流しながら、姫織が振ってくれた。また、1年という月日は会えないのだと思うと、切なくなってくる。そんな彦星の体が勝手に、カササギの背中に乗った。

「また、来年、会いましょう」

切ない織姫の顔を見て、また、来年、会えることを願う。それが新たな短冊に刻まれていく。

  戻ってくると、雨が降り注ぐように振っている。心を洗い流すように、何度でも願いを叶えるように。

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