ゾンビ禍の最中の安全安心な開会式
@HasumiChouji
ゾンビ禍の最中の安全安心な開会式
「あの……このゾンビ禍の最中に、我が国で国際的スポーツ大会を開くのみならず……開会式に観客まで入れるのですか?」
ぶら下がり取材の記者は、首相にそう質問した。
「我が国で最も高性能なスパコンによる
「で……ですが……」
「観客を入れないとスポンサーがうるさいんでな。仕方有るまい」
「でも……それでは、観客に危険が……」
「どうして、そう思うのかね?」
「競技場の客席数と……開会式の予定時間からして……最低でも1名の観客がゾンビ化する確率は四〇%を超えています。そして、1人でもゾンビ化したが最後……」
「安心して、開会式を待ちたまえ」
そして、開会式の日……客席では……。
「ぐるっ?」
「ぎゃおっ?」
「ふぎゃっ?」
人間は極めて小さい確率でゾンビ化する。1人の人間にとっては……ゾンビにならずに一生を終える可能性の方が高いが……万単位の人間が居れば、数時間の内に誰か1人がゾンビ化する可能性は……無視するには大き過ぎる。
ゾンビは生きた人間を襲う衝動に支配されるが……同じゾンビは襲わない。
そして、ゾンビによって重傷を負わされた人間は……約八〇%の確率で5分以内にゾンビ化する。
その「ルール」から導き出された「観客の安全を確保する方法」がこれだった。そして……。
「では……選手入場……えっ?」
客席を満している万単位のゾンビの群れは、生きた人間である選手達を見付けると雪崩のようにグラウンド目掛けて突進し……そして、客席とグラウンドを遮る強化ガラスをあっさり破壊した。
「お……おい……どうなってる?」
控室のモニタで、その様子を見ていた首相は、側近を怒鳴り付けた。
「え……ええっと……私に言われても……」
「おい、スパコンの
「す……少し待って下さい。シミュレーションをやった学者に聞いて……おい、TVかネットで今の様子を見てるだろ? あれは何だ? どうなってる?」
首相の側近は……シミュレーションを行なった学者に携帯電話で問い合わせ……そして……。
「おい、例の学者は何と言ってる?」
「『あくまでも自分はゾンビの専門家であって、材料工学の専門家では無い』と……言っています」
「はぁっ?」
「シミュレーションの中での……強化ガラスの強度は……適当に設定したそうです」
ゾンビ禍の最中の安全安心な開会式 @HasumiChouji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます