目指すは黄金の都

 俺が目を覚ますと当たりは悲惨な惨状が広がっていた。

 あんなに立派に建っていたはずの聖堂は消え去り、周囲の建物は瓦礫と化しており、更には目の前にあったはずの街道の続く山には大きな風穴が開いていたのだが幸い怪我人はいないように見える。

 一先ず胸を撫で下ろすと、俺は立ち上がると改めて周囲を見回す。


「俺が……やったのか……」


 何度もあたりを見回すがそこが町だったようには見えなかった。


「痛い!」


 キョロキョロしていた俺の頭に何か硬いものが振り下ろされ、激痛が走る。慌てて頭を手で押さえながら後ろを振り向くとそこには杖を構え、二撃目を加えよとしている白い口ひげを生やしたはげたおじいちゃん……ここの町長の『アンバー』がいた。その目は俺を鋭く睨み付け、全身が怒りで震えているようにも見える。


「このばっかもんが!」


 叫び声と同時に振りおろす杖を俺は甘んじて頭で受け止めた。避けて怪我でもしたら大変だ。


「そこまでにしてください、町長。彼にも悪気があったようには見えないですし、これは事故ですよ」


 恰幅のいい、緑地に金の刺繍の入ったなにやら豪華な服に身を包んだ男が仲裁に入ってくれた。緑の国を統治する『クロム王』だ。


「し、しかしですな。あれを事故で終わらせるのは我々には無理がありますのじゃ。せめて修繕費をこの馬鹿に払わせないとこの町はもう終わってしまいますクロム様」

「ま、まあ、壊したのはこの少年に違いないのだから別にそれは止めはしませんが……しかし、この少年がとても払えるようには……」


 クロム王はそう言いながら、まるで値踏みするように俺の頭からつま先までを一通り見る。まあ、どうみても裕福……というかその日の暮らしにすら困ってるようにしか見えないだろうが、物には言い方ってものがあるとは思うのだが……

 だが、やってしまったことは事実だし、ここは男を見せるときだな。


「町長、これは俺がやったことですし、たとえすぐには払えずとも何とかお金を集め、町の復興に尽力します!」


 しかし、俺の男前の宣言は町長の冷たい視線と短い溜息で流されてしまった。


「とにかく、今回の被害は儀式を行った我々にも責任が少なからずありますから。元通りとまではいえませんが多少の援助は致しますよ」

「おお。それはありがたいことです」


 クロム王がそう言うと、町長は深々と頭を下げたのだが、その二人の間に割って入るように一人の大柄な男がやってくる。何かの獣の毛皮を羽織、赤いレギンス身に着けた赤の国の王『アガット王』だ。


「それは承知できませんな、クロム王」

「どういうことでしょうか? アガット王」


 クロム王を威嚇するように睨み付けるアガット王、それに負けじと睨み返すクロム王……と、腰を抜かして倒れた町長。まあ、二人の王に挟まれたら無理もないかと俺は町長に手を差し伸べる。


「そこまでだ、二人とも」


 今にも一色触発な二人の間に愉快そうに手を叩きながら入ってきたのは、アガットよりも背も低く体も小さいが、黄色のズボンを履いたがっちりとした半裸の男。黄の国の『サルファー王』だ。


「緑の王も、赤の王も民の前で見っとも無い姿を見せるな。常に王は優雅で余裕を持って民と交流を深めるものであるぞ」


 サルファー王がそう言い放つと、二人はバツが悪そうに一歩下がる。まるでここでの一件の判断は任せたといった感じに見えた。


「さて、そのこの少年。確か名は……」

「シルバです。シルバ・ランスター」

「シルバよ。オレとしてはここでの被害、負傷者の治療、儀式の遅延……それら全ての責任はお前にあると考える。それに異論はないな?」


 サルファー王は、俺に目を見てそう問いかける。思わず、そのまま「はい」と言ってしまいそうだったが、俺は何とか思いとどまり、反論する。


「確かに、ここ一帯を壊したのは俺だけど怪我人とか、儀式の遅延に関しては俺は無関係だと思いますが」


 俺がそういうと、サルファー王は急に笑い出したかと思うと、また目を見て。


「なるほど、オレに意見できる程度にはようだな。よし、ならばこの一件全てオレが肩代わりしてやろう」

「え、いいんですか?」

「ああ、王に二言はない。が、代わりにオレの願いを一つ聞いてもらうぞ」

「願い……ですか。いったい何をすれば?」


 王の願い事が俺に叶えられるようなものだとは到底思えないが、この状況で一々考えてる余裕もないのでとりあえずどんな無理難題か聞いてみることにした。


「なに、何も今すぐここで自害しろなどは言わん。ただ、オレが探している、この世界のどこかにあると言われている『黄金の都』と呼ばれる場所を見つけオレに一番に報告するだけだ」

「黄金の都?」


 俺は、今まで聞いたこともない言葉に思わず聞き返す。すると今まで黙っていた紫色のドレスを着た女の人が口を開いた。紫の国の女王『ウィスタリア王』だ。


「黄金の都……そこはこの世界の理があるといわれる場所。見つけたものには永遠の時、富、知を授けると呼ばれる伝説の都……ここの修繕費なんかよりもずっと大変なものよ。そこの男は狐のようにあなたをだまくらかそうとしている、断りなさい」

「ふん、自分が見つけられないから焦っているのか? 冷徹王よ」

「黙れ、民だ、国だと謳っていながら結局は自分の身が一番か?」

「今日は良くしゃべるな。弱い犬ほどよく吠えるとはよく言ったものだな」

「……戦争ね」

「受けてたつぞ?」


 さっきは、余裕がどうの言ってたサルファー王も、犬猿の仲……いや、この場合は犬狐の仲であるウィスタリア王も詳しい事情は分からないけど昔から仲が悪く、公の場所でもよく言い合いをしている。


「ああ!とにかく俺はその話お受けします」


俺は一刻も早く二人を止めるためわざと大声で叫ぶように言うと、とりあえず喧嘩は収まったのだが、その口調のまま俺はすぐにでも出発するように促され。

ろくな装備も準備もさせてもらえないまま、500M(マネー)だけ持たされて生まれ育った町を後にした。

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マジックミサイルしか使えないと馬鹿にされた少年は魔王もドラゴンも神も倒して最強だってこと証明します。 灯台下暗し @marumaruhige

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