マジックミサイルしか使えないと馬鹿にされた少年は魔王もドラゴンも神も倒して最強だってこと証明します。
灯台下暗し
マジックミサイル詠唱
生まれ育った故郷の坂を俺はカミナリのごとく走っていた。全身が酸素を求めるので何とか空気を肺に送り込み、足が痺れ、倒れそうになりながらも辛うじて速度を落とさず体を前へと進める。そこまでして俺が急ぐのは今日行われる旅立ちの儀式を受けるためだ。
この辺ぴな田舎町で唯一といって良いほどの大きな聖堂で執り行われるその儀式は、各国のからのお偉いさんが地方に眠る才能の芽を探す目的で行われ、そこで才能を認められれば、一人前の冒険者として各地を自由に冒険できる資格が与えられるのだが……この儀式、開催が不定期で次が十数年後だったり、下手すれば数百年後だったりするので、今日を逃すと次はないかもしれないのだが……普通に寝坊した。
息も絶え絶えになりながらも走り続けると、遠くに聖堂とその前の人だかりが見えてきた、どうやらまだ儀式は終わってないようだ。
ほっとしながらも俺は勢いそのままで、その人だかりの中へと滑り込み皆の前へと踊り出す。多くの人……殆ど見慣れた町の住人だが、そいつらは俺に視線を移し明らかに肩を落とした。そして、見慣れない豪華な格好で偉そうにしている何人かは怪訝そうに、何人かは驚いたように、何人かは期待に満ちた目で見ている。
「ま、まだ……間に合い……ますか?」
俺はそこに立っていた変な板を持った女の人に話しかけた。
「えーと、儀式参加の希望ですか?」
「そうです」
息を整えながら、その問いに答える。
「それでは、名前と……」
「名前はシルバ・ランスター、お見せするのは魔法術です」
俺は女の人が言い終わる前に、名前と見世物について答える。
ここで言う見世物ってのは、何が一番得意かってことになるのだが……俺が言い終わるのと同時に周りからあざ笑うかのような声が聞こえる。
「おい、あの無能のシルバが魔法術だってよ」
「あいつは俺達を笑わせに着たのか?」
「おい!シルバ、あんまり無茶してぶっ倒れるなよ!」
周りから聞こえる声には腹が立つが、それも俺のこいつを見れば賞賛に変わると確信しているから無視が出来る。
「それじゃ、やりますがいいですか?」
俺は周りの言葉を無視して、女の人に声をかける。
「え、ええ。それじゃあ、シルバさんお願いします」
俺は目を閉じて、肩を落とし全身の力を抜いた。
「足を軽く開き……腰を落とす……」
教わった動作を一つ、一つと確認するように声に出す。
「あ!結構離れてたほうがいいよ。周りの人たちも少し離れて!!」
横の女の人と周りを取り囲む人間に注意を促す。女の人はすぐ離れてくれたのだが、周りの人はその場を動こうとはしない。それどころか俺の言葉を聞いて更に侮辱的な言葉を吐き捨てている。
「残念だけど……手加減できないのはみんな知ってるよね……」
俺は周りに聞こえない声で呟き、両腕を目の前に突き出し、両手を重ね合わせると全身の魔法力を手のひらに集中させる。
すると、徐々に手のひらに青白い光が見え始めると同時にあふれ出した魔法力が、周囲を漂う魔力と共鳴して空気を振動させる、その振動はだんだん激しくなり、俺から見える周りの景色がゆがみ始める。
その様子を見た、豪華な格好をした人の中から誰かが叫んぶ声が聞こえた。
「全員今すぐその場を離れろ!」
「マジックミサイル!」
その言葉とほぼ同時に、俺の魔法術は手のひらから放たれた……しかし、放った衝撃で俺の体は遥か後ろへと吹き飛ばされ、転がり、大きな爆発音が聞こえたのと同時に俺の意識も吹き飛ばされた。
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