恋ではなかった

 小学4〜6年生の頃、学年の中でも有名な2組のカップルがいた。小学生同士の付き合いがどんなものなのか正解はわからないが、クラスの殆どが知っているくらいには、公になっていた。やがて、そのうちの1組が分かれたという。そのうちの男の子と私は同じクラスで同じ班だった。

 その男子とは好きな漫画の話をよくしていて、自分でも仲が良い友人だと思っていたし、私や彼を含め数人で公園へ遊びに出かけたりもしていた。また、携帯電話を持ち始めた頃だったので、自宅に帰ってからも友達同士でメールで話すことはあった。

 そんな時、彼から一通のメールが来た。古い所謂ガラケーでのことなので、もう記録はないが、「好き」ということと「付き合って欲しい」という文言があったのは記憶している。

 これは、からかわれているのでは、と始めは思った。当時、一部の男子の間で、本気かどうかは不明だが、学年の女子にメールや電話で告白する、もしくは下駄箱に手紙を入れるということが流行っていた。本当に一部の男子だけであったが、私も友人も巻き込まれたことがあった。おまけに、彼は4〜5年生の間に付き合っていた彼女と別れた後である。気にしないわけがない。

 しかし、どうやらその流行の類ではないようだった。彼とは漫画の話が合うし、勉強も教えたりしていて仲は良かった。何度かメールのやりとりをした後、私は告白を受け入れ、彼とお付き合いすることにした。

 付き合ったからと言って何かが変わるわけでもなかった。自分から公言こそしなかったが、教室でも友人から殆ど何か聞かれたら、からかわれたりすることはなかったのだ。いつも通りに過ごして、たまに何人かで遊びに出かけるくらいであった。一つ残念だったのが、一度だけ誘われたのにインフルエンザにかかり、遊びに行けなかったことがあることくらいだろう。

 その後、特に何もなくいつも通りの生活を送りながら中学に上がった。私は勉強と部活でそこそこ忙しかった。一方彼はというと、周りの影響か先輩の影響か、不良街道へ突き進んでいった。不良と言っても可愛いもので、ワルになりきれない反抗心丸出しの子供のようなものだ。根は純粋で面白い、小学生からの仲間達とつるんでいた。小学生時代からおちゃらけたり、ふざけたりでたまに怒られるような彼と彼の友人たちは、確かに、進学したら準不良方面へ流れるだろうとは思っていた。この時点で、全く私の好みの人間ではなくなっていたのである。

 ある日友人と登校していた時のこと、目を見張る出来事が起きた。彼が一つ上の先輩と並んで歩いていたのである。これは、浮気になるのか、いや、そもそも私と彼の関係は自然消滅していたのか。先輩は知っている人ではあったが、さほど関わりもない、確か運動部で、ややおふざけをする男子グループとつるんでいる、私の友人の姉と仲良くしている、細目の女生徒。ただ確実なのは、目撃した時に驚きこそしたが、内心とてもほっとしていた。全く好みではなくなった人と、どう終わりにするか、そもそもまだ関係が続いているのか分からなかったからだ。自然消滅して、かつ、相手がこちらを気にすることなく他所へ行ってくれたのだから。気にしていたのかもしれないが、本人からは何も聞いていないから不明だ。

 どきどきしたのはメールが来た時のみ。好きな漫画の話が合うだけでは、ずっとそばにいる理由にはならないらしいと、学ぶことができたと思う。

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恋に期待しなくなった話 西邑和未 @nishikasu

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