第20話 僕と日常
「山田くん、そういえばこの前のテレビみた?」
僕に脇腹をツンツンされた山田くんは困ったような笑顔で振り向いた。
「この前のってあれ? 湖に恐竜がいるんじゃないかってやつ?」
僕はさすが山田くんと嬉しくなる。
「そうそう! あれね、僕が思うにここからそう遠くない湖だと思うんだよね。テレビでは場所は伏せてたけど地図でいろいろ調べたらそうだと思うんだ」
山田くんはゴクリとつばを飲み込み幸せそうに微笑んだ。
「僕、小さい頃のの夢があって。原始人みたいに恐竜の肉を骨ごと丸かぶりしてみたかったんだ…」
「見つけたらできるよ! あっでも食べたら死んじゃうか。でもさ、トカゲとかしっぽが切れてもまた生えるでしょ? もしかしたら恐竜もしっぽが切れてもまた再生するかもしれないよ。そしたら、しっぽ食べられるよ。どんな味だろうね? やっぱり鶏肉に近いかな。全然食べたことない味か―」
その時だった。僕と山田くんの間にあいつが割り込んできた。クラスのいじめっ子黒井川だ。僕の机をわざとらしくバンと叩いて僕たちを舐めるように見た。
「おい、エイト、またうるせぇよ」
「ごめんなさい。気をつけます」
またいつの間にか声が大きくなっていたらしい。これは僕が悪い。悪いときには悪いと謝るのがマナーってもんだ。僕は謝ったのに黒井川はまだどかなかった。
「お前ら最近よく一緒にいるなぁ。変人同士だから気が合うのかなぁ」
黒井川が誰へともなく同意を求めると、教室のどこからかクスクスと取り巻きたちの笑い声が聞こえてきた。僕はランドセルを背負って立ち上がった。
「変人同士だからじゃないよ。友だちだから気が合うんだよ。ん、気が合うから友だちなのかな?」
ちらりと山田くんを見ると山田くんも首をかしげていた。まぁ、どっちでもいっか。僕は山田くんに笑って手を振った。
「じゃあ、山田くんまた後で」
「うん、また後でね」
黒井川は何か言いたそうにこちらを見ていたが、すぐに良い言葉が見つからないようで口をまごまごさせていた。だから僕が代わりに黒井川に言ってやった。
「黒井川くんも良かったら一緒においでよ」
「はぁ?!…だ、だれが行くかよ…!」
「そう? まぁ、気が向いたらいつでも」
珍しくそれ以上突っかかってこなかった黒井川をそのまま置いて、僕は教室の出口に向かうと女子数人に取り囲まれた星野と目があった。星野が軽く手をあげる。
「私も後から行くわ」
「うん。言っとく!」
手を上げ返して僕は教室を出ていった。
家に帰りつき、ランドセルをそっと玄関に置く。最近ようやく習慣づいてきた。僕も日々成長しているのである。僕が帰ってきたことに気がついたお母さんがリビングからやってくる音がする。
「あんた最近宿題ちゃんとしてるの? 今日こそは宿題してから遊びに―ってこらー!」
時すでに遅し。僕はもう玄関にはいないのであった。
僕は裏の森のゲートを越え、あまり整備されていない林道をしばらく進み、その後、あまりどころか全然整備されていない道なき道をもうしばらく進む。すると、アルコールランプで何かをあぶる時に使う三脚のとっても大きいやつとその三脚の輪の中にぴったりはさまる金属っぽい球体が見えてきた。球体ハウスだ。
マジックハンドに持ち上げられて球体ハウスの底にある入り口から顔を出す。白衣を着た白いアフロの後ろ姿を見つけて僕はとたんに嬉しくなる。
「博士、今日はなにするの?」
博士は振り返りプルプル震えた。
「エイトくん、待っておったぞ。今日は―」
これが僕の楽しい日常だ。
僕と博士と不思議な星のかけら イツミキトテカ @itsumiki
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