条件が厳しい担任の先生
「待って待って落ち着いて。上手くいけば、一億円を優に超える見積もりだったの! ただ、大穴を狙いすぎただけで」
「一億って、大穴に給料全部注ぎ込んだんですか? 三連単とか」
「……うん」
「普通に考えて当たるわけないでしょ。なに考えてるんですか」
「う、うぅそうなんだけどね……。でも朝の占い一位だったし、なんとなく当たる気がして……ってあれ? 黒木くん競馬のこと知ってるの? もしかして、黒木くんも競馬好き?」
「全く好きじゃないです。ただ、親の影響でちょっとだけ知識はありますが」
「そうなんだ……」
なんでちょっと残念がってんだよこの先生は。教え子が競馬にハマってたら大問題だろ。
競馬は、馬の着順を予想して一喜一憂する賭博。
三連単とは、一位二位三位の馬を全て予想して賭けるため、的中率は極めて低い。
その分、当てた時の配当は高く、時には百円が百万円に化けたりするが。
「教職についてるんだから、ギャンブルなんかに手を染めないで真っ当に生きてください」
「私だってそうしたいけど、ギャンブルしか趣味がないんだもん」
花宮先生は伏し目気味に口にする。
二十代の女性がハマる趣味ではないと思うんだけどな。……いや、俺の母親も二十代の頃にハマってたから、なんとも言えないか。
俺は乱雑に頭をかくと、ため息を漏らしつつ。
「だったら他に趣味を作ってください。趣味を見つければそれに時間を取られて、必然的にギャンブルから距離を置けますから」
「む、無理だよ! そんな簡単に克服できないんだよ。魔力があるのギャンブルには! 一回あの脳汁が湧き出る感覚を覚えちゃったら、もうやめられない!」
「じゃあ、条件です。金輪際ギャンブルはやらないこと。それが守れないなら、ウチには泊められません」
「……っ。そ、そんな……ひどい!」
「ひどくないです」
がっくりと項垂れる花宮先生。ショックからか、どんよりと紫色のオーラが出ていた。
だが、ギャンブルなんて続けてて良いことは一つもない。薬物と同じだ。いっときの快楽があるだけで、あとで後悔する羽目になる。
「それに、先生は今回の件である程度ギャンブルには嫌気がさしたんじゃないですか?」
「まぁそうなんだけど。でも、新しい趣味って言われてもなぁ……」
「趣味が難しいなら欲しいものはないですか」
「欲しいもの……うーん、彼氏とかかな」
花宮先生は天井を見上げながら、顎先に指を当てて答える。
少し意外な返答に、俺は目をパチパチさせた。
「彼氏ですか?」
「うん。元々ギャンブルも街中でカップルがイチャイチャしてるのを見て、イライラを収めるために始めたのがきっかけだし」
「なんですかその拗らせた理由……。つか、先生なら彼氏の一人や二人余裕でしょ」
花宮先生は、一般的に見て相当な美人だ。
スタイルはいいし、顔も小さい。目はパッチリ二重で、鼻筋は通っている。歳の割に、透明感があってあどけないし、栗色のポニーテールもよく似合っている。多分、制服を着れば普通の女子高生と見間違われるだろう。
よほど選り好みしなきゃ、彼氏はすぐにでもできるはずだ。
「え、彼氏出来たことないよ私」
「本気で言ってます?」
「うん。高校までずっと女の子に囲まれた生活してたし、大学じゃ変に男性を意識しちゃって芋臭くなっちゃってさ。社会人になってからは出会い以前に、仕事で忙しいし。たまの休みも競馬とかパチンコとかだし」
「残念な人だったんですね先生……」
「うわ、直球だなぁ」
単純に出会いがなかったということだろう。
視線を下げ、どんよりとテンションを下げる花宮先生に俺は告げる。
「でも、それなら尚更彼氏を作ってください。先生なら、その気になれば明日にでも作れますから」
「ほんとに言ってる?」
「はい」
「そう、なんだ」
鏡見た事ないのか?
これだけ容姿端麗でスタイル抜群なら、彼氏がいない方が不自然だ。
「一応聞きますが、彼氏にする条件とかってありますか?」
「え、そうだなぁ……。優しくて格好良くて、しっかり者で、家事炊事が万能で、面倒見が良くて、私を甘やかしてくれて、気立が良くて、私の話をちゃんと聞いてくれて、常に一緒にいてくれる人、かな。あ、あと歳下がいいな」
「すみません先生。やっぱ彼氏は諦めてください」
「明日にでもできるんじゃなかったの⁉︎」
どこにいるんだよ、そんな都合のいい男。
いくら花宮先生の容姿が優れてても、彼氏に求めるモノが多すぎる。これだけ条件があると、花宮先生に彼氏を作るのは難しいだろう。
まず、格好良くての部分で大概の男が詰む。
「もう少し条件を下げてください。そんな男そうそういませんし。いたところで、普通カノジョ持ちです」
「あ、確かに」
「取り敢えず当面は彼氏を作ることに尽力してください。ギャンブルには手を出さないように」
「……うぅ、わ、わかった。頑張ってみるね」
かくして、ギャンブルから足を洗うことを条件に花宮先生を家を泊めることになった。
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