第22話 みんなのひみつが実る時2

(ん? 何だろ?)

 あの発表の日から5日たった木曜日。

 私は、机の中の小説ノートに白い紙がはさまっているのに気づいた。

(これって……)

 理輝くんに、シナリオライターとしてスカウトされた日のことを思い出す。

 私は指先で紙片をつまむと、そっと引き出した。

(あ……)


『伝えたいことがあるんだ。

 放課後、4階渡りろうか横の

 掲示板前に来てほしい。

        新川理輝』


 あの日よりもくだけた口調の、あの日とそっくりのメッセージ。

(理輝くん……)

 私は理輝くんの席をふり返る。

 理輝くんが目を細め、小さく手をふるのが見えた。

(なんだろう、伝えたいことって……)

 透路第二小学校の告白スポット『4階渡りろうか横の掲示板前』。

(前に呼び出された時は、ゲーム制作メンバーのスカウトだったけど)

 もうゲーム作りは終わってる。

(じゃあ、今度こそ、もしかして……)

 心臓のリズムがトクトクと速さを増していく。

 先生の話なんて、全く耳に入らなかった。


「今回は僕のほうが早かったね」

 4階渡りろうか横の掲示板前。

 私が到着した時、そこにはすでに理輝くんがいた。

「ご、ごめん、おくれちゃって」

「ううん。前回は僕が待たせたからね。おあいこ」

 実はかなたを先に帰すのに、ちょっと手間どったんだよね。

 最終的に「先生から用事をたのまれた」ってウソついて。

(でもなんとなく、察してるって顔してたなぁ、かなた……)

 そのあと、お手洗いに行って髪をチェックしてたら、こんな時間になってしまったわけで。

「そ、それで理輝くん……」

 きんちょうで、ちょっと声がのどに引っかかる。

「伝えたいこと、って?」

「うん……」

 秋の夕方の光を浴びて、理輝くんの髪のふちが黄金に輝いてる。

「明日果ちゃん……」

 せせらぎのような静かな声。

 ほんのりとあまい。

「僕さ、明日果ちゃんとゲームを作り始めてから、毎週、木曜と土曜が楽しみで仕方なかったんだ」

「!」

「この日になれば明日果ちゃんと話ができる。そう思うと、いつも待ちどおしくて……。2人で過ごす時間は、僕にとってかけがえのないものになってたんだ」

 同じだ。

 私も、理輝くんと同じ気持ちだよ……。

「ゲームが完成した時、すごくうれしかった。それと同時に、すごくさびしかった」

 理輝くんのすみきった瞳が、私を見る。

「これからは、明日果ちゃんとのあの大切な時間がなくなっちゃうんだって……」

 わかる。

 私たちの気持ちは同じだったんだ……。

「だからね?」

 理輝くんが私に1歩近づいた。

「お願いがあるんだ」

 理輝くん、少し泣きそうな顔をしてる。

「ワガママだって、わかってる」

 理輝くんの手が私の手首をとらえた。

「だけど、どうしても明日果ちゃんじゃなきゃだめなんだ」

(理輝くん……)

「明日果ちゃん」

 理輝くんの瞳に、強い光が宿る。

「僕の……」

 僕の?

「僕のパートナーになってほしい!」

 っきゃぁああああああ!!!

 頭の中で、いくつもの花火が打ちあがる。

 ウソみたい!

 カノジョだよ、私!

 理輝くんのカノジョ!!

 えええええ、本当に!?

 夢? ううん、夢じゃないよね!?

 ゲーム作りを通して育ててきた2人の気持ちが、ついに実る日が来たんだよ!

 あぁ、どうしよう、明日からどんな顔をして過ごせばいいの!?

「あの……」

 理輝くんが不安そうに、私の顔をのぞき込む。

「返事、どうかな?」

 あぅ、忘れてた。

 頭の中はお祭りさわぎだけど、あまりの衝撃に返事を伝えてなかった!

「わ、わたひも」

 かんだ。

「私も、理輝くんとそうなりたいと、ずっと思ってたから……」

「本当? よかったぁ!」

理輝くんが、満面の笑みを浮かべる。

「明日果ちゃんがいてくれれば、次回作もきっと面白いものになるよ!」

 うんうん、次回作も面白く……。

 ……。

 …………。

 はい?

「えっと、理輝くん? パートナーって、もしかして……」

「ゲーム作りの最強コンビ、ここに結成だね!」

 ……あ。

 あはは、そういう意味かぁ、あはははは……。

 そうだよね、うん、知ってた。

 わーい、最強コンビ結成だぁ、やったぁ!

 って、カノジョじゃないじゃんっ!!

「明日果ちゃん?」

 理輝くんは、不思議そうに首をかしげている。

「どうかした?」

「いや、別に、はは……」

(ちょっとガッカリしたけれど)

 私は1つため息をつく。

(また、理輝くんといっしょの時間を過ごせるってことだよね?)

 そう思うと、ワクワクした気持ちがふくらんでくる。

 自分の頭の中で生まれた物語が、たくさんの人にふれて、現実世界に飛び出していく楽しさを、知ってしまったから。

「これからもよろしくね、リーダー」

 気を取り直して私が言うと、理輝くんは肩をすくめて笑った。

「うん。よろしくね、大切なパートナー」

 私たちは夕日の中であくしゅをする。

 校庭で遊ぶ男子のはしゃぎ声を遠くに聞きながら。

(でも、カノジョになるの、あきらめるつもりないからね)

 私はあくしゅの手に、ほんの少し力をこめる。

(理輝くんが夢中になるような物語、どんどん書いてやるんだから!)



  ――終――

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ゲーム作りはひみつ色 香久乃このみ @kakunoko

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