気になるアイツ
平 遊
気になるアイツ
「あー、あっちぃ。」
あたし達の高校の制服には、男女ともにネクタイが付いている。
ネクタイって、首もと、窮屈じゃない?
冬だって締めたくないのに、夏なんて暑苦しいったらありゃしない。
だから、あたしはいつも、ブラウスの第2ボタンまで外して、ネクタイも緩めっぱなし。
いちお、ネクタイは付けてるし。
スカートは、パンツ見えちゃうギリギリまで短くしてる。
この方が可愛いし、なんたって、涼しいし!
あっ。今、デレ顔したヤツっ!
残念でしたっ!
もちろん、ちゃんと見せパン履いてるよ。
そんなの、あたしらの間では、常識。
あたし達の高校は、そんなに校則にはうるさい方じゃないと思うんだけど・・・・
やたらとうるさい奴らがいる。
風紀委員の奴ら。
何が楽しいんだか、制服の乱れを正せだの、髪を染めるなだの、いちいちうるさいっつーのっ!
でも、奴らの情報が先生達に流れて内申点に響くという噂もあって。
みんなは、あいつらの姿を見つけるとすぐ、注意される前に制服直したりしてた。
「藤原 円。」
教室移動の時に忘れ物に気づいて、一人で戻った時だった。
あたしは、風紀委員の中でもとりわけ小うるさい四宮に捕まった。
四宮 堅。
名前の通り、超堅物。
よく見ればイケメンなのに、この小うるさい性格のせいで、周りからはだいぶ煙たがられてる、残念イケメンだ。
「なに?あたし今、急いでるんだけど。」
なんだか知らないけど、四宮はあたしを目の敵のようにして、見かける度にあれこれうるさく注意をしてくる。
あんまりうるさいから、前に一度言ってやったことがある。
「風紀委員だかなんだか知らないけど、だから何だって言うのよ。風紀委員とやらは、そんなに偉いわけ?」
その時の、四宮の顔。
目をまん円くして、ポカンと口開けて。
ちょっとだけ、可愛いとか、思っちゃった。
でも、それから後も変わらずうるさいから、正直うんざり。
「何度でも言わせてもらうが、制服は正しく着用しろ。」
「うっさいな、暑いんだから、しょうがないでしょ!」
丁度その時、渡り廊下の向こう側を、他のクラスの女子が通った。
あたしと同じく、スカート短くして、ネクタイ緩めて。
なのに、四宮は、チラッとその子を見ただけで、何の注意もしないで、まだあたしの事を見ている。
なんなのよ、コイツっ!
頭に来て、あたしは言った。
「なんであんたは、いっつもあたしにばっかりうるさく言うのよっ!」
すると。
四宮はツカツカと歩いて私との距離を縮め、緩めていたあたしのネクタイをグイっと掴んだ。
えっ?!
殴られるっ?!
とっさに目をつぶったあたしの唇に。
四宮の唇が、触れた。
なっ、なにっ?!
急にネクタイを離され、よろけながらもなんとか踏ん張って四宮を見ると。
「これが答えだ。文句あるか?」
奴は涼しい顔をしてそう言い放つ。
「ふっ、不純異性交遊じゃないのっ、教室でこんなことっ!」
無駄にイケメンなもんだから、あたしの心臓、壊れそうなくらいにドキドキしちゃって。
それでも、なんとか言い返してやったんだけど。
「不純?」
器用に片眉を吊り上げて、奴は言い、
「俺は、純粋にお前が好きだよ、藤原。」
ニヤリと笑った。
そのあとの事は、よく覚えてない。
移動先の教室に走って戻って、誰かとなんか話した気がするけど。
あたしの頭の中は、悔しいことに四宮のことでいっぱいだった。
アイツがあたしにばっかりうるさく言ってきたのって、あたしのことが好きだからってこと?!
なんなのっ、それっ!
堅物で小うるさい、残念イケメンのクセにっ!
でも。
あたし・・・・イヤじゃなかった、アイツのキス。
ってことは。
あたしも、アイツのこと・・・・
「藤原 円。」
放課後。
一人で教室に残っていると、今日の風紀委員見回り役の四宮が来た。
奴が来るのは、知ってた。
だから、教室に残ってた。
もちろん、ブラウスのボタンは2つ目まで外してネクタイは緩めたまま。
スカートは、パンツギリギリまで短くしたまま。
「お前はまた・・・・」
やれやれ、とでも言うように額に片手を当て、奴はため息を吐く。
「何故、制服くらい、正しく着用できないんだ?」
その言葉に、あたしは勢い良く立ち上がった。
弾みで椅子が派手な音を立てて後ろに倒れたけど、構うもんか。
ズカズカと奴に近づき、キッチリ締められているネクタイを、思い切り引き下ろす。
「なっ・・・・」
目の前にある、驚いた四宮の顔。
「なにをっ」
騒ぎだされると面倒だし。
あたしは、四宮の口を、キスで塞いだ。
多分、ほんの数秒くらい。
ネクタイを離した後も呆然としている四宮に、あたしは言ってやった。
「これが答えだ文句あるか!」
暫くの沈黙のあと。
奴は小さく笑って、言った。
「いや・・・・降参。」
そして、両手を上げる。
「あたし、これからもずっと、制服なんか直さないからね。」
「それなら俺だって、何度でも注意するさ。」
「あっそ。じゃねー。」
なんだかいい気分で帰ろうとしたあたしを、奴が引き留める。
「ひとつだけ、直してくれないか。」
「はぁっ?あたしの話聞いてた?あたしは制服なんて直さないって・・・・」
「見えるんだよ、その・・・・ブラ、が。」
「・・・・え゛っ!」
見れば、奴は真っ赤になって横を向いている。
「だからせめて、第2ボタンだけは、留めて欲しい。」
「・・・・ばか。」
奴に背を向け、あたしは慌ててブラウスの第2ボタンを留めた。
【終】
気になるアイツ 平 遊 @taira_yuu
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