丁寧に描かれたじんわりと心温まる物語はまさにハーブティー!

平凡で、けれど平凡なりに幸せな人生を送ってきた主人公は、交通事故により死に——なんの因果か悪役令嬢に転生してしまいます。なってしまったものは仕方ないと、彼女は異世界での二度目の人生を謳歌することを決意。お菓子作りやお庭仕事のお手伝いを始める彼女でしたが、その異世界ではハーブが活用されていないことに気づきます。そして、ハーブティーを飲みたいという一心で前世の記憶を活かし……。

性格の悪い令嬢に転生するということで、この物語は悪役転生ものとしての要素を持ちます。しかし他の物語とは違い、主人公はこの世界に対するメタ的な知識を持っていません。主人公にとって、これは「物語の世界への転生」ではないのです。それゆえに、破滅回避に奔走する他の作品に対し、この作品はどちらかというと知識チートものとしての要素が強いでしょう。ハーブという異世界には存在しない概念を、前世で得た知識を活用して、異世界にもたらすのです。

破滅のような切迫した危険にさらされているわけではない(ということになっている)ため、物語はほのぼのとした平和な展開をします。また、ハーブという題材はいい意味でシンプルで、大げさなチートや技術革命などではありません。前世で得た知識とはいえ、「趣味の知識」という範囲に収まっていて、主人公はやはり普通の人です。しかしだからこそ感情移入しやすく、安心して読み進められる雰囲気が形成されています。

一人称視点で語られる地の文には、ノリツッコミのような冗談もあり、文体はとても軽いと言えるでしょう。この物語の雰囲気とよくマッチしていて、こういったところからも、気楽に読み進められるという評価に繋がります。しかし決して描写不足というわけではなく、ストーリー展開は丁寧で、無駄も突飛さもありません。

キャラクターも魅力的に描かれています。まず、主人公がかわいい。平凡で、だからこそ真人間な主人公。それでいて、子どもに転生したことを活かして、前世ではできない「鼻歌を歌いながらのお菓子作り」をするなんていうところもあって……。かわいい!

ネタバレになってしまうため詳しくは語れませんが、子煩悩な両親、主人公のことが大好きな親友、ツンデレ的で年相応のかわいさを持つ親友の兄など……。皆生き生きとした魅力的なキャラクターです。

完結お疲れ様でした。そして書籍2巻の発売おめでとうございます。私はまだ最後までは読めていないのですが、どうかこの気持ちを伝えさせてください。心温まるよい作品です。ありがとうございます。ゆっくりと、じっくりと読み進めようと思います。

このレビューを読んでいる未読の人へ:
とりあえず9話まで読んでください。この物語のよさを、きっとご理解いただけると思います。

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