2年目

赤い貴方が好きでした。


応えが分かりきっていたって口に出さなければ後悔しか残らないのに。ダメでしたね。私じゃダメだった。

そりゃ貴方からすれば私は子供。

しょっちゅう迷子になる小学生の手のかかるガキんちょ。

わかってた、わかってたよ、知ってたもん。

ちゃんと私知ってたんだよ。

お兄ちゃんが私の知らない女の人に惹かれてるって

言ってなかったけどなんとなく知ってたよ。

真面目で頭が良くて大人をからかう事すら簡単なお兄ちゃんなのに、“先輩”のことを話す時は表情がコロコロ変わってて別人みたいだった。

好きなんだろうなぁ…好きなんだろうなぁ…

その横顔がいつも痛かったけど、一緒に居るのは楽しかったから隣にいたかった。

本当はもっと近い距離の隣に居たかったけど結局叶わなかった。

椿になっちゃったんだもんね 。

そうなりたい気持ちも、わかるよ。

お兄ちゃん、一緒に桜見ようって言ってたよね。

先輩は桜みたいに綺麗な人だって言って写真撮りたがってたよね 。

私も桜になれるかな。


この蛙の、何故かいつもアイツを思い出してしまう橙色の身体。

舐めれば終わり…だよね?

貴方に会いたい。舐めた、蛙を舐めた。

じめじめとした身体を素手で掴み躊躇いもなく舐めた。荒い呼吸で咲き乱れ、心臓が止まれば舞い散る。

桜は終わりなのだ。


春が終わる、桜が散る、少女は消える。

何を思ったか何がしたかったのか、もう知る術は無い。



胸の辺りを掻きむしったらしい。赤くなっていたらしい。もうこの白い破片じゃ何も分からない。どんな苦しみを持って死んだのか。


俺のお守りになった。葬式は怖くていけなかった。

桜の花が敷き詰められたお棺だったらしい。お前好みの綺麗な桃色だったらしい。

夏休みがもうすぐ終わる。


兄ちゃんの次はお前かよ。

分かってたけどやっぱキツイな。あの蛙、俺が飼ってるよ。こんなすぐ返ってくるなんて思ってなかったんだけどな。

橙色のコイツ、ちっこい癖にお前を誘ったんだってな

あれほど触んなって言ったのに。

どうせ計画的だったんだろ?なぁ応えろよ、なぁっ!

苦しみが来るって分かってたんだろ?藻掻くことなんて覚悟の上だったんだろ?俺を殺したかったのかよ…なぁ??なぁってば!!!

それともあれか?俺を道連れにしようとでもしたか?罪の意識ですぐお前の元に行くとでも思ってたか?あ??

冷静になんてなれやしねぇだろ。もう無理だ、無理だ、訳わかんねぇよ。

お前がそんな事するはずないって分かってんのに、お前相手にしか何も吐き出せないんだよ。なんでお前は俺を独りにするんだよ。

お前しか俺には居なかったのに…兄ちゃんだって姉ちゃんだって、近くにいるだけ、それだけの人なんだよ

なんで…なんで…なんで…。


好きなんだろうな。


これはただの狂気か?ひん曲がった別のなにかか?依存か?

…もうなんでもいい。面倒くさくなっちまった。

お前が望んでたかどうかは知らねぇがまた鬼ごっこしようぜ。今度は日暮れまでに俺が迷子のお前を1番に見つけてやるよ。

お前がいつだったか俺っぽいって言ってた花、なんて言ったっけ?最近じゃ歌の題名にもなってんだろ?

ついでにそれも聞きに行ってやる。

また教えてくれるよな、俺馬鹿だから覚えらんねぇの知ってるだろ。


薬を飲んで風呂に浸かる。何もかも感覚が遠のく。

お前は苦しんだのに、弱い俺でごめんな。

水の泡は少し前に止んだ。


夏は終わった。

狂気か恋慕か、はたまた敬愛か。

静かにまたひとつ消えたのだ。



綺麗だったよ。前より白くなってた。

久しぶりに会ってこんなにまじまじと顔とか身体を見ることになるとは思ってなかったけど。

居なくなったんだ…ってやっと感じてきたよ。

外はもう紅い葉が落ちようとしてるの。寒い日は苦手だったっけ。

泣かないよ。姉さんだもん。血の繋がりなんてこれっぽっちもないけど姉さんだもん。

嫌われては無かったよね笑

あれで嫌ってたって後からなにか出てきたらショックで流石の姉さんも泣いちゃうかも笑

大人になったね。見ないうちに立派になったね。

もっと近くに居たら良かったな。

そばに居ても結局、死は変わらなかったと思うけど

何でかわかんないけど、居てもいなくても死んでたと思うんだ。

酷い姉さんかもね。なんか整理ついたよ。

なにかがたぶんまだ心をぐるぐるしてるけど終わらせたくなっちゃった。


最後まで姉さんで居させて、格好つけさせて。

苦しみにも打ち勝てる姉さんを見て。


火をつけた。

この秘密基地は姉さんと君しか知らない特別な場所。

ごめんね。ここでしか姉さんで居られる自信なかったんだ。


炎と葉がめらめらと、はらりはらりと一面を紅くした。

秋は終わった、呪縛を解いた、木の葉に思いを馳せた。



キミも死んだのか。

こんなに関係性のある自殺だとしても誰も気にも止めない 。

季節はそんな悲しいものだ。季節でなくとも変わらないとは思うがね。

では貴方は今日、昨日、一昨日、自殺した人間の名を何人言える?

日本の自殺者の人数、とある3年間の1日当たりの平均を出すと70.12人。これだけの人が死んでいる。

今日、昨日、一昨日の3日なら210.36人、さてこの中の何人の名前を知っている?

…知らないだろう?

身近な人間しか人の死を知らぬのだ。そして自殺者の周りの人間は大概、死の真相を知らぬのだ。

死人に口なしと言いうかもしれない。ただ、死ぬ未来を変えられた可能性を誰も考えないのだ。

なんで相談してくれなかった?そんな様子は見られなかった!相談できる環境、己の胸の内を明かせる関係性、何も築く気が無かっただけではないのか。

私は少なくともそう思ってしまうが、仕方の無いことなのだろうな。


人は皆、無関心であろうとするから。

これが一番争い事を生まぬやり方ではある。

だが、それだと信頼関係、愛情、協調性…その他、必ず欠けるものがひとつはあるのだ。仲間、家族へ関心と無関心を上手く使い分けられたならきっと自殺者は出ないだろうな。


ただ私は欠けたものたちが不幸だとは思えぬ。

なんなら羨ましいとまで思ってしまうのだ。

全て与えられたはずなのに、実感があるのに『飽きた』そんな理由だけで死のうとする私のようなクズではないから。

欠けたものたちは、欠けたことが立派な理由になるから。


早く牡丹のように崩れ落ちたい。

腹を横に切り裂いた。

地面にはうっすら氷が張っていた。


冬は崩れる。

なにかに狂い戸惑い荒れた。


季節も人も無情に呆気なく、気づいた頃には居ないのだ。

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獅子月 シモツキ @sisidukisimotuki

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