獅子月 シモツキ

1年目

私は心の中には花があると思うの。

この花を絶やさないようにしなければきっと人生楽しくはないわ。


朝六時に起きて今日の授業の準備をし、自室から出て一階に下りる。

そして朝ご飯を食べながらテレビをつけて今日の天気を見たり世間事情を知る。

六時半になれば一階で寝ている妹と弟、父と母を起こし身支度を整える。

これが昔からひとつも変わっていない私の朝。

家から出るまではずっとずっと変わらない。

例え私という人間の中身が昔と変わっていたとしても、変わらない習慣。

勿論、人間の中身が変わることなんておかしいことではない。

人間なんて生き物はすぐ周りに影響されて、視点がコロコロ変わる。

成長の中で変化していくのも上記と大して変わらない。

成長し周りの状況が変化していくのに合わせてその環境に溶け込む為に、言動だったり捉え方だったりが変化していく。


ただ私は最初から普通とは違った。

幼い頃から大人に変わった子と言われ、それに気づけば大人が喜ぶようになにもかもを取り繕った。

完璧には流石になれはしなかったけれどいつも笑って元気な私を演じていた。

そんな時いじめられた。

理由なんてよく知らない。

急に男子三人に囲まれて男子の仇だなんて言われて殴られ蹴られの日々。


私の心の花はどんどん枯れていった。

枯れた花の代わりにくすんだ色のしぼんだ風船が心という額縁を無理やり埋めるように詰め込まれていった。

けれど笑う私はこのまま続く。

虚無感しかないがこの先もずっとよく笑う私。


いじめに関しての大人の対応なんてもう書かなくてもわかるでしょう?


なにもかもを諦めて何にも期待をしない、ただただ表面だけ笑う私は死ぬ。

死を自ら望み死ぬ。

死を望み未来を見ず死ぬ。


水へ身を任せる。

その後私は箱の中に居て、昔私の心で枯れた花たちは今周りに綺麗に咲いている。

赤、青、黄、紫、白・・・沢山の色とりどりの花たちは私とともに業火に燃やされ焼け溶け合う事を静かに望んでいるの。

誰かの後を追った気もするけれどもう思い出せないくらい今が幸せよ。無理に生きるよりね。


有終の美よ。

こうして春は死ぬ。



ある人は心を、焼け溶け合ってきっと取り戻した。

水に入ったからなのだろう、貴女の美しさは何も変わってはいなかった。


ワタシは本当の貴女を知っていた。

そんなに長い間一緒に居たわけでもないけれどワタシは貴女と一番近い場所にいた。

早く貴女を追いたかったけれど死を整理できるまでは死んでも貴女と会えないと思って。

そんなの逃げだって分かっていた。

自分が死ぬことを恐れていたなんて勿論気づいていた。

毎日貴女に関わることとワタシ自身のことを考えていたらあっという間に向日葵が枯れてきていた。

貴女が死んだときにはまだ蕾ほどだったのに。


終わりが来た。

決意ができた。

答えが分かった。


ワタシは『許せない』んだ。


貴女と、ワタシを。

そしてワタシは夏だ。

この夜に、あの枯れた向日葵に飛べばいいんだ。

そうすれば終わることができる。

何も思い残すことなんてない。

飛んで貴女の元へ行けたならあの時口に出来なかった言葉を言ってしまおう。


夏は死ぬ。


春を追う。

夏だと自覚して飛ぶ。

最後まで記憶の隅に置いていた言葉を認めた。

認めざるを得なかった。


彼女が春だと知っていたから。 



青空に白い雲。

遅咲きの黄金色の花に包まれた貴方。


焼カレル貴方ガ幸セソウニ見エタ。


見たくないものを見たようなゾクッとした感じが襲ってきた。

けれど私が見ているのは最後の貴方。

見たくないわけない。

愛しい貴方。

けれど貴方の瞳に、心に最後に映ったのは私じゃなかった。

憧れにもう少し浸っていたかったなんて我儘よね。

貴方って死んでも尚残酷ね。

冷静になって考えてるはずなのに愛しいが裏返っているみたい。

落ち着かなきゃ。


【今生きている私が貴方を愛している】


それで十分。

これさえ残ればいいのよ。

そうよ、私、だめよ、私。

貴方のところへ行きたいなんてまた我儘。

追いかけても追いかけても貴方には追いつけない。

そんなこと、とうの昔にわかっているはずなのに届かないものに手を伸ばしたくなるの。

本当に私ってバカよね。

あーあ、時が過ぎるのが早い。

もういいかな。

〇色の君からもらったネックレスの代わりに、天井と繋がった安っぽいネックレスをつける。

チクチクして少し痛いわね。

貴方の痛みよりはきっと随分楽なものなのでしょうけど。

窓から落ちた公孫樹の葉が見えた。


もう終りね。


黄金色の貴方はカラフルなあの人を想って、黄土色の私は黄金色の貴方を想った。

誰も報われはしないけれど誰もが恋焦がれる。

私たちってなんでこんなに残念な人生なのかしら。


私を想ってくれていたのはきっと〇色の君なんだよね。

ごめんね、私で。

君は私と同じにならないでほしいな、なんて。

また我儘か・・・。


そして秋は死ぬ。

秋はただ想いを胸に。



貴女も死んだんだね。

わかってたよ、こうなること。

大体予想はついてたよ。

でも心は追いつかないよ。

すぐ受け入れられるように色々イメージしてたつもりなんだけどなぁ。

現実はやっぱ違うな。

貴女はあいつに想いが届かないってわかってたのに、なんで僕を選んでくれなかったの。

って、僕も貴女と変わらないことしてるんだけどね。


でも僕なら貴女を幸せにしたのに。

勿論僕を選ぶ未来なんて何度人生やり直したとしても来ないなんてことわかってるよ。

わかってるけど、そうなればって思っちゃうんだよ。


貴女は首を吊ったから貴女の美しさは何も変わってなかった。

皮肉かな・・・なんて僕のとりようだよね。


さて、そろそろ僕も死ななきゃ。

貴女にまた会えるなら死んでもいっか。

前みたいに頭、撫でてくれるかな。


僕たちは季節だから。

今までの人たちが季節だって自覚して認めて死んだのか。

何も知らずに追い詰められて死んだのか。

僕には分からないけど、季節はどうやっても先を見るしかなくて死ぬしかない。

季節の僕たちは絶対死ななきゃいけないから、先人に恋をしてしまう。

恋に焦がれれば想い人が死んだから死ぬってことが起きる。

時々季節が短い時があるけどそれは季節が早く死に過ぎたせい。

何も考えずに衝動で死ぬとそうなる。

秋は衝動で死ぬ人が多いらしい。


そういうものなんだって学校で言ってた。

けど珍しく貴女は長かったような気がする。

学校で季節を習うとみんな自分が季節じゃないことを願って生きる。

誰かに狂ったほどに恋をしたとき気づくことが多いらしい。

僕もそうだった。

季節だって気づいてたからいつ死ねばいいか加減できる。


優等生でしょ、僕。

貴女に好かれたくて優等生してたんだよ。

季節だってわかってたのにね。

そろそろ椿が散ってる。


もう僕の季節は終わりだね。

バイバイ。胸に刺さった黒い持ち手の周りに赤い染みが広がっていく。 


冬は死ぬ。季節を知って、理解した上で死ぬ。

報われないのに望んで、追いかける。誰かへの想いを馳せて。


「赤色の貴方が私は好きでした。」


悲しく美しい季節はこれまでも、これからも変わらずに巡る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る