6、ネコ助

三島と恋人繋ぎで手を絡ませながら、彼女の家へと向かっていた。

自然と猫の話になっていき、そこについて盛り上がっていた。


「三島の家の猫はどんな猫?」

「茶トラの雑種!」

「モフモフしてる?」

「ここだけの話ですけど……、めっちゃモフモフです!」

「モフモフ!」

「モフモフ!」


モフモフ猫をイメージしながら、メチャクチャ可愛いじゃん!とテンションが上がる。

前世でも小学校の友達が家で猫を飼っていることに憧れたものである。

因みに豊臣家では度々無人島で消息不明になる家族なので猫を飼えるはずがなかった……。

明智家はおじさんが動物嫌いである。

そんなわけで、本物の猫とは縁のない生活を送っていたのである。


因みに叔父さんはサンドラのことを俺が買ってきた猫型の動く機械仕掛けのオモチャと説明しているので、二足歩行をしようが、人間の如くゴロゴロしてようが、テレビ見てようが、風呂入ってようが、喋ってようが、飯食ってようが、PCの上で寝ないでむしろそれを操作してようがハイテクなロボ程度にしか認識してないようである。

爪研ぎをして家をボロボロにしないので『オモチャでええのう』と興味なさそうである。

そうなるとド●えもんのアニメの偉大さが、猫型の機械はなんでもありという認識を与えて違和感を消し去っているらしい。

おばさんも最近はサンドラが何をしようがそういう猫だと認識しつつある。


「ここがボクの家です!」

「おぉ!三島の家だ!表札も三島だ!」

「恥ずかしいですよ……。近所でも珍しい名字なんです……」

「俺も明智って名字は親戚しか知らないなぁ……。それも小学生の時にちょろっと親戚に会っただけだし、それ以来か……」

「親戚に同年代とかいます?」

「2個下にいるよ」

「星子ちゃんでも名字違うのに、なんか複雑ですよね」

「それなっ!」


小学生の時に叔父さんの弟家族と会ったっきりか……。

かれんとは極力関わりたくないんだよなぁ……。

原作だと危険な奴であった……。

まぁ、原作だとゲームの描写がないところで明智秀頼と繋がりがあって彼が上手く操っていた。

かれんとは度々会うようになった経緯が原作ではあったわけだが、俺はそのフラグをガキの頃に砕いている。

結果、俺とかれんの間にはただの親戚という関係しかない。

ただの他人。


原作では明智秀頼に軽蔑され利用されながらも執拗なほどに慕っていた彼女はもう存在しない。

今は俺のことなんか完全に忘却してどこかで平和な学生をしているだろう。

第5ギフトアカデミーに通うのかすらわからない。

本当に一生会うことがないような親戚である。

幼馴染みで家が隣の佐々木絵美と違って無理に俺と関わる必要もない位置にいるのだ。

原作の範囲外で幸せになってくれればと思う。


「でも明智って名字ですと光秀とか小五郎のイメージしかないですもんね」

「ブッ……!?」

「明智さん……?」

「ご、ごめっ……、ごめん!むせただけっ!」


急に前世の名前を言われるとドキッとする。

明智光秀だと特段なんとも思わないのだが、光秀だけで呼ばれると俺の名前を呼んだのかと無意識に反応をしてしまう。

この癖は直りそうにない。


「落ち着きましたか……?」

「うん……。三島の家の前で緊張しているらしい……」

「そ、そこまで緊張するようなことじゃないですよ!あ、ちょっと5分くらい待っていただいても良いですか?」

「あぁ……。待ってるよ」


玄関に俺を置いて「ただいまー」と家に入っていく三島。

その意味がわからない俺ではない。

三島が部屋の片付けをしている間、三島家の玄関でソワソワしてしまう。

この間に家族が来て不審者に間違われないかとか色々と気にしてしまう。

数分スマホとにらめっこしながら彼女を待っていると「お待たせしました!」と三島の声がして顔を玄関のドアに向ける。


「ネコ助もいますよ」

『ニャア!』

「すっげぇ、モフモフ!」


猫を抱きながら足と身体でドアを抑えている三島に気付き、手を伸ばして支える。

それに気付くと彼女から「ありがとうございます!」とお礼をされてこそばゆい。

感謝されることに慣れていなくてドキドキする。

ドアを閉めると、猫のネコ助が『ニャアニャア』と可愛い声で鳴いていた。

凄く癒される声だ……。

ウチの猫っぽいエセぬいぐるみに聞かせてやりたい本物の猫だ。


「俺もネコ助、抱いてみて良い?」

「ネコ助は可愛いのですが全然人に懐かないんですよね……。引っ掛かれるかもしれませんが大丈夫ですか?」

「おう!それより痛い体験何回もしてるから!」

「違う意味で大丈夫ですか!?」


虐待や、達裄さんに半殺しの怪我寸前まで修行をしたりと痛みには慣れっこである。

人より痛み耐性は強いと自負している。

恐る恐るネコ助を差し出す三島から、俺も猫を受け取る。

前世でたくさんいた小学校の友達の家の猫を思い出す感覚である。

腕にすっぽりと収まると、モフモフの毛の触覚が広がる。


「あ、可愛い」

『にゃん!』


ネコ助が俺の胸に頬擦りをしてくる。

暴れるどころか俺に甘えてきてメチャクチャ可愛い……。


「ネコ助が初対面の人に懐いてる!?」

「そんなに驚くことか?」

「だって家族で2年くらい一緒にいるお父さんと弟には全然懐いてないんですよ!?」

「それは大変だな……」


でもネコ助はそんなに暴れるといのが信じられないくらい大人しい。

喉を触ると気恥ずかしそうに鳴く。


「はっ!?ネコ助がイケメンに媚びてる!?」

「イケメンではないよ……。そんな意図はないよなネコ助?」

『ニャア!』

「意思疎通してる!?」

「まぁ、普段から猫と意思疎通してるから……」


彼女とはいえ、流石にイケメンは盛り過ぎである。

でも三島にそう言われると嬉しくなった。

ネコ助を抱きながら照れていた時だった。


『あれ?姉ちゃん帰ったん?もしかして来客?』


不意に少し高い少年の声が耳に届いてきた。


「うん、来客だよ」

『もしかして深森先輩たち…………え?』


ガチャと扉が開いた音と共に三島とよく似た中性的な少年とガッツリ目が合う。


「ね、姉ちゃんの彼氏!?姉ちゃんに彼氏いたのっ!?」


そういえば三島遥香に弟がいたんだっけか……。

ゲームでは立ち絵もなく、小説版とかでもキャラデザがなく、アニメ未登場の弟君……!?

地味に佐木茂より不遇なキャラクターである。

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ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役として転生してしまいました。そして主人公が無能すぎて役にたたない……。 桜祭 @sakuramaturi

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