アンノウンマザーグース

文車文

プロローグ

 異形の存在に破壊され燃え上がる市街地

  蹂躙される市民

   事件収束の為に惨劇を駆け回る魔術師

 煙る硝煙、轟く爆音、倒壊する建物の下敷きになった女性が偶然にも巻き込まれなかった我が子を抱き寄せようと手を伸ばすが……

 幼子の体は遅れて降る瓦礫の向こうに消える

 鳴き声は聞こえずかわりに瓦礫の下から誰のとも解らなぬ血が染み出す


 市街地から少しばかり離れた海上、小型船の甲板上に白衣の男が佇む。男は身体を小刻みに震わせていたかと思うと突如、上空を見上げ笑い出した。


 「ふふ ふふ ふふ ふははははははははは!」

「不安定だと聴いたが中々にいいもんじゃぁないか!? これで愚者どもがどれだけ死んだかは気になるところだが……」


 風貌に似合わぬ軽快な口調で語り出す男の足元から紫電が飛翔する。男の不意を突く形で撃ち出された藤色の槍は男の額を貫通する……筈だった

通常では有り得ない法則に従い飛翔した雷槍は『何か』に阻まれ霧散する。

男は雷槍が撃ち出された事に気にも留めず足元に転がる青年に語り出す

 「あれから生成した呪術式を使用したのにも関わらず意識を保持しているとはな……精神干渉系術式に理解が有る?いや跳ね返っている様子も無し……なる程、結界で自他を切り離したのかい?」

「だからこそ、魔術師らしからぬあの重装備か!なまじ魔力が籠もっただけの物ではそこから感染してしまうからなぁ」

「まぁ、そんなことはどうでも良いのだが」


 男は足元に転がる青年から視線を動かし向こう岸で巻き起こる地獄絵図を指さす


 「少年、あれを観てどう思う」

「自らを最強と謳う人類が失敗作ではあるが目指すべき高次の者によって淘汰される」

「これこそ適応淘汰、赤へ至る道だと思わんかね」

 崩れる街から視線を外し甲板に転がる青年に目を向ける

 「あれが赤だと……意思をなくし全てを否定するあれが極地だと、笑わせるな」


 魔術を撃った反動か、それとも感染が始まったのか

私の足元で苦悶の表情を浮かべながら答え、再度、魔法陣を展開する


 「ふむ、本来我々と同じ理念を持つ魔術協会の君でもアレには否定的か……」


 「喧しいぞ 我々が貴様らと同じ訳があるか?」

「貴様らのせいで友が、子が死んだのだぞ!?」

「この心が!紅が!貴様にわかるのか!!」


 懐から短剣を取り出し展開せれた全ての魔法陣を切り裂きながら腰、足へと魔力を巡らせ身体を捻りながらも起き上がる青年の側頭部を蹴り飛ばす。


 「流石、鉄仮面と呼ばれた男だまだ立つとは」

「君とはもう少し話していたかったがそろそろ時間だ」


 突如、男の横の空間が歪み捻れる

出現したのは人一人分の洞。暗く、覗く全てを等しく呑み込む虚ろ


 洞が出現したのを見届けると男は足を高く上げ叩き降ろす


 ――少年は鉄仮面となったのだった

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アンノウンマザーグース 文車文 @hugurumaaya

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