カーバンクルの森協会職員※供養編その3
「そちらのお子さんはどうですか?」
「うーん……まだちょっとよそよそしいというか……警戒されてるみたいなのよねぇ……餌を皿に置いても人が見てるとこでは食べてくれないし」
一人の青年が、玄関先で老婦人と話している。青年は「カーバンクルの森協会」の職員であり、老婦人は協会からカーバンクルを引き取った里親の一人であった。
「また来ます。もし不安なことがあれば伝えてください」
「悪いわねぇ。譲渡先探すの、頑張ってね。私も友達に話してみるから」
「ありがとうございます」
青年は赤い帽子を脱いで一礼すると、玄関先をあとにした。その背に向かって、老婦人はにこやかに笑いながら手を振った。
青年はもう十年も前、それこそ彼がまだ十五の頃から「カーバンクル保護の会」の奉仕職員として活動していた。会の活動が過激化する中で、彼もまた違法行為に手を染めた。カーバンクル捕獲器を破壊して回り、管理局による捕獲作戦を妨害したのだ。それだけでなく、捕獲器を設置していた職員と遭遇した彼は職員に殴る蹴るの暴行を加え、あえなくお縄となった。彼は懲役刑となり、若年期の貴重な歳月を牢獄の中で費やした。
ようやく刑期を終えて出所した彼は、カーバンクル保護活動を取り巻く環境ががらりと変わってしまったのを痛感した。世間では「カーバンクル保護団体=テロリスト」と決めつけられていて、「カーバンクル保護の会」も消滅していた。保護の会は「カーバンクルの森協会」「カーバンクル保護戦線」の二つに分派していて、後者は山中で武装蜂起する事態となっていた。
牢獄の中で頭を冷やし、今までの行いを全て反省した青年は保護活動から一切身を引くつもりでいた。けれどもそんな折に「カーバンクルの森協会」の職員となっていてかつての親友から、こんな誘いを受けた。
「うちの協会、資金繰りがうまく行かなくて解散しちゃうんだ。手元で預かってるカーバンクルの引き取り先探してて……それだけでも手を貸してくれないか」
青年は悩んだが、色々と思い悩んで考えているうちに、生命を思いやる心だけは自分の内側に残っていることがわかった。青年は「カーバンクルの森協会」の奉仕職員となり、譲渡先探しに精を出している。
「おかえり、レミィ」
家に帰ると、灰色の毛をしたカーバンクルが駆け寄ってきた。まだ推定二歳ほどの若い牡のカーバンクルだ。青年が協会から引き取った個体である。若い個体は順応性が高く、当初は警戒心が強かったレミィも今はすっかり青年に懐いている。
青年はしゃがみ込んでレミィを抱きかかえた。ふわふわの毛を撫でながら頬ずりすると、レミィは気持ちよさそうにみゃあと鳴いた。
――俺が守れるのは、せいぜいこのレミィぐらいだ。
青年は腕の中であくびをするレミィを抱っこしながら、リビングへ向かった。
カーバンクル保護の会奉仕職員リーア・カミング 武州人也 @hagachi-hm
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