第38話 デファの街、ライブその2!

「や、やるじゃないのっ! アンタの呪歌ジュカ、良かったわよ……」


 リハーサルを終えて、再び楽屋に戻る途中、俺はケイトに声を掛けられた。


「あ、どうもありがとう……」

「お礼されるために言ったんじゃないし! 勘違いしないでよねっ!」

 扱いの難しい子だなぁ……。


「本番ではワタシも負けないんだからねっ! これは宣戦布告よ!」

「……うん、俺も負けないように頑張ります。よろしくお願いしますね」

 俺は握手でもしようかと手を差し伸べた。が、ケイトからの反応は無かった。

「――――っ!!」

 ケイトはダッ、っとひるがえり楽屋に帰っていった。

「…………?」

 やはり不思議な子だ。



 俺も楽屋に戻ると、何やらトリュがろくろを回すようなポーズを取っていた。何をしているんだ?

「トリュ、何を――」

「しっ、ケース様しばしお待ち下さい」

 エルに小声で止められる。

「トリュ様は本日の来舞ライブ前に例の魔術のイメージを固めておられるようです」

「――……あっ、あの話覚えてくれていたんですね?」

 以前、トリュに話した俺の世界の『アイドル』によくある光景の話だ。 


「――――よしっ! 何とかなるだろ! イメージは固まった! これでケースの舞台ステージを彩る事が出来るはずだ!」


 どうするのか解らないが、トリュは魔術で協力してくれるんだろう。


「トリュ様、それではケース様の衣装の方もお願いします」

 エルはすっかり俺の衣装担当になってしまった。

「はいよ。ほら」

 トリュはパチン、と指を鳴らす。俺とエルの前に青い衣装が浮き上がる。


 エルの作ってくれた衣装は青基調の軍服モチーフで、スッキリと清潔感が有る。

 偶然、俺の最推しの『スターメイカー・プロジェクト』の日園ひぞの霧葉きりはちゃんのメイン衣装も軍服をアレンジしたモノだ。なのでとても親近感が湧くしリスペクト精神も湧き上がる。


「エルが衣装を作ってくれて本当に良かったです! テンションが上ります!」

「それは良かったです! やはり舞台の上でパフォーマンスをするのにも、似合うのは勿論、お客様もケース様も喜ぶお好きな衣装を着ていただくのが何よりかと思いますので――」

「に、似合いますかね? はは……」

 俺は照れてしまった。

「はい! お似合いになりますよ!」

 エルは自信を持って俺に衣装を着付けてくれた。



 ――本番。

 着々と今日登場の愛燈アイドールたちが登場していく。

 どの愛燈も個性的で魅力的なパフォーマンスと呪歌を魅せてくれている。俺の初来舞の時もタイバンだったが、あの時より平均レベルが高い気がする。

 俺は舞台袖から出演者たちを見ていた。


「みんな凄いな……」

 俺の独り言に対して、ケイトがぬっと現れた。

「そりゃ、ユメイ・マッカートニー指名の前座がふたりも揃う舞台ですもの! お客の入りだって違うし他のメンバーの気合いだって違うわ!」


 よく見るとケイトは普段以上に艶やかで豪華なゴスロリ衣装に全身を包んでいた。これが彼女の舞台衣装なのか……。


「次はワタシの出番よ。本来はアンタじゃなくてワタシがラストなんだからね! よく目に焼き付けておきなさい!」


 ケイトが威勢よく舞台に飛び出して行った。彼女の曲は衣装に見合うゴシック系? と言うのだろうか。芸術的なイントロが印象に残る。


 トリュとフジノさんが後ろからやって来る。エルはいつものように客席の方から鑑賞しているようだった。

「あんな性格だが彼女もユメイに認められた実力者だ。よく見ておけよ~!」

「……あんな性格ですが、ケイトはこの街一番の実力派なので。よろしくお願いしますね」

「はい! 勉強させてもらいます」


 ケイトのパフォーマンスは、呪歌は情熱的で魅惑的だった。

 観客一人ひとりが心を撃ち抜かれていると思う。

 俺も、彼女が歌う間だけは彼女が恋人になったかのような不思議な感覚が有った。別に下心で言ってるんじゃないぞ!


「凄いですね……彼女、魅力的だし魅了してくる……」

「それが彼女の呪歌ですから」

 フジノさんがふふっと微笑む。

「こんな呪歌ですから、主に異性に人気が有りますが同性からも人気が高いんですよ」


 確かに、客席を見ると彼女の曲で身体を揺らしているのは男女半々と言ったところだ。

 今日入っているお客さんの殆どはケイト目当てでやって来たんだろう。


 このお客さんたちを、俺も楽しませなくちゃいけないのか……。その数約500人。緊張が走る。


「ま、今日からは俺も直接バックアップするから。上手く行ったらいいなお前の作戦」

 トリュが俺の緊張を見透かしたように声を掛けてきた。

「これで責任も解りやすく折半だ。だからお前は目の前のパフォーマンスに集中してこい!」

「…………はい!」


 ケイトの舞台が終わる。どれも圧巻のパフォーマンスだった。俺は拍手していた。


「……はぁ。はぁ。拍手なんかしてゴキゲンでも取ってるつもり!? 次はアンタの番なのに余裕じゃない!」


 息を切らせながら舞台袖に戻ってきたケイトが俺に噛み付く。ラストは盛大に持り上げていたもんな。息も切れるだろう。


「いや、俺は純粋にケイトの舞台が凄かったから拍手していただけで他意は無いです――」

「アンタの舞台、ここからじっくり見てやるんだからねっ! さっさと始めなさいよ!」

 ケイトが俺を急かす。確かに、早く始めないとケイト目当てだったお客さんたちは帰ってしまいかねない。


「トリュ、行きます――!」

「おう、こっちも準備万端だ! 暴れてこいケース!」


 トリュが俺の背中を押す。俺は舞台にそのまま飛び出ていった――――


 イントロが流れ、俺が歌い始める。

 すると、観客の右手が青い光をまとい始めた。


 会場がざわつく。俺はこれも予定どおりと言った風に歌を止めない。


「さあ右手を上げて手を振ってください――!」


 俺は客席を煽った。客席から、少しずつ青い光が揺れ始める。

 俺が元の世界の『アイドル』の現場で見慣れていたけどこの世界の『愛燈』には無かった光景はこれだ。


 観客席からあふれるサイリウムの光――――

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ドルオタな俺、召喚されてアイドルになってしまった! 木野ココ @kino_coco

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