第7話
まず単純に速い、そして軌道に馴染みが無い。相手が人間なら、打ち込んでくる際になんらかの予兆らしきものがあるのが大半だ。肩が前に出る、腕が下がるなど、予備動作があるものなのに、熊にはそれが見当たらない、いや正確にはある、あるけど、それがまだわからない。純粋に近づいてくる前脚にリアクションして、反撃を打ち込むことはできると思う。でも傷を負わせることはできないだろう。毛皮と脂肪に阻まれる。先に当てれば勝ちというのじゃない、生き残った方が勝ちなんだ。似ているようで全くルールが違う。だめだ考え始めたら負ける、落ち着け佐野美琴、考えるな。無意識で、半覚醒で対処しなければ。「熱いと感じたら既に手を離している。熱いから、火傷するから、だから手を離そう。と考えないでしょう。気づいたらそうしてる」、行動より、反射が速い。初めて剣道を教わった先生がそう教えてくれた。アクションよりリアクション。全身をうならせて突進してきた熊の鼻に剣先を向かわせ、身体を捻って避けに徹する。ギリのギリだ。熊の体温が感じられるほど近くですり抜ける。振り返ると切っ先が当たったのか、熊の鼻から血が出ているのが確認できた。「逃げるしかない」そう思うより早く体は逃げていた。
熊は当座の目標にしていたターゲットが逃げ出したのを見て、自らの生き残こる可能性を探したのだろう、一瞬だけ動きに迷いが出た。その隙を見逃さなかった。矢が放たれ、決死の勢いで踏み込んできた兵士の槍が突き刺さる。それでも熊は威嚇するかのように両前脚を掲げて立ち上がった。怖い、そう感じたのを憶えている。そのときの熊は、実際よりも大きく見えていた。熊としては俺たちが恐れをなして逃げ出してくれるのに望みを賭けたのかもしれない。だがそれが命取りだった。立ち上がった熊の胸元、正中線上に深々と槍が突き立てられた。ほとんど抱きつかんとするほど近い。しばらくは暴れていたものの、やがて熊は動かなくなった。
モイ爺によると最近は熊の被害が多いらしい、まぁ、あれだけ山の木々を切り倒してればそうなると思ったので、なぜあんなに木を切るのか聞いてみた。
理由のひとつは造船のため、もうひとつは製鉄のためだった。シラヒコの命令によって大量の舟と鉄が作られていた。ずっと煙が上がっているところがあったのだが、そこがタタラ場だったようだ。ムレ国で作っている舟はいままで俺たちが乗ってきた舟とは違っていた。丸太を掘って作ってあるところまでは同じだが、舷側がつけられていたり、飾りのようなものが付いている。そして大きい舟が多かった。あの大きさの舟だと、元は相当な巨木だと思われた。
大緯度サーティスリー YS @ystm
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