与謝野アキコの生涯を描いた傑作である。
大河ラノベ、と銘打っている通り、堅苦しく難しい言い回しは登場しない。
少年バトル漫画のようなノリと明るさで、サクサクと読ませてくれる。
女が自分の気持ちを自由に歌にするだけで問題となってしまう時代。
バケモノじみた才能とスキャンダルの両輪を乗りこなし、アキコが暴れまくる。
序盤はその脚色の軽妙さに大笑いさせられ、後半は物語の中で起こる出来事に泣かされっぱなしだった。物語が終わる頃には、この物語を書いてくれたことを作者に感謝した。
1878年から1942年まで生きたアキコの生涯を追うことは、必然的に日本が帝国主義を拡大していく歴史を追うこととなる。
戦争へと突き進む国の中で、文学に何ができるのか? できたのか?
なぜわたしたちは詩や物語など、本当のことではない嘘を紙に書いて残そうとするのか。
ワガママなこどものようなアキコの生涯を追うことで、その答えが見える気がする。
すごく面白かったです!!
ライトノベルのスタイルで大河ドラマをやる、というところがまず斬新でした。(皆さんは「大河ラノベ」という言葉の並びを見たことがありましたか? 私は初めてでした!)
ストーリーも、史実と脚色をバランスよく織り交ぜて、ライトノベル的な高い娯楽性を保っていたのが印象的でした。
主人公・与謝野アキコに、親友の山川トミコ、ライバルの平塚ライチョウ、先達世代のボス・森オウガイなど、歴史に名を残す文化人たちを生き生きと蘇らせていて、近代文学の世界を身近に感じられました!
中でも個人的には、山川トミコとの友情と離別が深く心に残りました。
アキコの一生を追いながら、日露戦争や関東大震災、二度の世界大戦と、この国の進んだ道のりを描く、「歴史もの」としての面白さがありました。
それと同時に、より普遍的なテーマ――人はなぜ文学をするのか、人は何のために生き、何のために愛するのか、についての描き方がすごく好きでした。
そこで印象深かったのが平安時代編です。
アキコの敬愛する『源氏物語』の作者・紫式部(カオルコ)と、『枕草子』の作者・清少納言(ナギコ)を中心とした物語が、作品全体のスケールと奥行きをぐっと増したと感じました。
敗れても、失っても、心は、想いは残る。
それを遺し、繋げることで、誰がが救われる――それは千年先かもしれない。
アキコもライチョウも、カオルコもナギコも、みんな大切なものを失う、戦いに敗れる経験をしてきたキャラクター達で、だからこそ彼らの信念が尊く感じられるんですね。
そして、エピローグで現代にバトンを繋ぐ、というラストに、すごく良い余韻を感じました。
与謝野アキコというキャラクターを通して、どんな過酷な時代をも生き延びる文学や人の心の美しさを感じました!
素敵な作品をありがとうございました!!
また次の作品も読ませて頂きます♪
胸の奥に焼き付いたのは、与謝野アキコという存在の「生々しさ」。
時代の常識や家族の期待、男たちの欲望や社会の抑圧をあざ笑い、怒鳴り、時に泣き叫びながら突き破っていく、圧倒的な「生きた女」の姿がここにある。
「文字で書けばなにを言ってもいいんだ!」という原初の歓喜。
言葉に自分を乗せて世界を切り開く、彼女の全ての行動の原理だ。
与謝野テッカンとの出会いは、アキコにとって肉体的な欲望と創作の興奮がごちゃ混ぜになった瞬間だった。
「やわはだの熱き血潮に触れもみで」と、男社会のど真ん中で自らの性愛を堂々と詠み上げるアキコ。
その衝撃は当時の日本社会を根底から揺るがし、女学生たちに「自分の人生を自分で選ぶ」という火を灯した。
スキャンダルやバッシングに晒されても全く臆さず、決して自分の言葉を手放さないアキコ。
弟チュウザブロウが日露戦争に徴兵されると、「君死にたまふことなかれ」と叫び、家族の命を国家よりも重いと歌い上げる。
「不敬」「反逆」と罵られながらも、その叫びは同じ痛みを抱えた無数の人々の心に突き刺さる。
文学は戦争を止められない。病気の友人も救えない。
けれど、アキコは「それでも書く」と決意する。
自分の痛みも、誰かの悲しみも、言葉にして残すことで、いつか誰かが救われるかもしれないと信じて。
この物語には、山川トミコや林タキノ、平塚ライチョウ、森オウガイといった個性豊かな登場人物が次々と現れる。
トミコとの友情と別れ、テッカンとの愛と葛藤、ライチョウとの論争と共闘。
どの人間関係も、美談や理想像などではなく、嫉妬や裏切り、欲望や絶望が渦巻く「生のドラマ」として描かれる。
特にアキコと平塚ライチョウの思想的な対決は、本作における重要な核である。
ふたりの激突は単なるフェミニズム論争を超え、「人間は本来どう生きるべきか」「自由とはなにか」という根源的な問いにまで達する。
時に罵倒し合い、時に涙を流しながらも、最後には酒を酌み交わし、「またぶつかろう」と笑い合う2人の姿は、痛快で、そして切ない。
やがてアキコは自らの文学的ルーツ「源氏物語」と向き合い、紫式部との千年を超えた対話を始める。
文学の永遠性と「愛されたいと願うこと」の根深さを見つめ直し、絶望の中から再び立ち上がる。
愛も文学も、無限ではない。
しかし「生きること」「書くこと」を肯定し続けるアキコの姿は、読む者全ての心に火を灯す。
与謝野アキコという烈女は、時代をぶち壊し、愛に殉じ、そして言葉で世界を変えた。
彼女の叫びは、今もなお、私たちの中に生きている。
この物語は、烈火のような女が、時代を超えて“生きる”とは何かを問い続ける、圧倒的な物語体験である。
未読のあなたに、是非このひりつくような火傷を味わってほしい。