第6話
「サノギはワケ、なるか」
「ワケ?」
「スメラミよりワカレタという」
モイ爺が合わせた手を離すジェスチャーをしながら問いかける。
サノギ、つまりサノ男神のミコト様が答える
「彼女じゃないし、会ったこともないし」
そういう別れたじゃないだろう。どうやら分家って意味が近いようだ。
「それなら俺にも聞くべきじゃないのか。ユキ、ヒコだし」
「ヒコ、アマタ、ユキハ、コゴル、よくないナ」
どうやら王族と血の繋がりがある者は、大勢いるので、珍しくもないようだ。多過ぎて自称ヒコ、自称ヒメなんてのがいるらしい。ユキは「雪」や「命が去ること」で、名前には使わないらしく、俺はあまり信じられてないみたいだ、なんだか釈然としない。俺もカツラギだぞ。カツラ、ギ、つまりカツラ男神のユキヒコじゃないか。
ひとりで憤慨しているとナリがやってきた。なにやらモイと話し合っている。
「サノギ、ユキヒコ、ナツユキきまる、シラオオキミヨブ」
シラヒコの治めるナツ国に行くことになったようだ。モイ爺だけでなく、このクニにもとからいる人たちはシラヒコのことをシラオオキミとは呼ばない。ナリ兄弟やそのお供がいる場だけオオキミと呼ぶ。
突然騒々しく武装した若者がナリのもとへ駆け込んできた。
どうやらヒモロギで熊が出たらしい。禿山の上にある建物のあたりだ。儀式を行う準備をしてた巫女たちが襲われたという。俺たちも武器をとって山に向かう。
血を流している人たちと、折れた木々、荒らされた道具が散乱していた。どうやら熊は社殿のなかに逃げ込んだようだ。槍や剣を構えた男衆が周りを囲んでいる。
駆けつけた兵士たちが武器や盾を打ち鳴らし、威嚇を始めた。声を張りあげながら一人が社殿に進んで行く。射手(いて)が矢をつがえる。
「どん!」
あと数歩にまで近づいたところで、熊が姿をあらわした。でかい。兵士の背丈より頭ふたつは大きい。兵士の盾が弾き飛ばされる、放たれた一矢が前脚に突き刺さったが、刹那も動きを止めない。地響きのような唸り声と、血の混じったよだれを撒き散らしてこちらに突進してくる。
速い! 俺が持っているのはただの棒だ。一度、弓を撃たせてもらったが、とても狙って引けるものでは無かった。弓の張りが強すぎるのだ。いまの自分が使えそうなものとして棒を手に取った。
「ミコト逃げろ!」
ミコトはもらった剣を抜いていたが、打ち込むことなく身をかわした。
「これ無理っぽい。当たったら死ぬ」
「すげぇ速い」
兵士が投げた槍が毛皮に弾かれる。
振り下ろされた前脚が地面に着くやいなや、反対の前脚が振り上げられている。意志を持って弾んでいる巨大なボールのようだ。急に方向を変え、背後から近づいていた兵士が突き飛ばされる。転んだ兵士に巨躯をしならせ襲いかかった。熊の左脇腹に槍が突き刺さる。ナリが突きこんだのだ。一瞬動きを止めた熊に矢が降り注ぐ。次々に刺さるが、まだ致命傷とはならない。
向きを変えミコトを襲ってきた。グッと踏み込むが、熊は怯まない。慌てて身をよじり躱す。「まずい、まずい。ありえなーい」ミコトの目が見たことない程の真剣さを帯びている。熊にも知恵があるのは確かのようだ。明らかに弱い俺たちの方を突破しようして決めたらしい。
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