最終話

 俺は気付けば、雲の上にいた。


 ふわふわとしてるが、しっかり地に足はつく。

 雲の地平線? 雲平線でいいのか?

 とりあえず地面の代わりの雲以外は青空しかない。


 どこだ、ここは?

 確か俺は空飛ぶデカい黒トカゲを、鬱陶しいから殴り倒したんだ。

 

 その後に、リーベの笑顔を見て……。



 ――既視感を感じる。



 嫌な予感がした俺は、天の上にいるはずなのに天を見上げる。


「よっ!!」


「…………」


 俺が見上げた上空には、幼女が背中に生えた小さい羽を動かし飛んでいた。

 金髪ショートカットの頭の上には輪っかが浮いている。


 第三世界の邪神、アカリである。

 最悪だ、また会うことになろうとは。


「ちっ」


「舌打ちしてんなよっ!! ウチは神だぞ!! 偉いんだぞ!! 崇めろよっ!!」


 俺が絶賛今最も嫌っているヤツはプンスカしながら、手足を振り回す。

 

 その仮定で白いパンツが見えた。

 うぜぇ。汚ぇもん見せるな。五十メートル助走をつけてぶん殴るぞ。


「まさか【四大災厄】終焉の黒龍を倒すとはねーっ!! 超予想外!! 超ナイス!!」


「……ってことはお前の差金ではないってことか。ナイスってのはどういう意味だ?」


 【四大災厄】である終焉の黒龍が俺の所に来たのは、俺の寿命が関係していたと予想はしていたが、それ以外にアカリが神具の実験などの要因から俺の元に送った、という可能性も考えていた。


 アカリの反応からして前者の予想で合っていたみたいだが。


「んーっと、説明し辛いんだけど、第三世界の人間をウチが強くし過ぎたのっ! 第三世界の人間は異様に強かったでしょ!? あんたと比べて!!」


 確かに第七世界では無敵だった俺が最弱だったことから、第三世界の人間は一般人ですら異様に強かったと言える。

 だからこそ文明も第七世界に比べて遅れていたのかもしれんな。


「【四大災厄】は私のクソ上司であるバカ創造主が仕込んだモンなのよっ!! 第三世界で人間の枠を超える程の強い人間が出て来たらソイツをぶっ殺すためにねっ!!」


 よくわからんが、強過ぎる人間が出て来たら創造主とやらにとって不都合でもあるのだろうか?


「それが、神具の【スキルカウンター】を持っている俺という異物に惹かれてやってきた……ってことか?」


「そーゆーことっ! イレギュラーを排除しに来たアンチウィルスソフトって感じっ!!」



 ――だが、一つ解せん。



「何故お前は第三世界の人間をあそこまで強くした? 俺が元いた第七世界以外の世界に比べても強いんだろう?」



 アカリなら面白がって強くしたとかも考えられるが……。



「それはねーっ!!」



 まさかな……。






「第三世界の中でも選りすぐりの人間をウチの天使にして、クソ上司のバカ創造主に対してクーデターを起こすためよっ!!」






 ――そうだ。コイツは俺の予想の遥か上をいくアホだった。



「ほんっとあのバカ、やれマニュアルだ、やれ規則だってうっさいのよねっ!! ウチがぶっ殺して次の創造主になって、ウチの思い通りの世界を作ってやんのよっ!! たははーっ!!」


 創造主とかいうお偉いさんに心底同情する。

 アカリの世界で強い人間が現れたら殺すのもやむを得ん訳だ。

 きっと【四大災厄】を第三世界に送ったのは断腸の思いだったのだろう。


 第三世界の人々よ。

 お前らが崇めている神は、やはり邪神のようだぞ。


「だから【四大災厄】の一つを倒してくれたあんたはナイスっ!! 神具の実験体になるどころか、ウチの面倒を一つ消してくれるなんてねっ!! グッジョブ!!」


「おかげで死んだがな」


 俺の感情は死に、無表情となる。

 【四大災厄】がアカリのせいであの世界にいるのなら、コイツに俺は殺されたのと同じだろうが。


 ま、今更とやかく言うつもりもない。

 悪くない死に方ではあったからな。


「あんた死んでないけど?」



「――は?」



 ……死んだからここにいるんじゃないのか?


 俺が生きている?

 カウンターの表示が『1』の状態で、カウンターを回してスキルを使ったんだぞ。


「【スキルカウンター】を見てみっ!」


 俺はカウンターの表示を見る――。



 そこには『2』の数字が表示されていた。



 俺の寿命は残り二日残っているということになる。

 つまり、俺は生きている。


「……どういうことだ、これは。俺は寿命が一日の状態でスキルを使って死んだはず……」


「まぁ一回死んだからここに来たんだけどねーっ! ウチの天使候補と側にいたもう一人をあんた見てないの!? あんたが消える前に笑ってたっしょ!?」


 リーベ……それにシュティレか……?

 リーベの笑顔は見たが、死が確定した後で意味がないと思っていた。


 シュティレの笑顔は見ていなかったが……あいつも笑うんだな。

 ほくそ笑む顔なら想像出来るが。

 

「第七世界で転生したらゴキブリだっただけ、ゴキブリ並の生命力ねっ!! まさか【スキルカウンター】のルールを利用して生き返るなんて!! たははーっ」


「……ふんっ」


 まさか死んでなお、世話になるとはな。

 この借りは返さねばならん。

 借りを作りっぱなしなのは趣味じゃない。


「で、二日の寿命の俺はどうなるんだ? 結局第七世界には帰れないんだろう? だったら第三世界の元の場所に帰せ」


 まずは、戻ったらリーベに「ありがとう」と言おう。

 礼を言うと何か負けた気もするが、やむを得ん。命の恩人だからな。

 シュティレは……あいつはどうでもいいか。


 リーベは俺が帰ってきたら、喜んでくれるんだろうか?

 リーベは……また笑ってくれるだろうか?


 第七世界にいた頃は、誰かのことを考えたことなんてなかった。

 第三世界に来て俺は、どうやら変わってしまったようだ。


 これからも第三世界に居れば、俺は変わり続けるのか?

 リーベともう一度会えば、その答えも見つかるだろう。



 ――変わるからといって、悪い気はしないがな。



「いやいや、駄目駄目っ!! あんたにゃ他の場所に行かせるからっ!! 残りの【四大災厄】を命懸けで倒してもらわないといけないし、スキルカウンターの実験も一回じゃねーっ!! ウチは使える物は壊れるまで使う主義だっ!! たははーっ」


「…………」


 こいつは神なんかじゃない。ましてや邪神どころじゃない。

 悪夢と死を世界規模で巻き散らす、極悪非道の死神だ。


「場所はどこがいいかなー? 今回も天使候補がいる場所が良いに決まってるわよねーっ!! よーし、決めたぞーっ!!」


 アカリが鼻歌まじりに何かを考えている。


「……マジか……お前……おい! やめろ!!」


 ちょっと待て。

 このパターンは――。


「うぉっ!?」


 俺の足元の雲に突如穴が空き、俺は大地へと落下した。


「んじゃ、頑張ってねー! ばいばーいっ!!」


「この糞神!! 絶対次こそぶん殴ってやるからなぁぁ!!」


 俺は陽気に手を降るアカリに一方的に別れを告げられ、再び第三世界へと旅立つこととなった。



 【一撃必殺】するために――。


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一撃必殺~転移したらスライム以下のステータスだったが、寿命を減らして一撃必殺~ 穴ポコ @anapoko

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