進まない任務

 正式に凛音がギルドメンバーとなり、防御向上が全員に付与され、凛音の魔力量の半分ほどに値する物理魔法耐性がついた。僕らを傷付けることは不可能に近い。とはいえ、慢心は敗北を導く。敗北の先にあるのは死だ。


「さて仕事の続きだな。凛音はどうする? 都の警備にあたるか?」


「いや、折角の機会だ。皆の戦闘を見たい。都も結界は張り直したし、危険人物も見当たらなかった。大丈夫だろう。一応指揮を大賢者ソロモンに預けておこう」


「よし、決まりだな。取り敢えず例の小屋に行ってみようか」


 仄華が声を上げる


「現地調査だー!」


「正しくは再調査だけどな」


「えへへ、そうだった」


「防御向上があるとはいえ、相手の強さは未知数だ。気を抜くなよ?」


「「「了解!」」」


 ***


 歩いて小屋に向かっているのだが、本当に防御向上がかかっているのか分からない。防御向上とはいえ、強制的に重い鎧を着せられる訳でもないし、動きにくくなる訳でもない。

 そう不安がっていると凛音が詳細ステータスを見せてくれた。


 体力 1000

 物理攻撃力 50+200

 魔法威力 測定不能

 物理耐性 0+200

 魔法耐性 100+200


 どうやら僕の詳細のようだ。

 確かに防御関連の値に+200が付いている。しかし、物理攻撃力にも反映されているのは何故だろう。まぁいい。今度考えよう。


「ありがと凛音。ちょっと気が楽になったよ」


「今にも不安に押し潰されそうな表情だったからな。これくらいの事はして当然だ」


 また顔に出ていたのか。本当に気を付けないとな。


「あ、見えてきたよー」


 仄華の指先を辿れば例の小屋がある。


「確かに暗黒魔力を感じるな」


 流石凜音だ。この距離で察知出来るとは。僕でも何とか魔力を拾える距離だ。

 しかし妙だ。今日は暗黒魔力しか感じられない。この前の不思議な魔力は消えている。


(やはり協力者がいたのか? だから僕らの奇襲にいち早く気付き、痕跡を消して逃げられたということか?)


 そんな時だった。不意に強力な魔力を感じたのは。


「楓! 危ない!」


 楓が振り向くのと、彼の頭に矢が刺さるのは同じタイミングだった。いや、彼がのは。


「流石に痛いな。防御力は上昇しても痛みを感じなくなるわけじゃないか」


 こんなにも硬くなるのか……勿論楓の元々の防御力の高さもあるだろうが、あの速さで射たれた矢が刺さらないのは異常だ。これが凛音の影響力か。


「す、すげぇな楓。無傷かよ。なるほど、罠が張られているのか。前回の襲撃はやっぱりバレてたんだ」


「そうだろうな。しかし魔力は動いていない。罠が作動したが、目標にはバレていないようだ。進もう」


 凛音は至って冷静だ。瞬時に状況を把握、分析するだけの頭脳もある。

 楓は自信満々だ。もしかしたらさっきの罠も気付いていたのかもしれない。勇敢だ。

 仄華は終始にこにこしている。理由を尋ねたところ、女子が増えて嬉しいそうだ。でも油断している訳ではない。さっきの罠にも反応していた。

 僕は……何もしていない。怖気付いてしまっている。情けない事この上ない。

 しかし、いつまでもうじうじしてはいられない。すぐそこに敵がいるのだ。それも強敵が。

 しかも僕らは情報を全く持っていない。相手がどんな魔法を使ってくるのか、どんな体質持ちなのか。それすらも分かっていない。非常に危険な任務だ。

 さっきのように突然矢が降り注ぐかもしれないし、特殊結界に閉じ込められるかもしれない。

 僕らをけている奴に刺されることだって十分に有り得る。巧妙に魔力を隠しているが、気配は消しきれていない。気付いているのは僕だけだろう。

 凛音の様子を見る限り目標は動いていないらしい。尾けられているのに気付いたから少し小屋から離れた。迂闊にも僕の魔力感知範囲から出てしまったが、凛音がいるから大丈夫だろう。

 しかし誰だろう。僕らを尾けたところで有益な情報がでてくる訳ではないし、得にならないと思うのだが。

 ファンならまだ良いのだが、敵国の暗殺者アサシンだった場合非常にマズイ。僕らは凛音を連れている。都の柱の1人である凛音を失えば騎士団だけでなく、都自体が廃れてしまう。それは避けなければいけない。凛音を護るのは僕らの役目だ。

 とはいえ護りようがないのも確かだ。仕方ない。伝言を送ろう。


『仄華、楓、凛音、聴こえるか?』


 3人が頷く。


『僕らは今尾けられている。このまま任務を遂行するのは危険と判断した。だから一旦小屋が離れつつ、尾けてきている奴の正体を暴こうと思う。良ければ頷いてくれ』


 3人が首肯する。


『ありがとう。じゃあ引き返そう。取り敢えず開けた平原に行こう。開けた場所ならそいつも姿を現すか撒けるだろう』


 それとなく立ち止まり、来た道を引き返す。気配は立ち止まった。僕らが横を通り過ぎ、暫くして再び尾け始めた。


(やはり着いてきてるな。しかし妙だ。一切魔力を感じない。気配も隠している訳ではないようだ)


 思考を巡らせながら暫く進み、ようやく平原に着いた。


(問題はここからだ。姿を現してくれるのか?)


 ここは見晴らしがいい。誰かに話しかけるふりをして後ろを盗みみれば、何者かくらいはわかるだろう。背中に気配を感じながら歩を進める。

 平原に出ても気配は着いてきている。念の為にもう少し進む。逃げられないように。

 平原の真ん中くらいに着いた時、僕は唐突に振り返った。するとそこに居たのは「猫」だった。


「猫? 猫が僕らの後を尾けて来ていたのか?」


 3人も走り寄ってきて


「何この猫……可愛い」


「猫か……うん、猫だな」


「愛らしいな」


 と口々に言い合う。

 その横で僕は1人で納得していた。


(なるほど。確かに猫は魔力を持たない。だから気配しか感じなかったんだ)


 ただ、同時に疑問も湧いた。何故猫が後を尾けてくる? そんな悩みは一瞬で吹き飛んだ。


「お、餌が欲しいのか? これしか持ってねぇけど……炫、これ食わせても大丈夫か?」


 楓が手に持っているのはキャットフード。


「勿論良いだろうけど、なんで持ってるのさ……」


「非常食的な?」


「馬鹿だ……」


 そして意外にも一番喜んでいたのは凛音だった。


「ひ、炫っ。この猫も連れて行くのは駄目?」


 口調が崩れるほど喜んでいるようだ。


「別にいいけど……世話は出来るの?」


「で、出来なくても何とかするからっ!」


 興奮状態だ。これは収めようがないな。そう判断した僕は同行を許可する。


「んーまぁいいよ。癒し要員も必要だし」


「名前はどうする? 折角だし名付けてやろうぜ」


 各々が思い付いた名前を挙げていく。だが猫は首を横に振るだけだった。


「ルビィ」


 僕はそう呟いた。

 すると猫は僕の腕に飛び込んできた。


「肯定してるのか?」


 猫は頷いた。


「みんなはどうだ? ルビィで良いか?」


 3人とも頷いてくれた。


「なんでルビィなの?」


 凛音が理由を尋ねた。僕は思った事をそのまま言葉にする。


「目の色だよ。綺麗な紅色だろ? 宝石のルビーみたいだなって思って」


 すると凛音は深く頷いて


「流石だな炫」


 と称賛をくれた。


 そして猫改めルビィが仲間に加わった。

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幼馴染みが強すぎて、ギルドリーダーの僕は何も出来ない件 鈴響聖夜 @seiya-writer

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