新団員

 神の援助で見つけた目標は動く事なく留まり続けている。眠っているのだろうか。


「仄華、楓、あそこだ。あの小屋の中に現時点で最も怪しい人がいる。どうする?」


「突っ込む?」


「馬鹿だろ。確かに2人なら余裕でボコボコだろうけどな」


「まずは情報集めね。敵の数を把握しないと」


「そうだな。あと相手の属性も知っておきたい」


「英霊に行ってもらうか? 仄華の英霊達の色仕掛けとか」


「楓が見たいだけだろ」


「だから違うって!」


「まぁ何はともあれ捕縛する必要はある。2人が良ければ突撃してもらう。どうだ?」


「「全然いける」」


「よし、作戦決行だ!」


「「了解!」」


 僕は動かずに魔力感知精度を上げる。

 仄華は正面から堂々と。長い髪を後ろで一括りにし、臨戦態勢だ。

 楓は上から逃げ場を塞ぐ。どうやら空間特異点の応用で浮遊しているようだ。また強くなっている。


『聴こえる? 敵の数は1。属性は暗黒。ただ恐らく二属性者だ。もう一つは分からない。くれぐれもボコボコにするなよ? 冤罪だったら僕らの立場は無くなる。捕縛に努めよう。よし。突入だ』


 その伝言テレパシーを合図に、仄華が扉を蹴破る、が突入しない。どうかしたのか?


『仄華? どうしたんだ?』


「誰もいないよ? 中にあるのは机と椅子だけ。生活痕跡もない。よく分からないからちょっと来て」


 どういう事だろう。取り敢えず行くか。


 楓が降り立ち、僕が走って小屋の前に着く。扉の中を覗くが、仄華の言う通り誰もいない。ただ、なんとなく嫌な予感がする。


「なんだろう。なんだか気味が悪いな。ここに何かあるのは間違いない。一度都に戻ろう。凛音の指示を仰ぐべきだ」


「そうだな。戻るかーお腹減ったー」


「呑気だな……」


 念のため、背後に迫る気配がないかを感じながら来た道を戻っていく。


 ***


 何事も無く、凛音の元に辿り着いた。


「おかえり。何か進展はあったか?」


 横に首を振る。


「そうか。そう気を落とすな。易々と任務をこなせて来ていた今までが正直言って異常だ」


「いや、そうじゃないんだよ。確かに犯人の魔力はそこにあるのに、誰もいなかったんだ。意味が分からないよ」


「ほぅなかなか面白いな。目標は何属性だ?」


「多分暗黒と、もう一つ何かだと思う。稀に生まれる二属性かな」


「いや、暗黒属性なら違う。二属性保有は自然の魔法属性じゃないと出来ない。そこから考えられるのは、その場に目標が2人いた説と、妨害魔力ジャミングがかけられていた説、あとは出来れば考えたくないが、突然変異説、といったところか」


「あぁそうだな。なんにせよ面倒な目標だ。どういう仕組みかは分からないが姿も見えない。そこを対処しないといつ後ろから刺されるか分からないぞ。」


 うんうんと頭を捻る僕らに打開策を与えてくれたのは、意外にも楓だった。


「なぁ。凛音もこのギルドに入れたらどうだ? 4人いればギルド特性も付くだろ?」


 そうか。その手があったか。

 確かに4人いればギルド特性というものが着く。冒険者ギルドなら取得率向上ドロップアップだが、僕らは騎士ギルドだ。戦闘向き、このメンバーなら防御率向上ガードアップが適当だろう。凛音の防御率向上が全員に付けば、そこらのやつでは傷一つ付けられない。


「僕らとしては大歓迎なんだけど、凛音はどうかな?」


「私なんぞが役立てるならば、この命、喜んで差し出そう」


 すごく心強い。勿論仄華や楓の実力は本物だし、杞憂だろうがなんだか怖い。もし2人が倒れてしまった時、僕は何が出来るだろう。感情に任せて魔力を暴走させることも出来ない。かと言って冷静で居ても、相手にかすり傷も与えられない。

 2人には申し訳ないが、僕は頼ることしか出来ない。せめてと思って2人の取り分は多めに、僕は必要最低限の金額だけで、残りは2人に回している。勿論バレないように。

 だから凛音の存在はこのギルドにおいて、とても大きなものになる。常に防御ガードを張り続ける事で2人を失うことは防げる。このギルドに置ける柱は仄華、楓、凛音の3人だ。僕は形だけのリーダーでしかない。手際良く入団手続きを済ませる凛音は、とても大人びて見える。リーダーを渡すのもひとつの最善策なのかもしれない。


「あ、炫。また暗いこと考えてたでしょ」


 仄華は僕の思考を読んだかのようにそう問いかけた。


「あぁ、ごめん。何故わかったんだ?」


「顔に書いてあったよ?」


 どうやら僕は感情が顔に出やすいらしい。気を付けよう。


「何考えてたのかは知らないけど、私達には炫が必要なの。ね?」


 楓も凛音も賛同するように頷く。


「そうだと良いけど、僕は足でまといになってる」


 そう言うと3人は間抜けな顔をして見せた。


「何言ってるの? この前のお仕事だって炫が時間を稼いでくれたから安全にこなせたし、今日だって、炫と凛音の考察意味分からなかったもん。ね、楓?」


「そうだぞ。戦略を立てて分かりやすく教えてくれるのは炫の役割だろ? 炫が居なかったら俺らはもう死んでる。それくらい大切な仲間なんだ」


「泣かせてくれるじゃねぇか」


「涙の1粒も見えないぞ?」


「天然出てるぞ凛音……」


 慰められてしまった。形だけとはいえリーダーなんだ。チームの士気を下げてどうする。


「ありがとうな」


「え、炫が感謝した……明日は暴風ハリケーンか?」


「楓、覚えてろよ」


「嘘ですごめんなさい」


「よろしい」


 そう言って全員で声を上げて笑った。

 そうだ。僕らは「弱き者の護り手」なんだ。リーダーたるものドッシリしていなくては。


「今よりも平和で幸せな世界を創ろうぜ!」


「「「おーー!」」」


 そして僕らは友情を確かめ合い、新世界リ・クリエイション・ワールドを作る為に小さくも大きな一歩を踏み出した。

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