手掛かり
僕と楓は仄華を呼ぶ為に、彼女の暮らす寮を目指している。目立つことが嫌いな僕たちだったが、女子寮に近づくに連れて好奇の眼を向けられた。仕方のない事だが、やはり辛い。
顔を伏せて早足で歩く。
(仄華め。よりによって一番遠い女子寮に住みやがって)
理不尽な愚痴を頭の中で呟き、やっとのことで女子寮に着いた。取り付けられたインターホンを鳴らす。
「はーい誰ー?」
「炫です。仄華いる?」
「仄華ー彼氏さん来たよー」
インターホンから意味不明な言葉が聞こえてきたが、仄華はいるようだ。良かった。もし居ないとなると、女子寮を回って探す羽目になる。それをしなくてはいけないなら仄華を連れて行かないつもりだった。
「彼氏ー? あー炫の事か。だから違うってばーただの幼馴染みだってー」
なんだか告白してもないのに振られた気分だ。いやそんな事は考えないようにしよう。虚しいだけだ。
「んーお待たせー! どうしたの?」
「仕事だってよ。準備しておいで」
「りょーかーい」
さてこれでもう笑われる事なく地獄を脱出できる。
そういえば楓は静かだな。どこ行ったんだ?
そう思い振り返ると、楓は女子の
暫く眺めていると楓が大衆を引き連れたままこっちに来た。
「お前ら、炫の方がどう見てもイケメンだぜ? 俺なんか足元にも及んでいないくらいに」
「何言ってんの楓くーん! こんな冴えない人興味ないもん!」
oh……凄いダメージだ。見ず知らずの人に拒絶されるとは。
「そうだぞ楓くん。僕なんか気にしないで彼女たちの願いでも叶えてやりな」
「待って炫おかしくない!? 助けてよ!」
「仄華が出てくるまでは助けないよ」
「仄華ぁー! 早くしてー!」
「やだ!逃がさないよ楓くん!」
「やめろー!」
なんて平和な会話だろう。微笑ましい限りだ。僕は傷付けられただけだし。早くここを出たいのは同感だ。仄華早くしろ。
「ん、お待たせー行こっか炫」
「だな、楓置いていくか」
「聞こえてんぞ! ちょ、助けて!」
「自分で振り切って逃げなよ。僕らは何もできないよ」
「酷い! くそっ仕方ないな。お前ら覚悟しろよっ! 空間特異点!」
上空3mほどの高さに一瞬特異点が発生し、取り巻きが吹き飛ぶ。
「ごめんな。もう行かなきゃだから」
「楓……実は嬉しかったんだろ。嫌ならすぐに吹き飛ばしてたくせに」
「やめて!? 変な誤解しないで!」
「へぇー楓はそういう事が好きだったんだね。じゃあまたおいでよ。いつでも今日の再現できるよ?」
「仄華まで!? もー早く仕事行こー。一刻も早くこの場から去りたい。いつさっきの人達が追いかけて来るかわかったもんじゃない」
「「ふーん」」
「やめてそのゲス顔!」
「とまぁ冗談はこの辺にして、今日の仕事はなんだっけ? 楓を弄るのが仕事だっけ」
「違うから! 魔力供給装置がどこから来たのかを調べるんでしょ!?」
「そうだったね。取り敢えず見つけた場所に行こうか」
「切替早っ」
真顔をかましてやる。
「え、何で無言なの……」
「すーん」
「え……」
「はい! そこまでっ! 仕事に集中するよ!」
「仄華の言う通りだぞ楓。集中しろ」
「酷い……」
本当に平和なもんだ。ほんの数年前なら、こうして道を歩いているだけで山賊や盗賊に襲われるような世界だった。この平和が保たれているのは凛音のおかげだ。彼女が年中無休で都に特殊結界を張っている事で、危険人物が都に立ち入る事はできない。入ろうとした場合強制的に、都から10km離れた検問所に飛ばされ、尋問を受けるようになっている。
しかし、昨日は結界が破られていた。今は凛音が都に結界をかけ、強力な
(少しでも早く原因を解明して、凛音の手伝いをしてやりたい)
その為にも集中するんだ。
「着いたぞ。ここだ」
「ここ? こんなただの平原に供給装置が現れたのか?」
「あぁ間違いない。その証拠に、ほらな」
飛び散っていた小さな破片を拾い上げる。
「確かにこれは供給装置の破片ね。でも魔力は感じられない」
「時間が経ってるからな。自然消滅したんだろう」
「うーん。どうやって探るつもりなんだ?」
「心配ない。ちょっと魔法を使わせてもらうよ。特殊詠唱開始。血盟に従えし
途端に視界が晴れ渡り、世界を俯瞰する。この中で特定の物体を探し出す。
まず初めの情報は、朝8時にこの場所にいた人物。そう願うと100ほどの視点が見える。朝この場所で列に並んだ人達だろう。
次の情報は、列に並んだ後自宅に戻らなかった人物。すると3つに絞れた。
見る限り2人は仕事のようだ。残った1人はどこにいるのだろう。視野を広げる。
ここは……どこだ? 全く知らない場所だ。今ある場所からそう遠くない。行ってみるか。
「楓、仄華、行くよ。南東に3kmだ。そこに元凶がいると思う」
「おっす」
「了解っ!」
謎に満ちた事件の元凶を探しに歩き出した。
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