民宿にて
小丘真知
民宿にて
若い頃、ある民宿に泊まったんです。
日中、弾丸で観光をしたのでへとへとでした。
夕食もお酒も美味しかったし、心ゆくまで温泉を楽しみたい思いもありましたが、次の日の予定もあったので早々に床につきました。
その深夜、金縛りにあいました。
全く体は動かず、目の自由だけが許される中、出入口の襖がそっと開き、暗闇の奥から和装の男性がのそのそと歩み寄ってくるのが見えました。
逃げたい!
でも、体は動かない!
どんどん近づいてきて、私を見下ろすように横に座ったその男性の顔を、思わず見てしまいました。
両目がありません。
穴が空いたように真っ黒だったんです。
恐怖のあまり、私は声にならない声をあげていましたが、そんな私に構うことなくその男性は、ゆっくりと太ももあたりに両手を伸ばし、ぐぐぐぐぐっと力を込めてきたんです。
痛い!
太ももの中心あたりに指を押し当て、ぐりぐりぐりとねじ込んできます。
痛い!とにかく痛い!
金縛りで動けないため、ただ痛みに耐えるしかありませんでした。
このまま殺されてしまうんじゃないか。
そんな恐怖感に押しつぶされそうになったとき
少しずつ太ももの中心あたりが熱を持ちはじめ、痛みが和らぐ感じがしたんです。
筋肉がほぐれ、歩き疲れて硬くなっていた四頭筋の血行が良くなっているような…?
き…気持ちいい。
右の太ももの次は左の太もも、そして両方のふくらはぎと施術は進み、最後に両肩をぐりぐりぐりと揉みほぐされて、肩だけでなく首を伝って頭も軽くなりました。
体の深いところから、ゆっくりと睡魔が訪れてくるのを感じながら、まぶたが重くなっていくのに任せると、もう朝でした。
本当に久しぶり、何年かぶりと言って良いと思います。
あんなに気持ちの良い目覚めは。
こりや筋肉痛が一切なく、すっきりとした体になっていて、昨日の疲れが嘘のようだったんですから。
もう一泊する予定だったので、今度はうつ伏せに寝ようと思いましたね。
民宿にて 小丘真知 @co_oka_machi_01
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます