第6話 町の危機
勇者はきょろきょろと辺りを見回していた。誰かを探しているようだ。すると家の中からユーリの父親のアルベが現れ、勇者に挨拶した。勇者はアルベに気づくと、笑みを浮かべて彼に近づいた。勇者は彼と少し会話すると、家の中に入っていった。
俺は二人が家の中で何をしようとしているのか気になり、ヒョウに断りを入れて家に帰った。
勇者とアルベは、今で胡坐をかいて向き合い、話し合っていた。
「巨大狼は本当にいたんですね」
勇者が訊くと、アルベはこくりと頷いた。
「普通の狼ではなく?」
「はい。普通の狼の体高は七十センチくらいですが、一か月前に見た狼たちは二メートルは余裕に超えていました。それに、一昨日町に現れた狼も体高は二メートル十七センチでした」
勇者は険しい表情で二度頷いた。
「狼の群れはどこで見ましたか」
「ここから一キロメートル東にある森です。あそこは元々小さな怪物が住んでいるんですが、あんなに大きな怪物を見るのは初めてです」
「そうですか……。どこからか移動してきたのかな? でもここの近くには狼が住んでいそうなところはないしなぁ。恐らく、その狼たちは長い旅をしてその森に辿り着いたんだと思います」
アルベは不安そうな表情で勇者を見つめた。
「あの、倒してくれるんですよね」
「はい。倒しますよ。でも、今では手掛かりが少ない。巨大狼にもたくさんの種類があるんです。殺せば呪いにかかってしまうのもあれば、死体からゾンビとして蘇る奴もいる。そういう厄介な種類だった場合、対処方法は全く異なってきます。種類がわからないまま倒してしまうと、痛い目に遭うでしょう。不安な気持ちもわかりますが、落ち着いて」
アルベはぎこちない様子で頷いた。
ほう。一昨日の夜に出会ったあの犬は只者ではなかったらしい。にも係わらず、俺はあいつに声をかけて家に連れてこようとしたわけだ。家が近くになくて本当に良かった。鯖缶をすべて食べられるところだった。
「もっと、何か情報はありませんか? 見た目だとか、他にはない特徴があったとか」
アルベはうーんと首を捻って考えた。
「一か月前に見つけた時は深夜二時だったし、一昨日見つけて倒した時も、腐った臭いを嗅ぎつけて狼の仲間たちが来るのではないかと考えてすぐに処理してしまったので」
「そうですか」
勇者は残念そうな顔をした。どうやら解決までは長い時間がかかりそうなようだ。
「でも、倒した時に誰も呪いにかかったりしてないんですよね?」
「はい。誰も」
「それはよかった。その巨大狼は呪いを持つタイプではないようだ。それだけでもわかっていれば、あとはどうにかなるかもしれない」
アルベは顔を明るくした。
「本当ですかっ」
「はい。しかし、まだいろいろな可能性があります。慎重に行動するので、長い時間がかかってしまうのは変わりません。少なくとも一日はかかるでしょう」
「たった一日! この一か月間の不安に考えればそのくらいどうってことないです」
アルベは少し興奮気味だった。今までの不満の対象があともう少しで除かkれるのだと思うと、喜ばずにはいられないらしい。
「それじゃあ、僕は狼の調査に行きますので」
勇者は頭を下げると、家から出て行った。狼の調査に行くということだが、あの森に行くのだろうか。なんとなくだが面白そうだ。
俺は走って家から出ると、勇者の後を追った。
猫の異世界旅行生活 渡辺猪狗 @watake0409look
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