第2話

 召喚され、サラの話を聞いてから一夜明け、宿屋で朝食を食べた後のキョウジ。朝なのに黄昏たそがれていた。


「俺って、不運だよね?」


 サラから渡されたノートに、この世界の事がある程度書かれていた。それは大変ありがたかった、おまけに地図付き。それはまだいい、問題はキョウジのステータスにあった。朝起きてからステータスを再確認し、自分の出来ることを確認してみた。剣の素振りをしてみたが、ご都合主義は存在しないのかスキルは取れず。魔法使いが居るなら、自分も魔法と試行錯誤してみたが、使える気配は丸でなかった。これで心が折れない人がいたら、キョウジは誉めてやりたいと思った。


「こんな事なら、サラさんに『修行』お願いしようかな?」


 今のキョウジは、魔王退治以前に戦う術がなく、街から出ることも困難の様に思えた。まぁ普通、魔王退治の武器と言えば、大概の場合は魔剣や聖剣が当たり前と、現代日本から召喚されたキョウジは思っているが、この世界には魔剣や聖剣の様な武具は存在せず。キョウジが与えられた装備品は、この世界の冒険者では上等の部類でした。そんな事も知らないキョウジにすれば、日本のオタク文化が頭にあるので、レベルやスキルが当たり前に取得して、能力値も無限に上昇すると思っても仕方ないのですが、現実にはそんな事は有り得ないのでした。


「不運だ··········」




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 キョウジが宿屋で黄昏ている頃、聖教国聖都の教皇執務室には。



「さて、殿は使えるのですか?」

「レベルは低いそうですが、能力値は前回勇者殿を越えて居るそうです。ただ······」

「ただ?」

「クラスが『』ではなかったそうです」

「構わん!異世界からのであれば、でも勇者である。神々の意思が全てである。良いですか?今までも、そして此れからもです」

「判りました。それともう一つ、あの魔女が勇者殿と接触したそうです」




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 キョウジはノートに従い街から出て、近くのダンジョンに向かう事にした。修行と言う名の時間稼ぎ、そして日銭稼ぎの為にダンジョンに籠ろうとしていた。そのキョウジの前に、一匹の犬の様な動物が現れた。その犬はノートに描かれていた『シャドウドッグ』と呼ばれる魔物であるが、キョウジにすれば魔物でも動物でも代わりなく、ただの驚異以外の何者でもなかった。始めに睨み合い、次に腰にさした剣の柄を掴み、そして剣を構えてみた。しかしその姿は腰が引けて、剣を必要以上に突きだして不格好な姿勢で、とても戦える物ではなかった。然し其れでも『闘わない』と言う選択肢は、今のキョウジにはあり得なかった。と言うより、シャドウドッグの方が牙をむき出しに、今にもキョウジに襲いかかろうとしていた。

「不幸だよね?何が悲しゅうて、行きなりの犬系モンスに遭遇?普通のRPGなら此処は『スライム』と相場が決まってるよね?」

 そんな事を言っても、シャドウドッグが居なくなる訳でも無く、逃げるに逃げられない状態でした。そのキョウジの迷いを感じたのか、シャドウドッグは一気にキョウジに迫っていた。

「こっちに来るなよ!」

 恐怖のために目を閉じ、闇雲に剣を振り回したキョウジですが、運良く剣がシャドウドッグに当たったらしく、『ギャン!』と悲鳴を上げたので、キョウジは恐る恐る片目を開けると、腹を切られて瀕死のシャドウドッグが倒れていた。

「俺が殺ったのか?」

 辺りに誰も居ない事を確認して、恐る恐るシャドウドッグに目をやると、既に事切れた死体だけが残されていた。どうやら運が良かったらしく、一撃で止めをさせたようだが、その死体をどうしようと悩んだが。

「マジックバックに入らないかな?」

すると死体がその場から消えた。その光景を見たキョウジは、マジックバックの中を覗いて見ると、シャドウドッグの死体が有ることが小さく見えていた。

 不思議に思ったキョウジは、マジックバックに手を入れてみるが、鞄の底に触れる事すらなかった。

「どうやって取り出すんだ?」

 すると鞄の上に、ステータス表示と同様のメニューが現れ、鞄の中の収納されているリストが見えた。

「リストが見えた?このリストの俺のスマホを·······。出ろ!」

 キョウジが念じると、目の前に淡い光に包まれたスマホが現れ、ユックリ地面に降りていった。慌てて浮いているスマホをキャッチすると、光は消えて手にはスマホがしっかり握られていました。

「成る程。使い方も判ったところで、お財布とノートも入れてっと」

 一通りバッグに詰めたキョウジは、手にしたスマホの確認をすると、画面上には予想通りアンテナは立ってなく、それどころか電池の残量が異様に減っていた。

「電池がヤバイ。使えないから電源を落として、これもバッグに入れときますか」

 手早くバックに入れる物は入れ、バックを背負い、剣を手にダンジョンに向かって歩き始めるのでした。



********************




 キョウジが初めての戦闘を経験していた頃、冒険者ギルド本部の会議室に数名の男女がいました。

「サラ様。今回の勇者にお会いに成られたとか?」

 会議室の最奥に座る、威圧感を出している壮年の男性は、鍛え抜かれた身体は嘗ては戦士職と思われる、全ての冒険者ギルドを纏めるギルド長でした。

「はい。前々から助力を依頼されてましたから。多少は異世界の方に理解がある私が出た方が良いかと」

「ご配慮ありがとうございます。勇者召喚に詳しい者は、今のところサラ様と先代様だけ」

「聖教国に逆らってまで、回復魔法を目指す者も居りませんか?私の場合、初代様に仕込まれましたから」

「私も初代様に師事致しましたが、回復魔法は教えて貰えませんでした」

「仕方ありません。最初の試練を越えれない者には、使う事が出来ないそうですから」

「初代様のお陰で、多くの魔術師を排出する事が出来。冒険者ギルドも恩恵を受け、今に至っています」

 冒険者ギルドは、サラの家が管理する私塾と連携した、魔術師を排出するクラスを運営していた。そのクラスからは、冒険者に適した教育を施され、フィールドワークもこなせる魔術師を排出していた。

 そんな私塾は、国家間の垣根だけでなく、身分の垣根を越えて人材教育をする事で、優秀な人材を排出していました。

「これからは手はず通り、勇者を影から支援するで良いのですな?」

「はい。これまでの勇者のように、持ち込まれたものを購入し、情報を与えるだけで結構です」

「恨まれますね」

「うむ」

「私がフォローするので、協力をお願いします」

 勇者に接触する事を規制され、直接介入出来ない冒険者ギルドは、聖教国を刺激しない様に遠回しな援助をする為に、更なる話し合いを続けるのでした。




********************




 ダンジョンの在る村に、キョウジがたどり着いたのはお昼前の時間でした。サラから貰ったノートに書かれていた、村唯一の宿屋件食堂に入ると其処は、冒険者ギルドと共用の建物でした。

 キョウジがドアを開けたときに、入店者を知らせるベルが鳴り、その音にカウンター前に居たウエイトレスらしい少女が振り向く。店内は昼前の所為か閑散としていて、少女はカウンター内厨房に居るシェフと会話中の様だった。それでもキョウジが入って来たんを確認すると、少女は流れるような動作で近付くと。


「いらっしゃいませ。お食事ですか?それともギルドにご用ですか?」

「食事と宿の手配をお願いします。それと、ダンジョンに入る手続きもお願いします」

「お食事はランチセットでよろしいでしょうか?」

「お願いします」

「賜りました。宿のお部屋は後程ご案内いたします。それと、ダンジョンは制限がございませんので、一声掛けていただければ入場できます」

「ありがとうございます」

 ウエイトレスの少女はキョウジを残し、カウンターへ向かって注文を伝えると、カウンターテーブルの上に置いてある何かを取ると、キョウジの下に戻ってきました。

「この宿帳に、お名前をお書きください。それと先程良い忘れましたが、宿屋代一泊二千G に成ります」

「分かりました。えーと、キョウジと」

「宿泊代にお食事も含まれますので、お得に成りますよ」

「助かります」


 キョウジは知りませんでしたが、サラが手を回して協力を取り付けていて、キョウジが来たら万全のサポートを依頼していました。ギルドは元々召喚勇者への協力を、聖教国に打診していましたが、勇者の成長の妨げになるので介入をしてくれるなと、強硬な姿勢を崩さなかった為に間接的支援にとどめていた。しかし何代か前の勇者がギルドに登録したことがあり、聖教国側からギルドに勇者の保護権を理由に強制脱退を求めた事件が起きた。ギルドは個人の権利に対する侵害を訴えたが、勇者本人が騒ぎを大きくすること嫌い、脱退することで事を納める事件があった。それ以来ギルドは、聖教国側に苦情を言われない程度の支援を取るように成っていた。今回はサラが素早く対処して、勇者の情報をギルドに流したことで、問題が起きないように出来たのです。

 そんな事とは知らないキョウジは、待遇の良さに。


「モテキ?今、モテキ?」と能天気な事を考えていた。


 食事を終えたキョウジは。

「あのー。これからダンジョンに向かいますが、注意することはありますか?」

「ここのダンジョンは、1~5階は初心者向けと言われてます。6階に通じる部屋の前に、ボスモンスターが居ますので気を付けてください」

「部屋の前に居るんですか?」

「誰かが討伐した場合、数時間は居ない場合がありますが、居ない時に部屋に入ってしまった場合。一度でもボスモンスターを倒していればそのまま通過できますが、未討伐の場合は行き止まりに成るそうです」

「6階以降は?」

「1~5階のレベルアップされたダンジョンに成ります。つまり、初心者向けが新人向けに成ったようなものです」

「何層構造までか分かりますか?」

「ここのダンジョンでは、その先がある事は分かっていますが。踏破する時間と費用対効果で、10階以降進んだ人は居ませんので未だ不明となっています」

「何故?初心者でも問題がないなら、制覇して人がいても可笑しくないのでは?」

「何と言いますか、実入りが悪すぎて初心者しか居ないと言うのが真相なんです。レベルが上がると、とたんにアイテムが入手出来なくなります。休憩スポットも、転移アイテムも無いので長時間探索が出来ません。」

「つまり、初心者の練習用?」

「はい」

 新人向けのダンジョン階層で、殆んどアイテムが入手出来なく成り、レベルアップも出来なく成ってダンジョンを去る事が、既に慣例化しているとの事でした。それでもキョウジはウエイトレスに、ダンジョンに向かうことを伝え入っていく事にした。


 キョウジは初心者向け、低レベルでも問題がないモンスターしか出現しない、チュートリアル的なダンジョンに居ました。故にへっぴり腰のキョウジでも順調に進むことが出来、それこそ一階は雑魚の代名詞のスライムから始まり、獣型のモンスターの『角ウサギ』『ラージラット』や精々『コボルト』が大半で、子供でも武器があれば対処に困らない場所でした。

「他の冒険者に出会いませよ?流石、ビギナー向けダンジョン」

 雑魚敵が相手と言う事もあり、敵から目を離さなければ、攻撃を避けて剣を当てることは出来る様に成っていました。多少は腰が引けては居ましたが、初めの頃に比べれば様に成ってきていました。

「黒歴史が役に立つとは、人生分からんもんだなぁ」

 隠れオタクの『厨二病』患者だったキョウジ、過去に封印してきたものが異世界転移を切っ掛けに、表面化している事に戦慄するのでした。

「魔法が使えてたら、『俺の〰️』とか言いつつ、魔法を使っていた可能性もあったのか?使えなくて良かったのかもしれん」

 倒したモンスターを片っ端からマジックバックに入れ、1階を順調に進みながらサラから貰ったノートに、ダンジョンの道筋を記録していた。



*******************



「初代様に連絡が着きましたし、キョウジの様子も気になります。時間が取れ次第、様子を見に行きましょうか?」

 机の上に有るタブレットPCの様なものを、机の引き出しにしまった。



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 キョウジの知らない処で、運命の輪が大きく回りだし、世界の真実が暴かれることに成る。

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不幸な召喚者 ~召喚勇者(暫定)は真実を掴めるか【Get Truh・異世界伝】~ ミド=リアル @mido-rial

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