不幸な召喚者 ~召喚勇者(暫定)は真実を掴めるか【Get Truh・異世界伝】~

ミド=リアル

第1話



 その日、異界とのゲートが開いた時に、一人の少年が異世界に召喚された。



 少年の名は、『神大寺京児じんだいじきょうじ』どこにでも居そうな高校生で、取り立てて特徴もない、平凡な少年と言ってよかった。


 勉強も運動も平均と、どこのクラスに一人は居そうなその少年が、偶然にゲートの影響を受けて不安定になっていた座標、その近くにいた事が原因で彼自身も存在が不安定になり、異世界でたまたま行われていた召喚魔法に巻き込まれて、異世界に渡って行ったのです。平凡でそして不運な、彼の冒険が始まる。




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 だ。誰が何と言おうが不運だ。コンビニ行った帰りに、気付けば西洋風の石造りの部屋に、ファンタジー小説の登場人物のような魔術師に司祭、これでもかと言わんがバカリの。経験値の少ない俺でもわかるダメダメ異世界召喚パターンだ。さっきから司祭風のおっさんが、何か俺に訴えかけて来ているが、俺には関係ない話だと断言できる。何が勇者だ!ふざけるにも程が或る。魔王を倒せ?馬鹿か?帰還するには魔王を倒して、帰還の魔法を得る必要がある?勝手すぎる。褒賞もなく、倒せば帰還?本気か?ただ働きの勇者召喚?死んだらそれまで、そんなのは消耗品ではないか。まかり間違えて、魔王を倒しても帰還できないなら、今度は俺が迫害される未来しかないぞ?


 かと言って、このままでも帰る見込みがないのも事実。実に不運だ。




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 である。儂の代での召喚の儀、旨く行けば歴史に名を刻むチャンスである。


 司祭より、神からの啓示が下りたと聞いた時は、正に千載一遇。他国に対して貸を作るまたとない機会。これを機に我が王国の発言力を強めて見せよう。



 正に神の思し召し、啓示を受けた私こそ次代の教皇。総て上手くいけば、権力も富も思うが儘。正に私にふさわしい栄誉。召喚された者を見れば、まだ若い小僧ではないか。うまく言いくるめ、私の役に立ってもらいましょう。



 哀れな、このような若者が召喚されるとは。どう見ても戦う者には見えんし、魔力もそれ程あるようにも見えん。このままでは、死出に旅になり兼ねんぞ。王命と言われ、召喚陣の起動に協力したが、間違いであったかもしれん。




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「ステータスオープン!」



異世界召喚の基本ネタを、思わず口にした俺は唖然とした。




名前:キョウジ・ジンダイジ


レベル:召喚者しょうかんしゃレベル.1


BP:-



HP:50


MP:20



身体:10


精神:10


集中:10


命運:10



スキル:無$$



加護:悪縁あくえん【************】



所持金:10万G(日本円で、約20万円。俺の命の値段、安くない?)




 俺弱くねぇ?『勇者』じゃないし。スキル:無$$って何?加護【悪縁】の効果がわからないんですけど!



 あの後俺は、城のメイドによって着替えさせられ、やたらと軽い金属製の鎧とブレードソード。木製のスモールシールドに、申し訳程度の金具が付けられ、本当に役に立つのかわからない装備を身に着け、謁見の間で簡素と言って良いであろう出立式で、王城から放り出され今に至る。不運だ。


 魔王への道案内役は?そんな奴はいない。


 何でも、魔王の拠点は分かっているので、地図一枚と銀貨の詰まった革袋(普通、金貨じゃねぇ?)と、旅で必要と思われる物を入れた背負い袋を渡されていた。


「旅のお供もなく、一人で魔王を倒せと?」無茶苦茶である。レベル.1に倒せる訳があるか!不運だ。





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「召喚された勇者の件。他国に伝令を出しまた。また、教皇様よりお言葉が有ります」

「教皇殿から?どのような」

「召喚の儀。神々の覚えあり。偉業達成、感謝のみで有ると」

「そのお言葉、感激であると。お伝えくだされ」


 王と司祭の茶番である。その場に居た騎士達は勿論、召喚に力を貸した魔術師も、どこかあきれ返った空気を出していたが、王と司祭は気付く事すらなかった。


 そしてその場から、魔術師が挨拶もなく去っていくが。誰も気に留める者はいなかった。




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「不運だ。巻き込まれ召喚なら、何も考えないで逃げの一手だけど。本命召喚なのに『勇者』じゃない?あの王様と司祭なら、外向きに、大々的に召喚アピールしそうだよなぁ?逃げ場がないかも?」

「その通りですわ」

「ハイ~?」


 キョウジの背後に、貴族令嬢と思わしき少女が一人、両腕を組んで偉そうに仁王立ちしていた。


「あの~。どちら様ですか?」

「サラ=コ=バーヤーカワー。一応は、隣国エッツの爵位持ちで、冒険者S級所持者ですわ」

「貴族のS級冒険者様が、私めに何の御用が?」


 小市民を地で行く、平凡不運少年キョウジは、突如現れたお貴族様にへりくだった。これは仕方が無いであろう、いきなりの上から目線攻撃に対抗する術を、経験値の無い少年が対打ち出来る訳がなかった。


「用が有るから声を掛けたのです。詳しい事は、あのレストランでお話いたしますわ」


 サラが指示した所に、庶民向けでは無いであろうレストランが鎮座し、思わず自分の懐の銀貨の袋を見るキョウジ。付いて行くのを躊躇って居ると。


「私の奢りですわ。チャッチャと付いて来なさい!」

「は、はい~!・・・・・不運だ・・・・・。」





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 サラに連れられ、高級レストランに入ると、給仕に案内され奥の個室に通された。キョウジは中に入ると思わず。


「某タイヤメーカー認定、ミツボシレストランやー!」

「何アホな事を言っていますの、兎に角席にお着きなさい」


 キョウジがサラの対面の席に着くと、まるでタイミングを合わせた様に、給仕が料理を運び込みテーブルが埋まると。


「先ずワ料理を、お召し上がりなさい」


 サラがそう言いながらテーブルの上にある、不自然に置かれた青い石に手をかざす。すると青い石から部屋全体に、一瞬だけ光が駆け抜ける。


「あの~。今のは一体?」

「結界魔法です。内密な話や、誰にも聞かれたく無い話しが有る時、商談などでよく使う魔法です。覚えて置くと便利ですわ」

「成る程ー。すると、私に内密のお話があると?」

「この国ジーシュの王城で、魔術師殿カーマクにお会いしましたね?彼からの伝言を頼まれました」

「あぁ~、あの魔術師ですか?」

「一応言って置きますが、彼は賢者候補、世に名の通った『魔術師』です。昔のよしみも有り、今回はあなたに伝言と忠告に参りましたの」

「伝言?忠告?どう言う事です?」

魔術師殿カーマクからの伝言は、王バッガイと司祭アーフルの言葉は信用するな。裏取りをするので、それまでは目立つ様な行動は避けてとの事ですわ」


 食事を取りながら、サラは何事もなかったかのように、自分の食事をすすめていた。


「それと、私が知っている異世界召喚についてお話し致しますわ」


(あれ?このお嬢様、結構いい人なのか?)とキョウジが内心思っていると、サラは見下したような目で睨んでいたので、慌てて背筋を伸ばした。それを確認したサラは、仕方ないといった様子で話を続けるのでした。


「元々異世界召喚とは、太古の時代の『聖魔戦争せいませんそう』期に、最初の召喚が行われたと言われております」

「最初?」

「はい。ただその後、聖魔戦争を潜り抜けた魔物の王が現れ、その対処の為に再び異世界召喚が行われたと言われております」

「今回も?」

「私が調べたところ、この国の司祭の下に神託が降りたのは間違いなく。その前は別の国で、約50年前だと聞いています」

「それは、何が言いたいのです?」

「あなたを含めて、召喚勇者はかなりの人数に及んでいます。私が危惧しているのは、どの歴史書を調べても勇者の帰還を示す記述は有りませんでした」

「勇者のその後は?」

「記述はやはりありません。そこで私たちは、約50年前の勇者を探しています。彼を見つけ出す事が出来れば、異世界召喚における勇者の意義を知ることが出来るでしょう」

「すると?」


 サラの話によると、魔王の出現頻度が異様に高く。また召喚は神託により各国の持ち回りで行われ、勇者召喚を成功した国は『神に愛されし国』として、他国に対して権威を誇ることが出来る。また、召喚された勇者が負けたとて、勇者が準備を怠っただけで国に責任はなし、との神託がその都度必ず降りていると言う。


「勇者召喚は消耗品扱いで間違い無し?」

「その可能性がある、と言えるだけです。確信が有る訳ではなく、あくまで推測の範疇。私自身が、貴族である以上、国に対しては勿論。神の教義に対しても、異を唱える事は出来ません」

「はぁ~。······やっぱり不運だ·······」




*******************





「あの~、一つお聞きしたい事が·······」

「私で答えられる事であれば?」

「ステータスについて、わかる範囲でお教えお願いします」


 サラは呆れた様な顔をすると、どこから出したのか一枚のカードをテーブルに置いた。


「このカードは、冒険者ギルドで発行しています。その際に魔機を使って、登録者のステータスを読み取ります。基本情報として、登録者の名前。レベル。基本能力値。これらが記録され、当人のみがその数値を確認できます。普通の場合はそれで確認しますが、召喚勇者はスキルや加護が強力な為、冒険者の仕事を奪ってしまうので冒険者登録は出来ない決まりです。ただし、自分のステータスは確認出来る筈ですが?」

「ステータスは確認出来る。問題は比較対象が分からないので、数値に問題が無いか分からないので、この世界の平均値を聞きたいんですけど?」

「平均値ですか?そうですね、この世界で冒険者はF~S級に分けられ、一番多いのがC級だと思います。そのC級冒険者でHPとMPは、職業で前後しますが平均16。能力値は各7前後ですね」

「低くないですか?」

「あなたが何を基準にしているか分かりませんが、一般市民や貴族の平均値はHP·MP10。能力値は各5が平均値だと聞いています」


 実のところ、キョウジのステータスはこの世界の基準で言えば、ほぼ最強に近い能力値なのだが。基本、レベルやスキルの恩恵で、何が出来るか分からないキョウジにすれば、このステータスに不安しか感じていなかった。そして最後にサラは、ウエストポーチの様な鞄を差し出すと。


「この鞄は、あなたが城に残してきた私物と、金貨が入っているそうよ。空間拡張が掛けられた鞄なので、大切に使いなさい」

「ありがとうございます」


(これは俗に言う『マジックバック』か?)


「御礼は魔術師殿カーマクに言って上げなさい。私は頼まれただけ。後は、無理はしないで、のんびりこの世界を楽しみなさい」

「楽しめと言われましても」

「実際のところ、魔王が行動を起こしている訳ではないので、急ぐ必要はないのですよ。私達が情報を整理してからでも問題はないでしょう。何か言われるようであれば、『修行中』と言えば大丈夫ですよ」

「本当ですか?」

「最悪の場合、私の名前を出しなさい」

「いいんですか?」

「それなりの権威は有ります。今は自分が出来ることを確認して、どうしても心配なら私が修行をつけてあげます」

「修行はまた今度で」

「判りました。それと、冒険者登録は出来ませんが、魔物の買い取りはしてくれる筈です。もし魔物の討伐した時は、ギルドに持ち込みなさい」


 サラは微笑みを浮かべると、を差し出した。


「そのノートに、この世界の事がある程度書かれています。後で読む事をオススメします」


 キョウジは、手渡されたノートに違和感を覚えたが、それを『マジックバック』に仕舞った。そして二人は食事を済ますと、食堂を出て宿屋を紹介して貰い別れた。


「ヤッパリ俺って、不運なんだろうな?」






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