絢爛の紅聖月~001~

@gurennsutera13100512

月夜の蛮行

「ハア、ハァ、くそっ!、う゛ァッ、まずいまずまずいっ!」


王都の貧民街。その裏路地を一人の少年が逃げていた。


元々綺麗だった学生服は破れ、足には酷い火傷の痕。右腕は負傷しているのか、血が断続的に地面へと落ちる。


体力の限界のようで、火傷を負った足を引きずり、壁にもたれ掛かりながら、少しでも離れようと必死に逃げていた。


「クソクソクソッ!!、どっどうすればっ!。こっ殺される!!、誰か!!・・・」


何者かに追われているようで、表情に余裕はない。時間は夜、警備兵は既に職を終え、助けは来ない。


それでも、希望を求め、少年は少しずつ、貧民街を移動する。貧民街を出ても追ってこない確証はない、しかし、少年は縋るしかない。例え儚い希望だとしても、生きるために。少年は進む。




辺りは人々の怒号が聞こえ、夜の静寂を打ち壊している。足音が縦横無尽に響き渡り、そこらかしこに人の走る影が壁に投射される。




「どうだ??!!。」




「いねぇ!!。上手いこと逃げやがった!!。」




「クソガキがよぉ!!、ただじゃ殺さねぇ!」




「まだそう遠くには行ってねぇはずだ!あの傷じゃあ到底走れねえよ。くまなく探せ!!」




「おい!!、血だ!!、続いてるぞ!!」


すぐ近くでそんな会話が耳に入る。




「はぁ、はぁ、チッ!!、クソ!!、どうしようもねえ!!」


どんどん近づいてくる足音が少年の冷静な判断を奪ったのか、思わず叫んでしまった。




少年は歩くのを辞め、ポケットに仕舞っていた拳銃を取り出す。




残弾は2発。が、明らかにそれ以上の人数で敵は追いかけて来ている。




覚悟を決める、死ぬのなら、出来るだけ多く・・・・。




少年は慎重に足音を聞き、角を曲がり、少年のいる小道に入るであろう敵を銃を構えて待つ。


姿が見えた瞬間、発砲する。




ーー銃声。




慎重に狙いを定めた銃が火を吹き、確実に相手を絶命させる、悲鳴はない。


しかし、発砲音が響き渡ってしまう。




「おい!!!、銃声がしたぞ!!、すぐ近くだ!!」




「問題はねぇ!!、数で押せ!!、相手は一人だ!!!」




「あっ・・・・・・。」




ーー射殺。




少年は銃声を聞いて駆け付けた敵を迷いなく打ち殺す。ーー重なる死体。




少年は再び歩き出す。一人ずつ来たもは少年にとっては幸運な出来事であった。


しかし、幸運は続かない。


歩き出した直後脇道から3人が小道に入って来る。


まだ諦めない。




「いやがった!!。こっちだ!!、早く来てくれ!!!、」




後ろから2人が合流して5人になる。




なけなしの抵抗として、少年は空の銃を男たちに突きつける。




「動くな!!!!!。来たら殺す!!。」




「いおいおいおいおいおい!!、そりゃこっちのセリフだぜ??!!。」




「あとまだ6発残ってる。殺されたくなきゃ消え失せろ!!」




「ははっ、こっちわよぉ!!、てめーを連れてこねぇと殺されちまうんだよ!!」




「脅しは通用しねえぜ??」




「ああ、それに、もう弾ないだろ??、ん??」




「ッ!!」




一人の男が詰めてくる。




どうしようもなくなり、拳銃を相手の方向に投げ、逃げようとする。




が、男に足首を踏み砕かれる。


ゴキャッ、っと音が鳴り、たまらず叫ぶ。少年は倒れこみうずくまる。


「があああああああッッッ!!!!、ぐぅッげッ!!」


間髪おかず横腹を蹴られ、仰向けにさせられる。




残りの4人と更に集まってきた2人が少年の周りを囲む。




「気分はどうだ??、なあ、教えてくれよ。俺たちみたいなゴミに、殺される気分ってやつをよぉ!!!!」




「どうします??、取り敢えず、再起不能にしときますか??」




「ああ、一様殺すなよ。まだ、な?」




「へい。」


みぞうちに勢いよく靴が刺さる。




「ーーーーーーーーーッーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!」


もう一人の男が少年の顔をボールのように蹴る。




衝撃で脳が揺れ、視界がゆがみ、音が鈍くなる。


「ああ、ここで死ぬのか・・・・」


漠然と死を認識し、意識を暗闇に落とす。














数々の暴行が加えられる中、リーダー格の男がタバコを吸いながら、様子を眺めている。




「けっ、やってられないぜ、何人死んだ?、くそが。」


独り言をつぶやく。


常に生と死の狭間に立つ仕事に内心嫌気がさしていた。


さっき撃ち抜かれて死んだのは彼の親友だ。今はただの肉塊になりはて、誰も気にしていない。


何故自分がこんな事に、どうして、なぜ、


と、悲観的に考える。


ふと、気分転換に男が空を見上げると、少年の悲鳴に紛れ、微かな歌声が聞こえる。


「あっ・・・・」


男は口からタバコを落としてしまう、




思い出したのだ、よく見るとここは貧民街ではあるが、決・し・て・騒・ぎ・を・お・こ・し・て・は・い・け・な・い・区・域・で・あ・る・こ・と・を・




貧民街、いや、王都で暮らす者ならだれもが知る。暗黙の了解。




王都、ジロンドを囲む12の巨大な方尖塔、その、正門から右に4つ目の”スカラブレー方尖塔”と五つ目の”バヌアツ方尖塔”の間に位置する約首都1/12の面積を誇る地域、別名”マレクラ”。


貧民街の1/8を占め、その他、平民の居住区の一部である。




古くから、語り継がれ、それを証明するように裏のボスや闇の住人でさえ騒ぎは起こさない。


一種のセーフゾーン。




当たり前である、ライオンの眠る監獄で騒ぎを起こす奴はいない。そして眠れる獅子を起こしたものはーー




男は一目散に走り出す、部下の事など思考には存在しなかった。声も上げず、出来るだけ静かにここから立ち去るべく全力で走る。




5つ、6つ、と角を曲がり、貧民街の路地を抜け、人気の多いい、公道を目指し、やっとの事混乱する頭で土地勘を頼りに公道へ続く道の最後の角を曲がる。




と、出口には一人の少女が静かに佇んでいた。男は足を止め、数歩後ろに下がる。




男は少女が異質な存在だとすぐ気が付いていた。あり得ない存在感。さらに手に持つ鮮紅色の片手剣が夜の暗闇に溶け、剣の周囲が暗褐色に染まっている。片手には部下の頭部らしきものを4つぶら下げている。




「死神ッ!!!」




咄嗟に胸ポケットに手を伸ばし拳銃を取り出そうとする。が、しかし、鮮紅色の剣がそれよりも早く心臓に突き刺さる。




「なぁッ!!ぐぇぁッ!!」




男が状況を把握する暇もなく剣が引き抜かれ、男は地面に倒れる。




目線の先には微動だにしていない少女の姿があった。




「な、、、ぜ、、。」


ありえない、俺は一度たりとも少女から目を離していない。現に少女は動いていない、それなのに後ろから刺された。


な、、、ぜ、、、、、、、、、。




そこで男の意識は途絶える。




少女は男が完全に死んだ事を確認すると男の首を切り落とし、持っていた頭部を乱雑に捨て、王都の闇に消えていった。


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