第193話 パンデミック色々
お待たせ致しました。
『』内の言葉はその国の言葉や呼び方でソレっぽく喋っていると思ってお読み下さい。
※実在の国、人物、団体などとは全くの無関係で御座います。
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置いた盾の向こう側で、緊急事態だったから特に何の指定もしていないただの大爆発が起きた。そして、その爆風に煽られた盾が超速で吹き飛んでくるのがはっきり見える。上がっている敏捷の所為でそりゃあもう盾の事がまるっとするっと見えている。
これが死ぬ間際に起きるらしいスロモーションに見える現象じゃ無い事を祈りつつ、とりあえず賭けには勝てた事を喜んでおく。
だけどね、怖いんだよ。
ヤバイ速度でスッ飛んでくる硬いモノって......
「まぁ盾の染みになッ......ぁぁぁ......」
スローモーションな世界の中でゆっくりと鼻先から潰されていく感覚を味わい、顔面が約半分潰れるのを確認した後、俺は意識を失った。
◆◆◆◆◆
――バイオハザード
普通に生きていれば聞くことなんてそうそうない言葉だろう。だが、とあるコンテンツのお陰で、バイオハザードを示すマークは有名になり、耳にも馴染みのある言葉になっている。かゆうま。
『HAHAHA、なんだい? ハロウィーンの日はもうとっくに過ぎ去っているぞ』
これは某国に数ある
『ヴァァァァァァァ』
『HAHAHA、どうしたマイケル。とてもよく出来たコスプレじゃないか......だが、悪ふざけは良くないぞ』
この男の友人であり、ハンターの中でもランクが上でもあり、普段からお調子者なマイケルだからこそ、普通にとてもよく出来たゾンビのコスプレだと思ったのだろう。風貌、装備がマイケルのモノだったのも、この男の危機感を削いだ要因だった。
『ボブ!! 今すぐマイケルから離れるんだ!!』
異臭とただならぬ雰囲気を察知した一人のハンターが突如叫んだ。
『おいおいどうしたケニー......ッッ!?!?』
『オーマイガー......クソッタレぇぇ!!!』
意識が元マイケルから逸れた数瞬の間、それを逃さずゾンビらしきモノに成り果てたソレがボブの喉を噛み千切り......ボブは床に倒れ伏した。
突然の凶行に呆然としてしまうも、そこは最大規模ギルド所属のハンター。直ぐに下手人の駆逐に動き出した。
『おう、お前らも応援に入れ!! 油断し腐ってやがったがボブを瞬殺するようなヤツだ!! 対応出来なそうなヤツは出入口の封鎖だけしておけ!! 誰も外に出すな!! 誰も中に入れるな!! ......チッ』
この男、ケニーの出自はストリートチルドレンだった。父親は誰だかわからなく、母親はヤク中で後に路上でおっ死んでいた。
その頃のクセで思わず腰に手をやり、舌打ちをしてしまう。
『はぁ......ゾンビ相手と言ったらガンだろうが』
相棒は今では鈍器にしかならず、せいぜい暴漢への牽制程度にしか使えない。レベル10未満の人間ならば効くが......その程度だ。
風の噂で軍の野郎共がヤツらに効く銃の作成に成功したとか聞いたが、自分達に回って来る事なんて初期に制作したモノが産廃になった頃にろくでなし共が横流ししてやっとだろう。
『ヘイマイケル! 元ヒューマンだったら大人しく一回目で死んでおけ......よッ!!』
他の生きた人間には目もくれず、ボブの死にたてホヤホヤなフレッシュすぎる死体を一心不乱に喰い付いているマイケルゾンビに向かって、新相棒のポールウェポンを叩き付けるケニーだった。
『ヴァ......? オヴァァァァッ!!!』
――が、その瞬間まではボブのフレッシュミートに夢中になっており、某ハザード一作品目の記念すべきファーストゾンビみたいだったマイケルゾンビだったが、攻撃を確認した瞬間に終盤ら辺に出てくる厄介なゾンビみたいな動きに切り替わり、ケニーの攻撃を避けたばかりか目の前で醜悪な口を開いている。今まさに、ケニーは喰われようとしていた。
最初に出てくるオーソドックスなゾンビはチュートリアルじゃないのかよ!! とツッコミを入れたくなる心境のまま、知り合い故にせめて一撃で苦しむこと無く葬ってやる心算でポールウェポンを振るい特大の隙を晒しているケニー。
『ホーリーシ〇ト......ボブの筋繊維が歯に挟まってんじゃねーか......ってやべーな、お前らボケっとしてんじゃねぇぞ!! 今すぐ全員で俺諸共ゾンビをぶち殺して焼けェェ!! ボブまで動き出してん......ッッ』
今際の際でボブがオブザデッド化しているのを確認したケニーは、呆然としている味方共に叱咤を飛ばしたが、最後まで言い切る事叶わずに口裂け女ばりに大口を開けたマイケルゾンビに顔面を噛まれて沈黙した。
もう誰が見ても手遅れだった。
『う、うわぁぁぁぁぁ!!!』
ゾンビ物やパニック物は傍観者で居れるからこそ面白いのであり、いいエンターテインメントなのである。
いざ自身が当事者になってみると全く以て笑えない。モンスターと戦う事を職に選んだ猛者達だったが、噛まれれば一発アウトで自分や味方が敵になるストレス、元味方に襲いかかられるプレッシャー、リアルガチなゾンビと近接戦闘をしなければならないという恐怖でパニックは加速した。
その後、凡そギルド内に居た人数の半分という多大な犠牲を出しながら何とかゾンビ&ゾンビ予備軍を殲滅し終えた彼らだったが、悪夢は未だプロローグが始まった程度でしかなかった事をこの後思い知る。
マイケルゾンビが何処からどうやってこのギルドまで帰ってきたのか......
その道中、誰もマイケルに襲われた者は居なかったのか......
マイケルゾンビと対峙して直ぐにギルドを密閉した彼らは、外の様子など知る由もなかった。
◆◆◆◆◆
感染とはとても恐ろしいモノなのだと、令和に生きる人間は誰しもが思い知らされているだろう。
その今ではちょっと変わったただの風邪程度のレベルまで危機レベルが薄れた某コロナだったが、今でも消滅した訳ではない。
一時は都市封鎖や鎖国レベルにまで発展し、多くの人命を奪ったモノ。そんな簡単に忘れていいモノではないのだが、人間というのは喉元過ぎれば熱さを忘れる生き物である。
この時、惰性でも人々がマスク等で感染対策をしていれば......この後の結末も少しは変わっていたのかもしれない――
コロナ発祥の地と言われる国は今、機能不全に陥っていた。
『
この国のシーカー達は今、原因不明の体調不良によって大半が倒れている。それ所か、医療従事者、その関係者、親族郎党、その知り合いと倒れる人数が日毎にねずみ算式に増えていっていた。
最初にぶっ倒れた人間が発生してから約二週間、最初の人間が復調する兆しは......まだ無かった。全員意識は朦朧とし、口伝てで詳しく症状を伝える事も出来ずにいた。
『まさか......ダンジョンというモノが何か仕出かしてるアルか!?』
罹患者から採取した体液などからはウィルスが確認されている。だが、約四千年の歴史を誇るこの国は疎か世界中どこの記録を探しても似て非なるモノすら無く、当て嵌るモノは当然見付からず......
となると、ダンジョンが何かしらの関与をしていると結論付けるのは当然の帰結だろう。
何を媒体にしているのか、どのように拡がるか、潜伏期間&発症期間はどれ位か、予防方法は何か、最終的に罹患者がどうなるのか、自分自身も罹るのではないか......と、何も解らないもどかしく恐ろしい時間だけが過ぎていく。
原因を突き止める為に動かせる者は漏れなくダウンしている。秘境の様な区域に居る者はまだ大丈夫かもしれないが、伝える術も余裕も無い。
『詰んでいル......』
途方に暮れるしか、今はできる事がないのだ。
『最終的に死に至る......だったら最悪だ』
どうにかして解決の糸口を......そんな気持ちを胸に、死んだ目で患者の経過観察を続けていった。
――そんな連中を嘲笑うかのように、遠くから彼らを見つめる目があった。
それに加えてまだ彼等は気付いていない......患者の舌が少ぉしずつ細長く尖っていき、毎日地道に観察していないと気付かないスピードで伸びている事を......
血塗れ不死者のダンジョン攻略 甘党羊 @rksnns
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