81.
「
「さぁ? どうだろうね。結月が何を考えてるかは私も分からないよ。別人みたいなものだし」
言い終えて私と
「ふぅん……。透子さん、機嫌悪そうだね」
「そう見える?」
「見えるよ。ここ、皺が酔ってる」
自分の眉間を指差しながら、結陽はあっけらかんと言い切る。
透子の顔色なんて一切気にしないで、自分の思うように振る舞う姿はいっそ清々しい。
「……色々あるんだよ、私も。ごめんね、空気悪くして。ちょっと部屋で頭冷やしてくる」
「あ……」
引き留めることも出来ず、透子は食器を持って自分の部屋に戻ってしまった。
自室の扉を開ける瞬間、目が合った。
結陽には何も言うな。そういう意味の視線だろう、あれは。
もちろんまだ言うつもりはない。透子との話し合いが終わっていない以上、私も勝手は出来ない。
「変な透子さん。ねえ、これ食べて良いの?」
「あ、うん……」
目の前に置いてある夕食を不思議そうに見つめた後、私にそう聞いた。
透子と違って結陽は鮭が食べられるらしい。最初は不安気に箸でつついていたが、一口食べてしまえばどうということはない。
案外口に合ったようで、箸は止まらず動き続ける。
「食べないの?」
「……食べるよ」
結陽を倣って私も止まっていた箸を動かした。
鮭の塩焼き、ほうれん草のお浸し、お味噌汁。今日の夕食は和食で統一されている。実に結月らしい。
私はあまり和食が得意じゃないから作らないけど、反して結月は和食が得意だ。得意料理が筑前煮だと豪語する結月を見て驚いたことを覚えている。懐かしいな……。
「さっき何かあった?」
「透子のこと?」
そりゃ聞くよね……。
なんて答えたら良いのか決めかねていると、結陽は何か察したようで両手を上げた。
「私に聞かれて都合が悪いなら無理に聞かないよ。話せる時がきたら教えて」
「……ごめん」
「いいよ。元々敵同士なんだ、こうやって同じ食卓を囲んでいるだけでも奇跡だよ」
「それは……確かに」
敵同士と言われると思い出す。
結社のアジトに監禁された時、モンスターハウスで怪人に囲まれた私を助けてくれた。
怪人の手が私の体を掴んだ時、死を覚悟した。これが私の最期なんだって。
だけど、どこからか颯爽と現れた結陽が黒剣で怪人を薙ぎ払った。結陽からしたら仲間を斬っているようなものだ。
なんで私を助けたんだろう——
「春もここに皺が寄ってる。何か考え事?」
「考え事って言うか……」
……せっかくだし聞いてみるか。今の結陽ならすんなり答えてくれるかもしれないし。
「じゃあ一個だけ教えて。結社のアジトに拉致された時のことなんだけど」
「あー……良いよ、何?」
まだ敵同士だった時の話題に少しだけ顔をしかめた。
その顔を見て、悪いなと思いつつも私は話を続ける。
「私が部屋から脱出した時あったじゃん。覚えてる?」
「ダクトを通って逃げたやつだよね。覚えてるよ。まさかあんなところから逃げると思わなかったし」
「あれは、ほら……映画の影響っていうか……」
私が昔ハマっていた映画に主人公がダクトを通って脱出するシーンがあった。完全にそれを考えながら逃げたからなぁ、あの時。
「ふぅん。前例があるんだ」
「前例っていうか……今度一緒に見よう? 面白いから」
すっかり話題が逸れてしまった。聞きたい事をちゃんと聞かないと。
「それは置いといて。あの後、怪人がたくさんいた部屋に出ちゃって、私が絶体絶命の危機だったのも覚えてる?」
「覚えてるよ。あの時、本当に焦った……。あと数秒遅かったら間に合わなかったよ」
……焦ったんだ。敵である私が襲われても結陽は何も損しないのに。
「それ。それだよ、私が聞きたかったこと」
「え、なに。どういう事?」
「なんであの時、助けに来てくれたの? 人質だったとしてもコウセイジャーが死んで怒る人いないでしょ?」
結陽はポカンと口を開けたまま固まってしまった。
「それがずっと気になってて、聞きたかったんだけど……」
すっかり固まってしまっている結陽に聞いてはみたが、回答は期待できそうにない。
何も考えてなかったとか言いそう——
「そんなの決まってるじゃん」
「えっ?」
私の予想に反して結陽は即答した。聞かれるまでもないとでも言いそうな表情。なんだろう、想像も出来ないや。
「好きだから助けた。それだけ」
「…………えっ」
もしも戦隊ヒーローのレッドの中身が女の子だったら 飛鳥 @pAtowoRlD
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